トランプ政権でのドル高は一時的? その理由

“アメリカ・ファースト”とドル高は相容れない

米株式市場では“トランプ相場”も一服となり、歩調を合わせてドル高の勢いも止まっています。とはいえ、12月1日には1ドル=114円台半ばまで円安が進行し、1カ月弱で10円以上も円安に振れています。

トランプ大統領誕生なら円高ドル安との予想を覆して快進撃が続くドルですが、どこまでドル高が進むのかについては専門家の間でも意見が分かれており、早期にドル安へ転じるとの見通しも出ています。

過去のドル高局面を振り返ると、当時のホワイトハウスの意向が強く反映されていることが分かります。ドル高が続くのか、ドル安に反転するのか、トランプ次期政権の“通貨政策”が大きなカギを握るかも知れません。

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変動相場制開始後、3度目のドル高局面

1973年の変動相場制への移行後、ドル高局面としては1980年から1985年と1995年から2002年があり、2011年から続く今回のドル高は3度目のドル高局面となります。

米連邦準備理事会(FRB)が公表しているドルインデックス(対主要通貨、月次ベース)によると、1980年7月から1985年3月までに55%、1995年4月から2002年2月までに40%、そして2011年8月から2016年1月までに38%、それぞれドルが上昇しています。

FRBがドル高を懸念して利上げに慎重な姿勢を見せたことから、2016年は年初からドル安基調へと転じており、2011年から続いたドル高トレンドは終了し、ドル安トレンドが始まったのではないかと思われていた矢先、トランプ政権の誕生でドルが急反発したわけです。

通貨政策は金融政策に依存

1980年代と1990年代のドル高を担ったのは、レーガン政権(1期目)とクリントン政権(2期目)であり、何れの政権においても通貨政策としてドル高を容認していたことが特徴です。

ポリシーミックス(政策目標を達成するための財政政策、金融政策、通貨政策の組み合わせ)を分析する代表的な枠組としてマサチューセッツ・アベニュー・モデル(MAM)があります。このモデルは2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授が命名したことでも知られています。

MAMによると、通貨政策は金融政策に依存します。たとえば、米国で緩和的な金融政策が採用された場合、通貨政策はドル安以外に選択肢はないということです。ドル高を目指すことは一時的には可能であっても持続は不可能と考えられています。

レーガノミクスは財政拡大と金融引き締めでドル高

“レーガノミクス”でのポリシーミックスは、財政政策は“拡大”、金融政策は“引き締め”、通貨政策は“ドル高”でした。ただし、当初は減税により税収が増えることを前提に“小さな政府”を目指していました。緊縮的な財政政策を打ち出したつもりでしたが、目論見が外れて財政赤字が拡大してしまったというわけです。

レーガン政権では「ドル高は強いアメリカの象徴」として自画自賛していましたので、ドル高政策とのイメージが強いのですが、こちらも議論が分かれています。

レーガノミクスはマネタリズムを支柱としていますので、“市場に任せる”のが原則です。何もしなくてもマーケットメカニズムが働いてドルは適正な均衡レートへと収束すると考えていたわけです。この立場からすると、ドル高を目指していたわけではなく、勝手にドル高になったと解釈すべきとなります。

しかし、金融引き締めでドル高を“誘導”していたことは事実であり、ドル高は意図したものであったとの指摘もあります。ドル高を歓迎していたことから、少なくともドル高を容認していたことは明らかで、政権の意思はともかく外から眺める限りではドル高政策と受け止めても問題はなさそうです。

ルービノミクスは緊縮財政と金融引き締めでドル高

一方、クリントン政権は1期目に“緊縮財政、金融緩和、ドル安政策”のポリシーミックスで景気回復に成功し、2期目は“緊縮財政、金融引き締め、ドル高政策”へとポリシーミックスを変更しています。2期目の主な政策目標は景気回復を持続させることであり、景気の過熱を防ぐことに主眼が置かれました。

クリントン政権での均衡財政主義を背景としたドル高政策は、当時の経済政策を指揮したロバート・ルービン財務長官にちなんで“ルービノミクス”と呼ばれています。

ルービン財務長官は「ドル高は国益」との発言でも有名ですが、この発言の背景には、財政赤字を削減することで国債に吸い上げられていた貯蓄が投資に回り、経済が活発化して海外からの投資が増えることでドル高になる、というメカニズムが想定されています。

金融緩和への政策転換は意外と早く訪れるかも

今回の“トランプノミクス”は、拡張的な財政政策と抑制的な金融政策のポリシーミックスが見込まれますので、MAMが示唆する通貨政策はドル高政策となります。これは、レーガノミクスと同じです。

レーガノミクスの帰結として示唆に富むのは、インフレは起こらず、インフレ率はむしろ低下した点にあります。レーガノミクスでは財政赤字の増加は民間投資の減少と経常赤字の増加によりバランスされました。金融引き締めによる金利の上昇が投資意欲の低下とドル高を招いたことが背景にあります。

トランプノミクスでは拡張的な財政政策がインフレを招くのではないかと警戒されていますが、FRBが利上げを継続し、ドル高が維持されるのであれば、インフレ懸念は杞憂と言えるかも知れません。

とはいえ、トランプ次期大統領がドル高を容認するのかどうかは不透明です。中国や日本に対して関税を引き上げるとも発言していますので、ドル高を憂慮していることは間違いありません。

トランプ氏は“アメリカ第一主義”を掲げており、「ドル高により米企業は多大な不利益を被っている」とも指摘していますので、国益を守るためにドル高是正に動く可能性は否めないでしょう。

また、2016年11月のドルの実質実効レートは107.1と、前回の高値である2002年2月の116.6まで8.9%の上昇余地を残すのみとなっています。ここからさらにドルが上昇するにしても発射台が高く、ドル高政策を採ったとしても早晩頭打ちになることが見込まれます。

海外経済がドル高に耐えられるかどうかも懸念材料です。自国通貨の下落が歓迎されるのは日本やドイツなど、ごく一部の先進国に限られます。

輸出大国の中国ですら、人民元安には神経を尖らせており、新興国における自国通貨の下落は投資資金の流出を招き、成長を阻害する要因と見なされます。海外経済がドル高に耐えられるのかどうかも、ドル高の持続性を見る上でのポイントの一つとなりそうです。

ドル高政策なら緊縮的な財政政策が景気拡大の持続を支える

レーガノミクスとトランプノミクスの違いは、内容以前に景気の循環局面に大きな差があります。レーガノミクスは不況下で実施されましたが、現在は違うということです。

2009年から始まった今回の米景気回復も既に7年が経過しており、依然として拡大を維持しています。同じドル高政策でも経済環境は景気拡大を維持することを目標としていたルービノミクスに近いと言えます。

MAMによると、トランプ次期政権がドル高政策を採用するのであれば、緊縮財政と金融引き締めの組み合わせが景気拡大の持続性を高めることを示唆しています。

ドル安政策は景気後退リスクを高める?

では、トランプ政権がドル安政策を採用するとどうなるのでしょうか。MAMによると、“財政拡大、金融引き締め、ドル安”のポリシーミックスは持続可能ではありません。金利の上昇とドル安の組み合わせが整合的とは考えづらいからです。

米国は現在、ほぼ完全雇用の状態にあり、余剰生産能力が少ないことからドル安で輸出を刺激し、需要を喚起することは、国内でのインフレ圧力を強めることにつながります。また、輸入物価も上昇が見込まれます。

財政拡大と金融引き締めで金利は上昇しやすい状況にあり、インフレ圧力が強まることでさらに金利が上昇して景気にブレーキをかけることが予想されます。したがって、ドル安政策は景気後退リスクを高めると考えられます。

 

投信1編集部

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