注目集める自社株買い

日本企業の自社株買いが再び脚光を浴びています。

2017年1月6日の日本経済新聞では、「資本効率を意識するようになった日本企業の変化」によって自社株買いが「上値を追う存在になる可能性が出てきた」と報じています。たしかに2016年の投資主体別売買動向を見ても、事業法人が買い越し主体として台頭しています(参考:【日本株需給】2017年初、個人は買い余力十分。注目の海外投資家は!?)。

自社株買いはROEを高める効果的手段

伊藤レポート発表を契機に、日本でもコーポレートガバナンスコードが意識されるようになりました。資本効率、すなわち株主資本に対してどれだけ利益が出ているかを示すROE(=純利益÷株主資本)が、経営者と投資家の間の共通言語として定着しています。

さて、ROEを高めるには、分子の利益の額を増やすか、分母の資本の額を小さくするか、大きく二つのアプローチがあります。しかし、景気変動の中で利益を持続的に伸ばしていくのは、そう簡単なことではありません。そこで、企業が内部留保を現金の形で持っている場合は、自社株買いを実施し、ROEの分母を小さくすることで、即時にROE改善を図る選択肢が浮上します。経営者が自社株買いを選択する最大の理由は、この即効性でしょう。

株主還元のもうひとつの意味

もう少し考えてみましょう。企業の利益を配当せずに内部留保すると、ROEの分母である株主資本が増えます(稼いだ利益が株主資本として加算されていくため)。増えた株主資本に対してROEの水準を保つには株主資本の増加率と同率で利益を伸ばす必要が出ます。これは経営者にとって高いハードルになります。

そこで毎年の利益をなるべく内部留保せず配当で支払い、株主資本が増えないようにすれば、ROEを維持するためのハードルは下がります。さらに自社株買いを行えばROEを高めることが容易になります。

配当と自社株買いを株主還元と総称しています。これは何か株主に価値を生むような良い響きに聞こえます。しかし冷静に考えると、事業を安定的、消極的に運営をしながらROEを維持するためのハードルを下げることを意味する場合もありことがわかります。事業運営に特別なことをしなくても許されるという、甘えの風土にもつながりかねません。

12月決算企業の株主総会シーズンを前にぜひ考えたいこと

本来、現金を多く抱えた企業の経営者は、その現金を事業投資に有効活用することが主要な任務の一つです。安い価格でタイムリーに事業資産の取得やM&Aを実施し、そこから付加価値を生み出して、利益の額を大きくすること、すなわちROEの分子を増やすことが使命です。

この部分に少しで手抜かりがあるにもかかわらず、「株主還元」によってROEを維持するような経営であれば、その経営者は期待された使命を果たしていないととらえるべきでしょう。そうした経営者の選任や報酬について、株主は厳しい視線をむけるべきでしょう。

2017年に入り、12月決算企業の通期決算発表と、株主総会が近づいてきます。皆様にはぜひ「有効な投資をできている経営者か」という視点で総会に参加していただきたいと願います。

椎名 則夫