株価は11年ぶりの半導体ウエハー値上げを見通していた?

さらに株価が上昇するかどうかの判断ポイントは何か

11年ぶりの値上げが注目される半導体ウエハー

昨年末、12月29日の日本経済新聞の商品市況欄で、半導体ウエハーメーカーが主に300ミリウエハーの値上げに踏み切るという記事が掲載されました。これは実に11年ぶりの値上げとなりますが、リーマンショック以来、半導体ウエハーの価格はそれ以前の価格の半分以下の水準までになったことは周知の通りです。

10%程度と見られる値上げ分のかなりの部分が利益に上乗せされることから、久方振りの良いニュースです。このことをどこまで読み込んでいたかは明らかではありませんが、SUMCO(3436)の株価は、この報道の前から急騰を続けていました。では、2017年の株価はさらに上がるのでしょうか。

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300ミリウエハーは需給のひっ迫が続く

2016年3月を起点に、半導体ウエハーの主力サイズである300ミリウエハーの需給が世界的にひっ迫しています。

300ミリウエハーは、信越化学工業(4063)の100%子会社である信越半導体、SUMCO、LGシルトロン(韓国)など世界5社で市場の80%以上を押さえる寡占市場です。にも関わらず、過去11年間は各社の値下げ競争が絶えませんでした。

特にユーロ安を背景に、欧州メーカーが300ミリEPIウエハー(ロジック半導体用ウエハー)の値下げを主導、EPIウエハー最大手のSUMCOの業績に深刻な影響をもたらしました。

需給ひっ迫の背景は、メモリー半導体(DRAM、NANDフラッシュメモリー)の需要拡大に加え、中国スマホメーカーのミッド/ハイエンドスマホの増産が需要拡大に拍車をかけたことによるものです。2016年7~9月の世界出荷は生産能力を超える月産510万枚レベル(業界統計ベース)を記録しましたが、例年需要が落ちる10~12月も同水準をキープする勢いです。

筆者が関連企業に直接取材した感触では、2017年1~3月も、通常は不需要期であるものの出荷水準が落ちないというコメントが主流でした。関連メーカーは半導体メーカーに対してウエハーの「アロケーション」を行ったとコメントしていますが、そこまでの経験はウエハーメーカーにとって初めてだったと言います。

生産工程の改善だけでは需要にミートできない局面

数年前まで、世界の300ミリウエハーの月産能力は480万枚程度と言われてきましたが、昨年は一部のメーカーが月産510万枚程度ではないかと推定しています。つまり、+6%強、能力が上昇したというわけです。

ただし、建屋を新増設し、引き上げ機、研磨機、検査機などの設備投資に踏み切ったメーカーは世界中でどこにもありません。生産性や歩留まりの改善で何とか需要に応えてきた結果が、+6%強の能力増強につながったに過ぎないのです。では、なぜ各社は設備投資に踏み切らないのでしょうか。

その答えは単純明快です。まず、生産能力の増強は値下げ圧力につながります。その一方で、月産10万枚の設備を作るには建屋、検査装置などを含め400億円以上かかると試算されるため、この10年間で疲弊した事業環境下では財務内容の悪化を招きかねません。この“我慢構造”が今回の値上げに結びついたと言えるのではないでしょうか。

やはり先見性があった株価:10%の値上げ効果は既に織り込まれた

日本経済新聞の報道によると、300ミリウエハーの価格について、外資系半導体メーカーに対しては1~3月分の出荷から+10%前後の値上げ、日系半導体メーカー向けには4~6月出荷分からの値上げを現在交渉中と見られます。

値上げされれば、リーマンショック前の2006年以来のこととなります。しかも、海外メーカー向けにはドル建てが多く、足元の円安加速は国内メーカーの手取り増加、利益増加につながるでしょう。

この間の事情を株価との関連で見てみましょう。筆者が、個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)で、「需給ひっ迫の半導体ウエハー。半導体関連株の出遅れセクター」として関連銘柄のオーバーウェイトに注目したのが2016年10月21付けレポートです。

その日のSUMCO終値は925円でした。それが、12月9日には2016年最高値(終値)が1,607円と、10月21日終値に対して+73.7%の上昇となりました。上述のように、日本経済新聞に値上げの記事が掲載されたのは12月29日です。この時、株価は既に+10%前後の値上げを織り込んで上昇し、株価の先見性が見事に発揮されたと見られます。

SPEEDAをもとに筆者作成

株価がさらに上昇するかどうかの判断は今後の再交渉次第

海外の半導体メーカーおよび国内メーカー向けにほぼ完全に値上げが浸透すると、信越化学工業、SUMCOの年間営業利益を100~150億円押し上げる効果をもたらすことになります。

一方、値上げによるキャシュフローの改善は次の設備増強のテコになります。現状の生産能力では、2017年には半導体の供給に支障をきたす可能性が議論される中で、いずれウエハーメーカーの設備増設の計画が明らかになるかもしれません。

ヒアリングによれば、月産10万枚の300ミリウエハー新設備の投資額は400億円以上と試算されているそうです。この投資額を賄うためには、少なくとも30~40%の値上げが最低条件、と某ウエハーメーカー首脳がコメントしたこともありました。

したがって、今回の10%値上げ実現はあくまで値上げの第一段階であり、次の値上げのアナウンスとその実現性を勘案して、株価がさらに上値を切り上げるかどうかの判断ができると考えます。今後の値上げ交渉の動向を注視していきたいと思います。

 

石原 耕一

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石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。