日本の自動車メーカーがメキシコ問題より恐れる悪夢の再来とは?

過去の日米自動車摩擦では1ドル80円を割る”超円高”に

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トヨタのメキシコ新工場計画が“ツイッター攻撃”の対象となる

年が明けて早1週間以上が経ち、1月20日の就任式後から本格始動する米国のトランプ新政権への注目度が急速に高まってきました。しかし、日本の経済界にとっては、その注目度は「期待」というよりも「懸念」の色合いがますます濃くなっています。

その大きな契機は先週、トヨタ自動車(7203)がトランプ次期大統領の“ツイッター攻撃”の対象となったことです。

トヨタが2019年から稼動開始を予定するメキシコ新工場(生産能力:年間20万台)に対して、計画の撤回を要求し、それが受け入れられない場合は、米国への輸入に際して高い関税を課すと公言した形です。ちなみに、このメキシコ新工場の建設は、2015年4月に発表済の事案です。

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メキシコ生産車の米国への輸出は拡大の一途

北米自由貿易協定(NAFTA)に反対するトランプ次期大統領は、隣国メキシコからの輸入拡大を公然と批判しているのは周知の通りです。

真っ先にそのターゲットにされたのが自動車産業でした。現在、多くの自動車メーカーがメキシコで生産して米国に輸出する戦略を拡大しています。関税障壁の撤廃を活用し、労務費などコストの安いメキシコで生産を拡大するのは、至極当然の企業戦略です。

フォードはメキシコ工場新設を撤回、新政権への擦り寄りも出始める

トランプ氏は、まず米国企業であるGMとフォードのメキシコ事業を批判しました。その結果、フォードはメキシコでの工場新設計画を撤回し、トランプ氏に迎合する姿勢を明確にしました。

さらに、フィアット・クライスラー・オートモーティブ社(FCA)は、米国の既存工場に新たに10億ドル(約1,170億円)の設備投資を実施することを正式発表しています。なりふり構わない新政権への擦り寄りにも見えます。

一方、批判されたGMは沈黙を保っていましたが、計画を変更する必要はないと反論し始めました。新政権への抵抗をどこまで続けるのか注目されています。

トヨタはメキシコ新工場の計画撤回が可能なのか?

こうした一連の経緯を見ても、今回のトヨタ批判は、決して日本車メーカーだから攻撃対象になったわけではないようです。

では、トヨタはこのメキシコ新工場計画を撤回することは可能なのでしょうか? “フォードが撤回したのだから、トヨタも可能じゃないか”という意見もあるでしょう。フォードの状況は不明ですが、トヨタの場合、計画撤回は理論的には可能ですが、実際には困難と見られます。

多くの自動車部品メーカーも多額の設備投資を実施

今回のような新工場建設の場合、トヨタの進出に合わせて多くの自動車部品メーカーが、新規進出を含めて多額の設備投資を行うと見られます。既に着手している部品メーカーも少なくなく、日系企業だけでなく、メキシコの地場企業も多いはずです。

もし、計画の白紙撤回となれば、こうした部品メーカーに対する補償・補填が発生することになるでしょう。特に、地場企業への補償は多額に上る可能性があります。

新工場での従業員の採用も本格化する

また、2019年の稼働開始に合わせて、多くの従業員が採用されます。このうち、工場の生産ラインに従事する労働者は長期にわたる特別な訓練が必要となるため、遅くとも2017年秋から採用が本格化します。

海外における自動車工場での作業は、数か月トレーニングしたから対応できるほど生易しいものではありません。こうした従業員の採用が、トヨタのみならず、前述した全ての部品メーカーで行われることになります。

自動車メーカーにとって新工場建設というのは、メーカーが行う直接的な設備投資はもちろんのこと、こうした間接的なものを含めると、非常に大きな規模となります。計画撤回は口で言うほど簡単ではありません。

参考:トヨタ自動車の過去1年間の株価推移

日本車メーカーが真に恐れているのは日米自動車摩擦の再燃

しかし、仮に百歩譲って、メキシコ新工場の計画撤回を余儀なくされても、経営に深刻な打撃を受ける可能性は低いと考えられます。

実は、トヨタを始めとする日本車メーカーは、それ以上に懸念すべきことがあります。それは、日米自動車摩擦の再燃であり、その結果起きると見られる円高なのです。

1995年の日米自動車協議では大敗北を喫した日本車メーカー

日米自動車摩擦とは、日本市場の閉鎖性に抗議した米国が、日本からの輸入車両(注:日本から米国への輸出車両)に対して100%を超える高関税を課すことを決議した貿易摩擦です。

交渉決裂が不可避となった1995年には、為替相場が一時80円/ドルを割り込む“超円高”となり、自動車産業に危機的な影響を与えました。最終的には、日本車メーカー各社が“自主的な数値目標”を公表して妥結するという、事実上の大敗北を喫したのです。

トヨタの対応次第では、摩擦再燃の可能性は否めず

現在のトランプ氏の言動を見ていると、メキシコ新工場に止まらず、この22年前に起きた“悪夢”が蒸し返される可能性が否定できません。自動車メーカー各社は、いつまた難癖を付けられるか恐れているのではないでしょうか。

日米自動車摩擦が再燃するくらいならば、メキシコ新工場の計画撤回による影響は限定的となりましょう。その意味でも、攻撃対象となったトヨタの対応が注目されます。

 

投信1編集部

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