ポンドは急落後、急伸

今週の為替市場では、英ポンドの急落と急騰が話題になりました。週明け1月16日の欧州為替市場では、メイ英首相が、翌17日に予定されている演説で「ハードレグジット(強硬離脱)」を示唆するとの懸念から大幅なポンド安となりました。

一方、17日の演説ではハードブレクジットが宣言されたものの、「最終的な離脱案について議会の承認を求める」と説明し、離脱が市場で恐れられていたほどの大混乱をもたらさない可能性が示されため、一転して大幅なポンド高となっています。

こうしたポンド市場の動きは円相場にも影響をもたらしました。リスク回避の動きから円が買われて円高となり、その結果、日経平均は今週1万9,000円の大台を下回って推移しています。

意外に堅調な英株式市場

こうした為替市場の動きを見ると、“イギリスでは大変なことが起きているのではないか”と考えがちですが、株式市場を見ると意外に堅調であることに驚かされます。

イギリスを代表するFTSE100種総合株価指数(以下、FTSE100)は、先週末の13日に史上最高値を付けており、今週もわずかな下落に留まっています。

2016年のFTSE100は14%上昇

実は、イギリスの株式市場が意外に堅調であるのは今年になって始まったことではなく、2016年6月の国民投票でまさかのEU離脱が決定して以来その傾向が続いています。2016年にポンドは対ドルで年間約▲16%、対円で約▲19%下落しましたが、FTSE100は+14%と上昇していたのです。

ポンド建てに換算したドイツのDAXは+22%、米S&Pは+32%でしたので、イギリス人から見た場合は、海外株式のほうがよかったということになりますが、それほど悪くはない結果であったと言えます。

2016年、FTSE100のベストパフォーマーとワーストパフォーマー

では、なぜFTSE100は意外に堅調だったのでしょうか。その答えを探るために2016年のベストパフォーマーとワーストパフォーマーを見てみたいと思います。

まずはベストパフォーマーから。1位はグローバルに貴金属や鉱物資源開発事業を展開するアングロ・アメリカンで、年間騰落率は+278%と約4倍近く上昇しています。次いで2位は天然資源開発のグレンコア、3位は銀、金採掘を手掛けるフレスニーヨでした。

このように、トップ10のうち、モリソン・スーパーマーケットとスミスグループを除く、実に8社がグローバルの資源関連銘柄であったことが注目されます。

2016年は資源価格が持ち直したことに加え、これらの会社はドル建て資産を多く持ち、海外で調達し海外で売るビジネスが中心であることが高パフォーマンスの背景です。つまり、海外に拠点を多く持つ日本のグローバル企業が、円安になると買われるのと同じ理屈で買われていたのです。

一方、ワーストパフォーマーの1位は、人材サービスのキャピタで▲56%、2位は格安航空会社のイージージェット、3位は小売りのネクストで、ワースト10の中には小売り、不動産、建設など内需関連企業が目立ちます。

イギリスがEUから離脱すると、投資先、人材採用の場としての同国の魅力が低下する懸念があり、企業も人材の採用には消極的にならざるを得ません。これが人材サービス会社の株価不振の一因です。

また、ポンドが下落すれば、海外旅行は割高になり燃料費も上昇することから格安航空会社は不振になり、輸入物価も上昇して消費が落ち込むため小売り関連もダメージを受ける可能性があります。こうした懸念が、ワーストパフォーム銘柄には反映されているようです。

まとめ

いかがでしたか。日本の自国通貨安(円安)が株価上昇要因になるように、英国でも同じことが起きていたことが確認できたのではないかと思います。ちなみにFTSE100は、ロンドン株式市場の中でも時価総額が大きいグローバル企業が多いため、この傾向が顕著に表れるようです。

一方で、このFTSE100の動きを見ると、通貨安にはプラスとマイナスの両面があることや、自国通貨安だけに頼った株高の危うさにも改めて気づかされます。

このように、海外の株式市場の中身を少し細かく見てみると、日本の新聞の見出しや為替市場の動向、インデックス(FTSE100)の動きだけからは見えない経済の実態を垣間見ることができ、また、日本株への教訓も見出すこともできます。

日本株だけに投資されている方も、時には海外株式市場の動向から日本株を見つめ直すことをお勧めしたいと思います。

 

和泉 美治