MRJ、5回目の納入延期で超長期プロジェクトに

2017年1月23日、三菱重工業(7011)は、子会社の三菱航空機が開発中の国産小型ジェット旅客機「MRJ」の納入延期を発表しました。MRJのローンチカスタマーであるANAホールディングス(9202)への初号機納入予定が、従来予定の2018年半ばから2020年半ばに遅れるとの内容です。

MRJの事業化準備が開始されたのは2007年から。当初は2013年に初号機の納入を予定していましたので、今回の5回目の延期により、最初の予定に対しては7年程度の遅れ、仮に今回の予定通りに2020年半ばに納入が実現すると開発期間が約13年越しの超長期プロジェクトということになります。

関連企業の株価の反応は限定的だった

では、今回のニュースで株価はどのように反応したのでしょうか。24日前場の三菱重工の株価は前日比▲1.5%安と小安くなりましたが、暴落というほどではありませんでした。

ちなみに、三菱航空機の主要株主は、64%を出資する三菱重工以外に、三菱商事(8058)やトヨタ自動車(7203)がありますが(それぞれ10%の出資比率)、いずれも大きな動きは見られませんでした。新聞紙上を大きくにぎわせたニュースではありましたが、株式市場ではそれほど深刻には受け取られなかったようです。

株式市場が大きく反応しなかったのは、いくつか理由があると思われます。まず、米国でのType Certificate(型式証明)の作業に一部経験不足が顕在化しており、その関連の現地作業員を増強中ではあるもののスケジュールの見直しが必要であると昨年10月31日の事業計画説明会でコメントされていたため、今回の遅れはある程度想定済であったことが1つ。また、機体の大幅な設計変更にまでは及ばないことが明らかになったためではないかと推測されます。

ちなみに、三菱重工は今回の延期の理由を、「一部装備品の配置変更等を実施するとともに、電気配線全体を最新の安全性適合基準を満たす設計へ変更するため」としており、機体構造の変更を必要とする大幅な設計変更ではないとしています。

気になるエンブラエルの株価上昇

株価の動きが限定的であったとはいえ、納入遅延により今後の商談へ影響が出ないかには注意したいと思います。また、既に受注済みの機種に関してキャンセルが出てこないかなどは今後も注視が必要であると思われます。

さらに、競合との関係も非常に気になるところです。MRJが狙う70~90席機種の競合はブラジルのエンブラエル社ですが、エンブラエル社はMRJの対抗機を2020年に投入予定です。MRJは予定通り2018年半ばに量産機の納入ができていれば、先行者メリットを今後の商談において享受できたはずですが、今回の延期決定でそれは完全に期待できなくなりました。

ちなみに、ニューヨーク株式市場に上場するエンブラエル社の23日の株価は前日比2.2%の上昇となりました。この株価の動きがMRJの遅れによるものとは断定できませんが、気になる動きと言えます。

余談ですが、MRJの開発費累計額はエンブラエル社の時価総額である約4,700億円を超えてきています。MRJの開発費は当初は1,800億円程度と見込まれていましたが、度重なる遅延により累計では5,000億円を超えると各種メディアでは報じられています。エンブラエル社を丸ごと買ってもおつりが少しもらえるぐらいの巨額な金額ということになります。

とはいえ、M&Aだけでは日本の航空機産業を発展させたり、雇用を生み出すことはできません。これだけの開発費を投入したからには、ぜひ最後まであきらめずに、「安心、安全」で「快適、高性能」な世界最高水準のジェット旅客機を作り上げてほしいと願わずにいられません。

三菱重工の過去10年間の株価推移

 

和泉 美治