決算発表後に大幅高となったシーゲイトの株価

日本では安川電機(6506)や日本電産(6594)を皮切りに2016年10-12月期の決算がスタートしましたが、米国でも決算発表が本格化しています。

そうした中で注目されたのが、ハードディスク駆動装置(以下、HDD)大手のシーゲイト・テクノロジー(以下、シーゲイト。ティッカー:STX)の決算です。

シーゲイトは1月24日、米国株式市場の取引終了後に2017年6月期Q2(10-12月期)決算を発表しました。そこで実績および翌四半期(1-3月期)の予想が市場コンセンサスを上回ったことから、アフターマーケット市場で一時13%強の大幅高となっています。

衰退イメージが強いHDDだが株価は好調

ところで、皆さんはHDDというと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。HDDはパソコンやテレビ番組の録画機に使われている部品、あるいは、データセンターでデータを収容するストレージシステムなどに使われていることをご存じの方は多いと思われます。ただ、多くの場合、衰退する技術というイメージをお持ちなのではないでしょうか。

実際、HDDが使われるパソコンがスマホに置きかえられて市場が縮小傾向にあり、パソコンでもHDDの代わりに半導体メモリ(NANDフラッシュメモリ)を搭載する機種が増えています。また、パソコンの代わりとなっているスマホにはHDDは搭載されていません。このため、衰退というイメージを持たれるのは無理もないと思われます。

ところが、シーゲイトの株価を見るとそうしたイメージは覆されます。過去1年間の株価は約35%上昇し、S&P500種株価指数の+20%を大きくアウトパフォームしているのです。

過去1年間のシーゲイト(青)株価とS&P500(緑)の推移

なぜHDDが見直されているのか、ヒントは日本電産の決算説明会に

では、なぜシーゲイト株は好調で、また、HDDが見直されているのでしょうか。その一つの答えは、シーゲイトが決算を発表した同日24日に開催された日本電産の決算説明会にありました。

日本電産は世界を代表するモータの会社ですが、HDD用モータでも非常に高いシェアを持っています。また、決算説明会では毎回、HDD用モータの動向に関して同社の永守重信会長兼社長から詳細な説明が行われます。

今回の決算では、短期的な見通しとして2017年3月期年間の世界のHDD市場及び同社のHDD用モータの上方修正が行われました。具体的には、世界のHDD市場については前回予想の4.1億台から今回予想では4.25億台へ、また、同社のモータについては、3.53億台から3.68億台へと上方修正されています。

この背景としては、HDD関連市場の落ち込みの一巡と、データセンターなどで使われるエンタープライズ用HDDの好調持続が示唆されています。

さらに注目すべきは、中長期のトレンドに関するコメントです。同社は「HDDの台数は緩やかに減少傾向が続くものの、HDD1台あたりの記憶容量は増加トレンドが続く」、また「HDD業界の売上高は今後横ばいとなり、ドル建てでのHDDの単価は緩やかに上昇する」という見通しを示しています。

加えて興味深いのは、このコメントの中で同社と取引関係のあるシーゲイトが、HDD市場について「中期的には台数が上昇する」という、さらに強気な見方を持っていると紹介されたことです。

具体的な予想の背景については言及されなかったものの、おそらくクラウド化のさらなる進展でエンタープライズ用HDDの伸び率が高まることや、大容量の分野では競合するNANDフラッシュメモリに対する価格優位性を維持できる可能性があることなどが、その背景にあるのではないかと筆者は推定します。

まとめ

HDDが最初に出荷されたのは1956年で、IBMによるものでした。その後、多くの企業が参入しましたが、現在ではIBMも撤退し、残っているのはウエスタンデジタル(WD)、シーゲイト、そして今話題の東芝(6502)の3社になっています。また、HDD用モータも「日本電産一強」という状態です。

このような市場の状態は寡占状態と呼ばれ、価格競争も激しくないため「ブルーオーシャン(青い海)」であるとも言われます。ちなみに、競争が非常に激しい市場は「レッドオーシャン(赤い海、血みどろの戦いが繰り広げられる市場)」と言われます。

つまり、HDD市場が見直されている理由は、市場がブルーオーシャン化し、そこで生き残ったプレイヤーが残存者利得を享受できているからに他なりません。また、その市場が縮小するのではなく、少なくとも横ばい、あるいは緩やかに増加の可能性もあるのであれば、魅力的な市場と言うしかありません。

「残り物には福がある」、そんなことを感じさせるシーゲイトと日本電産の決算でした。

 

和泉 美治