トランプ大統領TPP離脱、その背景に迫る

米国のアジア地域での影響力低下も?

この記事の読みどころ

トランプ大統領がTPPを離脱した意味を考えるために、世界の通商政策の流れを振り返りながら論点を整理します。トランプ大統領がTPP離脱を決めた理由は様々とは思われますが、中国を意識した可能性が考えられます。

トランプ米大統領TPP離脱表明:米国の離脱表明でTPP発効は困難に

トランプ米大統領は2017年1月23日、米国が環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱する大統領令に署名しました。米国の離脱で、トランプ政権下での米国を含めたTPPの発効は困難となりました。

続きを読む

どこに注目すべきか:TPP、WTO、FTA、RCEP、地域間交渉

トランプ大統領がTPPを離脱した意味を考えるために、急がば回れ、世界の通商政策の流れを振り返りながら論点を整理します。

まず、戦後の自由貿易体制はGATT(関税と貿易に関する一般協定)、その後WTO(世界貿易機関)が旗振り役となってきました。ただ、世界の貿易ルールを決めるWTOは約160の国や地域が加盟しており、ルールは「全会一致」が原則であるため、新興国と先進国の対立など当事者間の利害対立から交渉は停滞していました。

そこで、各国は貿易のルール(たとえば関税の引下げなど)を『二国間での交渉』で策定することが主流となりました。関税の撤廃・削減などを定めるFTA(自由貿易協定)や知的財産なども含めたEPA(経済連携協定)を主体に、貿易協定が整備される動きが主流となりました。なお、GATTを発展解消させてWTOが設立されたのは1995年です。

しかし、二国間での交渉は経済のグローバル化の中、非効率な面もあります。たとえば、サプライチェーンなど多国間にまたがって製品が作られる現代では、多国間で貿易ルールを決めたほうが効率的です。この流れを受け、二国間交渉から多国間での交渉へシフトしてきました。

たとえば、FTAの1つであるTPPは太平洋を囲む11カ国(米国離脱前は12カ国)で関税の撤廃、縮小に合意しています。また、他にもアジア地域ではRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などの地域間交渉が進行中です。

米国はTPPを強力に推進していた時期もあります。狙いの1つは恐らくTPP不参加の中国(TPPは国による規制等の垣根を著しく低くすることが求められるため参加を見合わせた)に先んじてTPPを発効、太平洋地域で米国の貿易ルールの主導権を確保し、参加国を拡大することで中国を孤立化させ、その後米国主導のルールのもと中国に参加を促すという長期戦略があったように思われます。

このようにTPPを整理すると、今回米国がTPPを離脱したことで、次のような問題が浮かび上がります。

まず、時代の逆行性です。前述のTPPによるアジア並びに対中国通商戦略は手間と時間がかかることが懸念されます。確かに不公平貿易の解消なら二国間交渉の方が手っ取り早いように思われます。ただし、問題が多いとはいえようやく合意が近づいた地域間交渉であるTPPから二国間交渉へ戻すというのは、グローバル化の流れに逆行する印象です。

次に、米国のアジア通商戦略の影響力後退も懸念点です。同地域には初期の段階ながらRCEPもあります。RCEPは日中韓にASEAN(東南アジア諸国連合)とオセアニア、インドが交渉に参加する経済連携で、米国は参加していません。トランプ氏のこれまでの言動から、不公平な貿易(と、トランプ氏が考える)相手との直接交渉を重視する戦略を選択したとすれば、アジア地域への影響力が低下することも懸念されます。

このような懸念はあるものの、二国間交渉の方が短期的に、的を絞った交渉が期待される点をトランプ大統領は重視したようです。

もっとも、そこは(元?)ビジネスマンのトランプ大統領、交渉術として、大統領権限で行えるTPP離脱で強硬な姿勢を見せつつ、実は新たな枠組みでアジアのルール作りに参加する機会を目指すなどの隠し技を用意しているのかもしれませんが、真意は不明で、今後繰り出される政策の予測は困難です。

そもそも何をするのか分からないのがトランプ流とも言えるのかもしれません。いずれにせよ、TPP離脱後の米国の通商戦略の展開には注意が必要です。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

PR

梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。