ドル安はいつやってくるのか? 強いドルは国益にあらず

ユーロ没落でやりたい放題、ドル高是正に手段を選ばず

米国第一主義を推し進めるトランプ大統領。選挙後のトランプ相場ではドル高が進みましたが、大統領本人がドル高をけん制したこともあり、ドルが反落しています。

“強いアメリカの復活”を掲げていることから、ドル高は国益と考えているのかと思いきや、どうやらそうではなさそうです。トランプ政権では、なぜドル高は国益とならないのでしょうか?

米製造業がドル安を望むのは今も昔も変わらない

“強いドルは国益”が米通貨政策の代名詞となったのは、1995年にロバート・ルービン氏が財務長官に就任してからのことです。

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前任のロイド・ベンツェン財務長官はあからさまな「ドル安・円高キャンペーン」を繰り広げ、「日本は巨額の対米貿易黒字で米国に失業を輸出している」と発言しています。

米国では製造業は“メイン・ストリート”と呼ばれ、白人富裕層(エスタブリッシュメント)の牙城は製造業にありますので、政治的には輸出を促進するドル安は支持を得やすく、ドル高は嫌悪される傾向にあることは今も昔も変わりません。

クリントン政権時にベンツェン財務長官は「ドル安を望むのか?」との質問に「望むのは円高だ。米国からの輸出促進に役立つ」と答えています。

トランプ大統領は、「日本は対米貿易黒字で米国から雇用を奪っている」と考え、ドルが高過ぎることに懸念を表明していますが、1990年代前半の厳しい批判に比べると、まだまだかわいいものと言えるかもしれません。

ドル高を放棄できるのはライバルがいないから

1990年代後半、なせ政治的に不人気なはずの“強いドルは国益”が受け入れられたかというと、ユーロが誕生したからにほかなりません。

ユーロが紙幣として流通を始めたのは2002年1月からですが、既に1990年代の半ばには基軸通貨としてのドルを脅かす存在として注目されていました。

この時代、ユーロの誕生によってドルが地盤沈下し、覇権国としての米国の時代が終わるとの風潮が強まっていました。米国はドルを守るために、“強いドルは国益”と言わざるを得なかったのです。

ところが、現在はそのユーロがずっこけています。昨年は英国のEU離脱が決定し、イタリアやフランスではユーロ離脱を掲げる政治勢力が高い支持率を集めています。ギリシャも依然として問題を抱えており、ユーロは存続自体が怪しくなっている状況です。

ドルの信認が政治または経済的な理由で揺らいだとしても、ドルに代わる受け皿がありませんので、一時的にドル離れが起きたとしても結局はドルに戻ってくるしかありません。ドルに代わるライバル通貨の不在により、米国は安心してドル高政策を放棄できるわけです。

国境税や関税がドル高を招くとは限らない

トランプ大統領は、海外へ移転した企業からの輸入に対して国境税をかけると警告しています。また、中国や日本など対米貿易黒字国からの輸入品に対して関税をかけることも示唆しています。これらの対策の狙いは貿易赤字の解消にありますので、貿易収支が改善するのであればドル高になると考えられています。

ただ、実際の影響ははっきりしません。たとえば、1990年代後半に米貿易赤字は急速に拡大しましたが、ドルが安くなったわけではなく、周知の通り、むしろドル高となりました。一方、1990年代前半はドル安でしたが、貿易収支に目立った改善は見られませんでした。

また、関税により輸入物価が上昇すればFRB(米連邦準備理事会)は利上げを急ぐことになり、米金利の上昇がドル高を招くとの見方もあります。しかし、税率の変更が一時的であれば金融政策にはほとんど影響がない可能性もあります。

日本での消費税率引き上げでもわかる通り、1年後には前年比での影響はほとんどなくなり、物価は元に戻ります。1年後には元に戻ることが分かっていて利上げを急ぐとは考えづらく、利上げには賃金の上昇といった国内景気の過熱を示唆する証拠が必要となりそうです。

一方、海外から米国内への投資が活発化するのであれば、ドルは上昇する可能性が高く、この場合には米貿易赤字は拡大する恐れがあります。

日米首脳会談に淡い期待

足元では大統領選後に上昇を続けてきたドルが失速しています。1990年代前半と同様に、“対米貿易黒字国は米国に失業を輸出している”との考え方が根底にあり、対米貿易黒字国に対して通貨安を是正するよう求めています。

こうした中、今週末の10日には日米首脳会談が予定されています。日本は米インフラ投資などを通じて4,500億ドル(約51兆円)規模の市場を作り、70万人の雇用創出を約束する模様です。政府系金融機関や外国為替資金特別会計、公的年金など「日本の資金力を最大限活用」すると報じられています。

トランプ政権は既にTPPから正式に離脱しており、今後は2国間での自由貿易協定が模索される見通しですが、米国側は2国間協定に為替条項を盛り込みたい意向です。為替条項とは、ざっくりいうと、為替を操作して円安になったらその分だけ報復関税をかけるということです。

米国が為替についての独自ルールを強引に導入すれば、国際的なドル離れを招くとの論調もありますが、ドルを離れても行くところはありません。

アベノミクスでは“デフレ脱却と円高是正”を政策の柱に掲げていましたので、トランプノミクスが“ドル高是正”を訴えても何か言える立場にはなく、喜んで協力する以外に選択肢はないのかもしれません。

とはいえ、首脳会談では発展的な貿易協定の締結へ向けての協議や通貨問題での衝突回避に、ほのかな期待も寄せられている模様です。

 

投信1編集部

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投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。