2011~13年にかけて日本の海外不動産ブームを牽引した都市として、まず思い浮かぶのはマレーシアのジョホールバル。

2011年3月の東日本大震災をきっかけとして、「日本だけに財産を置いておくのはリスキーだ」と考える日本各地の資産家たちが、海外の金融保険商品やプライベートバンキングを競って追い求めた時期があります。香港のHSBC銀行でプレミア口座開設を希望する日本人が殺到したのも同時期のことです。

日本人のおカネを取り込もうとしたマレーシア

東南アジアにおいて、いち早く「日本人資産外出しブーム」の受け皿になった国はマレーシアでした。

アジアの中では人口が少なく(2,700万人)、経済発展やインフラ整備の原資を海外からの直接投資(FDI)に求めるのが同国の伝統。2011年の東日本大震災直後から、マレーシア政府は「MM2Hビザ」、「ロングステイ」、「コンドミニアム(マンション)投資」などの商材を揃え、日本人のおカネを取り込もうとしました。

また、マレーシアという国が日本人の嗜好に合う面もありました。暖かい気候、安い物価、整備されたインフラ、英語が通じる、親日国、シンガポールにすぐ行ける等々…。資産逃避や投資のみならず、母子留学や移住でマレーシアを目指す日本人もたくさん出ました。

そのマレーシアの中で、日本人の主な行き先となったのが首都のクアラルンプールと同国第2の都市であるジョホールバルです。

特に後者はシンガポールに隣接し、香港に隣接する深圳を思わせるロケーション。この地に人口300万規模の大産業都市を建設する「イスカンダル計画」たけなわという事情もあり、首都をしのぐ大量のコンドミニアムが供給され、それを日本人が大量に買いました。

中国デベロッパーが一挙に9,000戸を大量供給した、ハチの巣のようなコンドミニアム群(筆者撮影、以下同)

大量のコンドミニアムが完成はしたものの…

当時、特に2011~13年にかけて販売されたジョホールバルのコンドミニアム住戸のほぼ全てが、「プレビルド」(Pre build)という、数年後に完成する物件の予約販売でした。当時の日本人は、建設予定地を見ただけで買いまくったものです。すごい熱気でした。

あれから3~4年経った今、当時販売された大量の住宅が続々と完成時期を迎えています。エリアによっては、需要もないのに大量に建て過ぎてしまったため、「完成したけど、貸せない、売れない」残念な状況になっています。

完成後1年以上経つのに、ほとんど住民のいないコンドミニアム

開発計画はあれど、現時点ではまだ不便さが残る場所。人々がそこに住む意味もないし、1階部分に入居するはずだった商業店舗も、住民が少なすぎて商売にならないので続々と撤退する悪循環。真新しいコンドミニアムなのに、夜になっても灯りがまばら…。「空室だらけの廃墟コンドミニアム都市」の悪名がついてしまいました。

今、何千人もの日本人オーナーが、物件完成後に十分なサポートを受けられず、賃貸付けも転売もできずにお金を失うという、ジョホールバルは今まさにその問題の震源地となっています。

数年前にジョホールバルの物件を売りまくった日系業者も、今ではすっかり静かになりました。そんな中で、日本人オーナーのために、こつこつと管理物件を増やし、入居付け、転売サポートをする業者も出てきています。

開発計画があっても、現時点では住民数も商業物件も足りず、不便さが残る

現在ジョホールバル不動産を爆買い中なのは、あの人たち

今、興味深いのは、数年前の日本人の数倍という勢いでジョホールバル不動産を買いまくっている人たちがいること…そう、中国人です。

彼らは現在、ジョホールバル沖合の人工島に建設予定の「フォレストシティ」という巨大プロジェクトの住戸を、1日50戸のペースで爆買い中。2016年、世界で一番売れた住宅プロジェクトは「フォレストシティ」だったそうな。実際に視察してみると、さすがに巨大プロジェクトだけあって共用部分や商業施設は充実していました。

「フォレストシティ」の凄まじい完成予想図。買いに来ているのは100%中国人

彼らは日本人と違って、マレーシアのビザを取る目的でコンドミニアムを買う人が多く、買った後の入居付けにも無関心な人が多いので、将来、空室だらけになるのは容易に想像できますが、中国人同士で売買して転売益を得るなど、うまくやる人はやるのでしょう。

ジョホールバルは、欧米人、日本人、中国人など、プレイヤーが次々と変わりつつも、外国のおカネで建物がどんどんつくられ、何となく発展していく、そんな都市なのでしょうね。短期視点での不動産投資には最悪な街ではありますが、長い目で見れば面白いと思います。

 

鈴木 学