無印良品の商品は、シンプルながら上質で統一感のある商品が特徴で、すでに読者の皆さんの生活の一部にも取り入れられているのではないでしょうか。家具、衣服、雑貨、食料品まで幅広い品揃えされています。ベッドやソファ、化粧水、シャツ、カレーなどみなさんそれぞれお気に入りがあるのではないでしょうか。

この無印良品は、現在MUJIブランドとして世界の消費者に支持されています。特に消費熱高まるアジアでしっかりと消費者に浸透を続けています。

無印良品を展開する良品計画の株価も大きく飛躍しました。2016年12月末の株価は22,910円であり、5年間で6倍を超える上昇をしました。株式時価総額も6,000億円に迫り、海外で成功を収めつつある数少ない日本の小売企業の1つです。そこで、日本発の世界に羽ばたくMUJIを展開する良品計画の秘密に迫りたいと思います。

目次

1 良品計画の「無印良品」は日本発のユニークなブランド
1.1 無印良品は「感じ良いくらし」を提案する
1.2 良品計画、企業理念
1.3 良品計画、3つの約束
1.4 無印良品、商品開発の3つの視点
1.5 無印良品、生産の3つの基準
1.6 無印良品、「100の良いこと」

2 MUJIブランド発展史
2.1 無印良品は1980年にスタート、いまでは7,000アイテムに
2.2 歴史ある海外展開、MUJIブランドの定着

3 良品計画は業績も急拡大、株価も急騰
3.1 経常利益は5年でおよそ2.5倍に
3.2 中国はじめアジアの利益が牽引役
3.3 株価は5年で5倍以上に
3.4 今後のカギは日中の深堀り、次の消費大国化する地域へのブランド認知、グローバルサプライチェーンの構築
3.5 気になる配当、株主優待は?

4 良品計画が求める人材はこんな人
4.1 人物像:顧客視点で能動的に仕組みを考える人

5 良品計画に就職するならぜひ読んでおきたい本
5.1 『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』松井 忠三

6 合わせて知りたい会社

1 良品計画の「無印良品」は日本発のユニークなブランド

無印良品はプライベートブランド(PB)商品の1つと位置付けることができるかもしれません。しかし、大手流通業のPBと異なる点があるとすれば、それは統一した「ブランドコンセプト」が明確に消費者に伝わっていることです。

単に質が同じでナショナルブランドよりも安い、というだけではなく、その商品を使うことで消費者が何かポジティブな気持ちになること、このようなプラスアルファが無印良品をれっきとした「ブランド」にしていると思います。良品計画自身は無印良品を「ブランド」と呼ばれることに抵抗があるかもしれませんが、筆者はそれでいいと思います。少し詳しく見てみましょう。

1.1 無印良品は「感じ良いくらし」を提案する

無印良品は、西友のプライベートブランド商品を起源とし、「わけあって、安い」をキャッチフレーズに、消費者に必要な基本的な商品をシンプルに仕立てて届けてきました。筆者もその昔、西武百貨店の中にできた無印良品のコーナーに足繁く通ったことを思い出します。しっかりした商品でありながら、シンプルなデザインや包装がカッコよく見えました。

その後、良品計画は無印良品のコンセプトを世界の人々に「感じ良いくらし」を提案するものと規定し、幅広い商品群を育てていきました。ここが、お値打ち感を押し出すことの多い他社のプライベートブランドとは一線を画しているのではないでしょうか。そのために良品計画は次のようなコミットメントをしています。

1.2 良品計画、企業理念

まず、企業理念を見てみましょう。生活者視点、グローバル指向、信頼の輪の重要性が示されています。

A. 良品価値の探求
B. 成長の良循環
C. 最良のパートナーシップ

1.3 良品計画、3つの約束

次に、企業ミッションを見てみましょう。先ほど見た企業理念と類似し、グローバル指向、生活者視点、「感じ良いくらし」へのコミットが端的に示されています。

A. 公正で透明な事業活動を通じ、グローバルな成長と発展に挑戦していく
B. 新たな価値と魅力を生活者視点で探求し、提供していく
C. 良品計画に関わる全ての人に世代を超えて持続する「感じ良いくらし」を提案していく

1.4 無印良品、商品開発の3つの視点

では、具体的に無印良品の商品開発におけるこだわりを見てみましょう。同社によれば3つの視点が大切だとされています。生活の基本となる本当に必要なものを、本当な必要な形で作るための勘どころが要約されています。

A. 素材の選択
B. 工程の点検
C. 包装の簡略化

1.5 無印良品、生産の3つの基準

同社は商品を開発し、製造をメーカーに発注するいわゆる製造小売業(SPA)です。しかし、このメーカーとの関係においても同社らしい基準を設けています。当たり前のようですが、低コストで作らせるということばかりに力点を置いていないことが伺えます。

A. 良品基準(品質基準)
B. 良品計画の環境、労働、安全マネジメント(取引先行動規範)
C. 使わない、制限する重点素材

1.6 無印良品、「100の良いこと」

同社は、このように無印良品を商いすることで「感じ良いくらし」を生活者に届けていますが、その過程でさまざまな形で生活者の役に立つこと、社会の役に立つことに取り組んでいます。その例として同社のHPに採りあげられているのが「100の良いこと」という事例集です。

こうした取り組みは無印良品のユーザーの共感を呼ぶだけではなく、投資家からも注目を集める重要な取り組みです。

2 MUJIブランド発展史

良品計画、無印良品のブランドコンセプトを簡単にご紹介しました。次に無印良品の発展の歴史を簡単に振り返ります。

2.1 無印良品は1980年にスタート、今では7,000アイテムに

良品計画は、西友が1980年にプライベートブランド商品として開発・販売した「無印良品」を、1989年に分離独立させてスタートしました。「わけあって、安い」という商品コンセプトの源流は35年以上さかのぼることができます。

直営店事業に乗り出したのは1990年からです。また、1993年にはファミリマートと商品売買基本契約を結びました。1995年には店頭登録銘柄として株式市場にデビュー、1998年に東京証券取引所第二部に上場、2000年に東証一部に移りました。

この間に品目数も急増しました。1980年のスタート時点では40品目でしたが、現在は7,000品目を超えており、衣料品、家庭用品、食品などさまざまな生活シーンで利用されています。

次に店舗数ですが、直営店312、ライセンスストア・西友インショップ102の合計414店舗を日本で構えています(2016年2月期)。2000年にスタートしたネットストアも着実に売上が伸びています。

もう1つ触れておかなければいけないのは多角化事業でしょう。2000年に住宅販売のMUJI HOUSE、2006年にインテリアを扱うイデーを設立しています。住宅やオフィス全体をコーディネートし、「感じ良いくらし」を届けたいという良品計画の想いが見えてきます。カフェ・ミール事業、キャンプ事業も展開するなど、大変興味深いものがあります。

2.2 歴史ある海外展開、MUJIブランドの定着

次に海外展開を見てみましょう。実は同社の海外展開には長い歴史があります。最初に海外に足掛かりを作ったのは1991年、英リバティ社とパートナーシップ契約を結びロンドンに出店したことにさかのぼります。その後、1997年に同契約を解消し自社で欧州展開を進めていきました。

2000年前後には香港、シンガポールなどアジアの市場にも目配りをしていましたが、まずは欧州に基盤を作ろうと腰を据えて店舗を増やしていきました。しかし、リーマンショックの前後から中国をメインとする東アジア、東南アジアへ出店の軸足が移動します。

2016年2月末現在、海外に344店舗ありますが、筆頭は中国の160店、次いで台湾が38店となっています。全世界では東アジアが227店、次いで欧米72店、東南アジアで45店という構成になっています。

とはいえ、無印商品が海外でMUJIとしてこれだけ認知され支持されるのは一朝一夕でできるものではありませんでした。「感じ良いくらし」という提案に共鳴してもらい、商品の使用と価格に納得してユーザーになってもらって初めて海外でブランドとして定着できたのです。良品計画が海外市場でMUJIを浸透させることができたのは、こうした腰を据えた取り組みを重ねてきたためであると考えられます。

3 良品計画は業績も急拡大、株価も急騰

以上のように、日本や東アジアを中心に多くの消費者の支持を集め内外で成長を遂げてきた良品計画の姿がおわかりいただけたかと思います。そこで、以降は企業財務面から良品計画の成長の軌跡を確認し、現在の課題を整理してみたいと思います。

3.1 経常利益は5年でおよそ2.5倍に

初めに、良品計画の長期財務パフォーマンスを確認してみましょう。

1995年2月期、売上高は376億円、営業利益は21億円でした。それが2016年2月期には売上高が3,075億円、営業利益が344億円になりました。21年間で営業利益は16倍以上になったことになります。驚異的な成長だといって間違いないでしょう。過去21年間の営業利益の成長率は年率約+14%でした。

しかし、驚いていただきたいのは直近5年間の営業利益の成長率です。

出所:SPEEDAをもとに筆者作成

5期前の2011年2月期の売上高は1,697億円、営業利益が139億円でした。これをもとに計算すると、直近5年間の売上高の年率成長率は約+13%、営業利益が約+20%になります。

これは、直近の5年間で良品計画は長期成長率を大きく上回る成長を成し遂げたということです。

3.2 中国はじめアジアの利益が牽引役

ここで思い出していただきたいのは、リーマンショック以降、良品計画が消費大国化を遂げつつある中国などに積極的に出店を進めてきたことです。正確なデータは開示されていませんが、5年前にはアジア事業の利益はわずかだったと推測されます。

しかし、5年後の2016年2月期に東アジア事業の営業利益は173億円になっています。これは国内事業と比べても大きな利益額です。そして、直近5年間の営業利益の増加分+205億円のほとんどの部分が中国をはじめとするアジア事業の営業利益の伸びで説明できることになります。

こうしてみると、良品計画がいかに最適なタイミングで中国等での事業展開を加速し、しっかり利益に結びつけてきたのかがわかると思います。

3.3 株価は5年で5倍以上に

このように、直近5年間の利益成長が同社の長期トレンドを上回る強いものだったことがおわかりいただけたでしょう。利益が伸びれば株価もこれに反応せずにはおられません。

出所:SPEEDAをもとに筆者作成

2016年2月末の株価は22,990円になりました。2015年7月には29,040円まで上がっています。ちなみに、2011年2月末の株価は3,890円でしたので、その後2016年2月末までの5年間で株価は実に5.9倍に跳ね上がっています。

3.4 今後のカギは日中の深堀り、次の消費大国化する地域へのブランド認知、グローバルサプライチェーンの構築

2011年2月期から2016年2月期までの5年間に営業利益は約2.5倍になりました。一方、株価はそれをはるかに上回る5.9倍になっていますので、良品計画に対する株主の期待は大いに高まっています。

これまでの中国市場における成長率を維持できれば良いですが、その成長率が低下する時を視野に入れて手を打っていく必要があります。

そこで、今後押さえておきたいポイントを整理すると、以下の通り3つあると思います。

第1は、同社のプレゼンスがある日本や中国で既にある店舗の魅力をしっかり維持できるかです。それは、端的には既存店の売上高トレンドに出ます。また、同時に顧客接点の強化が求められます。ブランディング、プロモーションは今後マスから個へと変わっていくと予想されます。そうした環境の変化を踏まえ、現在MUJI passportは日本だけでなく中国、台湾、香港、韓国で展開が進められています。これによって顧客のロイヤリティをさらに高め、商いを深めていくことが求められています。

第2は、インドやインドネシアのような人口が大きく、次に消費大国化を迎える国にしっかりと種をまき、MUJIブランドを根付かせていくことです。

第3は、グローバルなサプライチェーン網の完成です。この仕組み作りがしっかりできれば世界中のあらゆる店舗で効率的なオペレーションが同じレベルで可能になります。流通システムの効率化もできるようになり、コスト構造が改善するはずです。

3.5 気になる配当、株主優待は?

良品計画の財務面での目標はROE15%です。ちなみに2016年2月期は16.4%であり、目標を達成しています。これを前提にして、株主還元は配当性向30%がめどになっています。海外中心に成長投資の機会が豊富にあるため、この配当性向は妥当な水準だと思います。

なお、足元の(2017年2月)の配当利回りは1.3%程度であり、ほぼ平均的な配当利回りと言ってよいでしょう。

ちなみに株主優待制度はありません。

4 良品計画が求める人材はこんな人

4.1 人物像:顧客視点で能動的に仕組みを考える人

世界で支持され、ますますの発展が期待される良品計画の姿がおわかりになったでしょうか。そこで今度は良品計画で働く方々の姿、人材像を考えてみたいと思います。

良品計画の企業理念に「良品」ビジョンというものがあります。それによると、『「良品」には、あらかじめ用意された正解はない。しかし、自ら問いかければ、無限の可能性が見えてくる』とあります。

しかし、実際には良品計画ではマニュアルが確立しています。店舗業務に関するマニュアルであるMUJIGRAM、本部業務マニュアルである業務基準書の2つです。特にMUJIGRAMは、2,000ページにも及ぶ事細かなマニュアルでできています。また、現在同社はグローバルサプライチェーンマネジメントの仕組みを構築しようとしています。良品計画は、標準化、仕組み作りこそ競争力の基盤だと信じている会社と言って間違いないでしょう。

さて、この2つの相反する現象を見て、良品計画が求める人材とはどんな人だと思いますか。そのヒントは、先ほど指摘したマニュアルの進化にあります。このマニュアル、毎年現場の声を吸い上げて改定されるということです。

このマニュアルは、良品計画が実現しようとする世界観を日々の業務1つ1つに落とし込んで、すべての社員が高い生産性を実現するためのツールです。マニュアルの項目1つ1つに良品計画の哲学、社風が凝縮されているのです。

そこでの哲学、精神をしっかり読み取って日々の業務を着実にこなし、さらに自分なりに問題点を洗い出して改革し、それを明確にコミュニケーションして共有し、ひいてはマニュアルの改訂作業に参加する、そんな哲学と実践の人こそが、良品計画で成功する人ではないでしょうか。

どんな場面でも、「あせらず、くさらず、おごらず」、泰然自若と物事に取り組む力のある人が求められていると思います。

5 良品計画に就職するならぜひ読んでおきたい本

5.1 無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい(角川書店単行本)

良品計画に就職を考えるなら、ぜひこの本は手に取ってください。筆者の松井忠三さんは良品計画の名誉顧問。西友に入社し良品計画に出向・入社しますが、業績の悪化した2001年に社長になって良品計画を再建し、現在の成長の基盤を構築されています。

本書では、先ほど触れた良品計画のマニュアル主義の哲学が語られています。事業の発展には、絶え間ない標準化とプロセス改善が不可欠だという趣旨の貴重な見解が述べられています。良品計画の風土を知るうえで、最適な入門書になるでしょう。

6 合わせて知りたい会社

いかがでしたか。良品計画を知るほど、無印良品の1つ1つの商品にいろいろな思いがこもっているな、快適な生活の必需品だなとお感じになったのではないでしょうか。

良品計画はとてもユニークな独自のブランドを展開する企業です。なかなか類似の会社を探すのは難しいかもしれません。とはいえ、日本には企業の想いを商品として自ら具体化し販売するという、製造小売業のトップランナーがいくつか存在します。その1つが、ユニクロとジーユーを世界展開するファーストリテイリングです。中国などの東アジア諸国が消費大国化するうねりを追い風にしているという意味で、良品計画と同じ立ち位置にある企業です。

もう1つがニトリホールディングスです。ニトリは「お、ねだん以上」を掛け声に展開してきましたが、ここにきてもう少しステップアップし、独自のブランド構築を試みようとしているように見えます。「わけあって、安い」から出発した無印良品と生い立ちが似ているとも言えます。商品カテゴリーも重複する部分が多いので、ぜひ合わせて研究していただけると嬉しく思います。

 

椎名 則夫