東京都のタクシー初乗り料金が730円から410円に大幅引き下げ

2017年1月30日、東京都(23区、武蔵野市、三鷹市)のタクシー初乗り料金が、それまでの730円から410円へ引き下げられました。初乗り料金で320円の引き下げは、一見するとかなり思い切った価格見直しです。

この初乗り料金の改定により、いわゆる“ちょい乗り”需要の掘り下げが期待されているようです。

実は昨年4月に申請済み、長距離乗車は実質的な値上げに

ただ、今回の初乗り料金引き下げは、昨年(2016年)4月に東京の事業者が関東運輸局に運賃改定を申請しています。その後、国土交通省が実証実験を新橋・浅草・新宿などのエリアで実施し審議を進めた結果、12月20日に引き下げが承認されていました。したがって、唐突に始まったわけではありません。

しかし、実際にはこうした経緯を知らない人が多数だったと見られるため、相応のサプライズだったのではないでしょうか。

その後の報道で知られている通り、今回の運賃改定では、1)乗車距離2km~6.5kmまでは値下げ、もしくは若干の値上げ、2)6.5km超の長距離乗車は平均で約+5%程度の値上げ、となっているようです。つまり、長距離乗車を多用する人にとっては、全くありがたくないということになります。

タクシー業界はピーク時から大きく落ち込んだまま

実際、初乗り料金引き下げを柱とする運賃改定を行った業者(東京ハイヤー・タクシー協会および東京都個人タクシー協同組合)の真の狙いが、長距離乗車の実質的な値上げによる収入増加という見方もあります。その真偽は定かではありません。

しかしながら、業界が公表しているデータを見ると、輸送人員はピーク時の47%水準(平成26年)、営業収入もピーク時の64%水準(平成25年)に落ち込んでいます。

営業収入のデータは、消費増税による消費低迷前の数値であるため、直近はさらに落ち込んでいる可能性が高いと見られます。こうした状況ならば、長距離で値上げに踏み切ったとしても不思議ではないでしょう。

2kmピッタリの乗車距離なら、従来と変わらず730円

しかし、その一方で、“ちょい乗り”需要の掘り起こしが大きな狙いだったことも事実と考えられます。

従来の初乗り料金730円の初乗り距離はちょうど2kmでした。新たな初乗り料金410円は同1,052mまでです。それ以降は、加算距離237mごとに加算運賃80円となっています。

そうです、1,052m+(237m×4)=2km、つまり、410円+(80円×4)=730円となり、乗車距離が2kmピッタリの運賃は従来と変わりません。しかし、従来は1km乗っても、1.5km乗っても730円かかった料金が大幅に下がります。

“ちょい乗り”の潜在需要はかなり大きいと推測

あくまで筆者の感覚ですが、こうした“ちょい乗り”需要は、結構大きいのではないでしょうか。高齢者、幼児を抱えた母親、そして、身体障がい者の方々にとっては、1km前後の距離でも大変な苦労があるはずです。

今回の初乗り料金引き下げが、こうした方々に少しでも有益となることを期待します。

タクシー利用時の心理的なハードルも低くなる

また、初乗り料金の大幅引き下げにより、“近距離ならタクシーは安い”という意識が強くなり、利用者の増加につながる可能性も高いと考えられます。

実は、今回の運賃改定後、筆者も本当に久しぶりにタクシーを数回利用しました。いずれも“ちょい乗り”感覚です。結局、支払った料金は、従来とあまり変わらなかった気がしましたが、タクシーを利用する際の心理的なハードルは明らかに低くなったと言えます。

企業の経費削減に一石を投じることにつながるか

一般に、企業の経費削減が推進される時、交際費と並んで削減対象になりやすいのがタクシー代ではないでしょうか。確かに、タクシー代は安くありません。

しかし、今回の初乗り料金引き下げにより、企業も“ちょい乗り”のコストパフォーマンスを見直す機会になる可能性は十分あるでしょう。業界の真の狙い、本当のターゲットは、この法人利用の回復と見るのは考え過ぎでしょうか。

今月末には、この新しい運賃体系を実施してから1か月になり、様々なデータが公表されると見られます。わずか1か月で評価するのは時期尚早かもしれませんが、その結果に注目したいと思います。

 

LIMO編集部