この記事の読みどころ

欧州では2017年に多くの選挙が予定されていますが、特にフランス大統領選挙に注目が集まっています。選挙の動向が不透明なことから、フランスの国債利回りは上昇(価格は下落)傾向です。一方、反グローバル、反ユーロを公約に掲げる政党の台頭を受けユーロも軟調な動きですが、なんとか底割れは回避されているようにも見られます。

日本でもフランス大統領選挙について報道されていますが、仮に反ユーロ政党が誕生すれば、リスク回避の動きから円高圧力が高まるなど市場への悪影響も懸念されるため、関心が高まっています。

2017年フランス大統領選挙:世論調査でルペン氏の支持率上昇

フランス大統領選挙第1回投票(2017年4月23日)が約2カ月後に控えています。足元の世論調査によると、出馬予定の候補者のうち、反ユーロを掲げる極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首の支持率が上昇しています。

たとえば、2017年2月20日に公表された世論調査ではルペン党首が約25%でトップ、続いてマクロン氏約20%、フィヨン氏20%弱、アモン氏15%弱との報道が一般的です。したがって、4月23日の第1回投票ではルペン氏がトップ当選する可能性が高いと見られています。

しかし、ルペン氏が第1回投票で過半数を獲得する可能性は依然低く、その場合上位2社による決選投票が5月7日に行われます。現状では、ルペン氏と他の候補(フィヨン氏かマクロン氏が有力)による一騎打ちで決選投票が争われる可能性が高いと見られます。

決選投票では極右政権阻止の動きが想定されることから、ルペン氏勝利を見込む世論調査は見当たらず、現段階ではルペン氏は5月の決選投票では不利との声が大半となっています。

どこに注目すべきか:フランス大統領選挙、反ユーロ、財政健全化

ユーロ導入を達成した歴史を振り返ると、ユーロ圏の大国であるドイツとフランスが共通通貨導入という目的を共有できたことが最大の要因と見られます。したがって、仮にフランスに反ユーロ政権樹立となればユーロ混乱も想定されます。

ルペン氏率いる国民戦線が台頭した背景は、テロ対策への期待と反ユーロなど現在の政治・経済システムへの不満があるように思われます。ここでは、経済の問題に焦点を当ててたいと思います。

市場では、すでに大統領選挙への不透明感から国債利回りに上昇(価格は下落)傾向が見られます。反ユーロ政権の台頭を受けユーロも軟調な動きです。ただ、ユーロ離脱懸念が深刻な状況であるならば、国債よりもユーロの方が影響を受けそうですが、ユーロの下落はそれ程でもないように思われます。

それは恐らく次の理由によります。

まず、選挙で反ユーロ政党である国民戦線が第1党となっても、フランスがユーロを離脱する可能性が低いことがあげられます。

なぜなら、ユーロ離脱には法案を議会で通過させたり、ユーロ離脱の国民投票で過半数を獲得する必要があると見られますが、大半の国民がユーロ残留を支持しているのが現状です。そのため、フランスのユーロ離脱の可能性は結局は低いと思われます。

もちろん、2016年の米国の選挙などで「まさか」を経験していることから、市場でも何が起こるか分からないという慎重な見方が支配している模様で、ユーロは重い展開とはなっています。

一方、欧州の国債市場ではじりじりと利回りが上昇(価格は下落)する展開となっています。

国債市場については、たとえユーロ離脱という極端なシナリオとならなくても、反ユーロ勢力が台頭することが、国債市場の下押し圧力となる可能性も考えられます。なぜなら、ユーロ維持のため加盟国が努力してきた過去の財政健全化の動きが弱まる可能性があるからです。

ユーロ加盟国はユーロ維持のため緊縮財政(支出を抑える、もしくは増税などで歳入を増やす)が取られてきました。フランスも含めユーロ加盟国の中には緊縮財政を緩めて欲しいという声が強まる可能性があります。

ユーロ圏のほかの国でも同様の傾向が見られる国もあり、たとえば、緊縮財政の有無で政権運営に不安があるスペインでは、選挙が予定されていないにもかかわらず、財政運営が緩和的になるとの思惑も利回りが上昇している一つの要因である可能性があります。

当面はフランス大統領選挙の世論調査に右往左往する展開が想定されます。結果もさることながら、有権者の反応や、これまでの動向から、良いか悪いかは別にして、欧州の選挙の帰結として財政規律の緩和も想定されます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文