約1か月前に富士通と富士電機は株式持ち合い見直しを発表

約1か月前の2017年2月7日、富士通(6702)と富士電機(6504)は、両社で互いに株式を保有する持ち合いを見直すと発表しました。その後、富士電機は保有する富士通株の約7割に相当する1億6,889万株を2月13日にSMBC日興証券を介して海外市場で売却しています。

これにより、富士電機は約1,070億円の現金を受け取るとともに、2017年3月期第4四半期に簿価と売却価格の差額として株式売却益約177億円を計上する予定です。一方、富士通は保有する富士電機の株式の売却をこれまでのところ行っていませんが、株価動向を見ながら売却時期と株式数を判断していくとしています。

両社が持合い見直しを発表した2月初旬は決算発表が連日行われていた時期でもあり、見落とされていた方も多かったかもしれません。ただ、持ち合い縮小という決断は、両社の今後を考えるうえで以下の3点から注目すべき動きだと筆者は考えています。

持ち合い縮小がポジティブに評価できる3つの理由

第1の理由は、コーポレートガバナンス向上が期待できることです。富士通と富士電機が互いに10%超の株式を持合うことは、1935年に富士電機から富士通が電話交換装置、電話機などを製造・販売する同社の子会社として設立されて以来続けられてきました。

発足当時は事業運営を円滑に進めるために株式持ち合いに一定の合理性はありましたが、その後は事業面での関係は薄れ、現在では富士通は「つながるサービス」、富士電機は「エネルギー・環境技術」といった異なる事業分野に注力する会社となっています。このため、「安定株主」つまり「物言わぬ株主」としての役割だけが残っていたと考えられます。

こうした状況の見直しを迫られた1つの契機になったと考えられるのが、2014年に政府が発表した「日本再興戦略 改訂2014」です。この中ではコーポレートガバナンスの強化が掲げられ、政策保有株(持ち合い株)の目的や合理性について、株主に対する説明を求める内容が盛り込まれています。

今回発表されたプレスリリースにも「両社が相互に最大の株式保有先であり続けることについて、両社の資本効率や株主利益の観点から、その見直しを検討してまいりました」とあることから、今回の決定がコーポレートガバナンスの強化の中で導き出されたものと読み解くことができます。

第2の理由は、資産の有効活用が期待できることです。上述したように、富士電機は多額のキャッシュを手に入れることができました。

バランスシート上での項目が「投資その他の資産」から「現金」に移っただけという冷めた見方もできますが、キャッシュ化することで、機動的にM&A(企業買収)にも取り組むことが可能になるという点は見逃せないポジティブな変化であると考えられます。

第3は、株主還元が期待できることです。今回、富士通は海外で自社株の売り出しを行うと同時に、売り出しによる既存株主への影響を軽減する目的で、2月9日から3月8日までに3,900万株・250億円を上限に、自社株を取得すると発表しています。

また、現時点ではいつ行われるかは未定ですが、今後、富士通が富士電機株を売却するときにも富士電機が同様の自社株買いを行う可能性も考えられます。さらに、有効なM&Aや投資の対象が見当たらない場合は、売却で得られるキャッシュの一部が自社株買い等により株主に還元されていくことも考えられます。

まとめ

3月1日時点の株価は発表翌日の2月8日終値に対して富士通は+1%上昇、富士電機は▲2%下落した水準(この間のTOPIXは+0.5%上昇)と、ほとんど変化していません。とはいえ、経営の変化という中長期的な視点では重要なニュースであったと考えられますので、今後も両社の動きを注視していきたいと思います。

富士電機(赤色)と富士通(青色)の過去5年間の株価推移

和泉 美治