期待の新素材セルロースナノファイバー、加速する実用化の本命企業は?

植物由来で優れた特性を持つCNF

植物由来の有望新素材、セルロースナノファイバー

第15回ナノテクノロジー総合シンポジウムが、2017年2月17日に東京ビッグサイトで開催されました。

会場ではセルロースナノファイバー(以下、CNF)の関連団体や企業の講演会が行われ、筆者も聴講しましたが、用意された椅子は全て埋まり多くの立ち見が取り囲むなど、関心の深さを感じさせました。

関係者の話によると、今後の焦点は量産化によるコストダウンという段階になっているそうです。短期的には日用品での応用、中長期的にはプラスチックとの複合化による自動車、航空機、折り曲げ自由な有機ELディスプレー素材などへの応用が期待されています。

続きを読む

そのCNF、経済産業省によると関連市場の規模は2030年に1兆円と予測されています。また、産業技術総合研究所の平田悟史氏によると、既に国内で10社以上が開発を進めているそうですが、製法、品質は様々とのこと。

そうした中でも技術開発、応用面で先行する企業が出てきているようです。

炭素繊維、カーボンナノチューブに続く複合材料として注目度が増す

CNFは鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度、ガラスの50分の1の低い熱変形、直径がナノ(10億分の1)レベルのため可視光を散乱しない透明性といったものが代表的な特徴と言えます。

応用分野としては、プラスチックとの複合材料として自動車などの部品、部材、航空機の二次構造材料が本命だと思われますが、現時点での製造コストは1万円/kg、特殊なグレードになると10数万円/kgと、市場拡大の大きな障害になっていることは否めません。少なくとも炭素繊維のコストよりも安くなることが大前提です。

そうした中、日用分野で応用製品が出始めています。CNF開発で東京大学の磯貝明教授と開発を進める第一工業製薬(4461)は、三菱鉛筆と組んでCNFを用いた水溶性ゲルインクボールペンを実用化し、2015年9月から欧米で販売が開始されました。また、日本製紙(3863)は大人用紙オムツ「アクティ」にCNFを使った製品を販売しています。

さらに、音響機器のオンキョーは中越パルプ(3877)の製造したCNFを振動版に採用したスピーカーを開発、2016年から市場投入を始めました。これらは応用例のごく一部に過ぎませんが、こうしたニッチ分野での市場拡大によってCNFの製造コストが下がることが期待されます。

このように、現在は中期的な市場拡大の前哨戦とも言うべき局面だと思われます。

水と油の関係が解決、第一工業製薬の「疎水変性CNF」に注目

以前、『セルロースナノファイバーが新素材として有望と言われるのはなぜか』でも述べましたが、大きな市場として期待される自動車向けなどの複合材料分野において、各種エンジニアリングプラスチックとCNFを混ぜ合わせる際に解決されなければならない問題があります。

それは、CNFがセルロース特有の水に溶けやすい性質(水溶性)を持つのに対して、プラスチックは水となじまない性質(疎水性)であり、混ぜてもシックリしないことです。これでは高強度の複合材は製造できません。

しかし、この問題は技術的にはほぼ解決しつつあるようです。CNFの表面を水となじまない疎水化処理(水をはじく性質)で改質することができるようになったからです。原料の紙パルプの段階で疎水化処理を行うことで、プラスチックとCNFが親和性を持って複合材料となるのです。

これにより、炭素繊維複合材料(CFRP)、ガラス繊維複合材料(GFRP)と同列に扱われることが可能になると思われます。特に自動車の軽量化素材としての潜在需要は、それこそ世界レベルで数兆円の市場が控えているかもしれません。

このCNFを疎水化処理する技術を開発したのが先にも出た第一工業製薬で、疎水変性CNFとして事業化しています。同社はもともと水と油の界面をなじませる薬剤の専門メーカーであったことから、こうした技術開発に成功したようです。将来、航空機、自動車などのプラスチック複合材料市場が拡大すると、大いに存在感を示すものと思われます。

また、同社は東京大学の磯貝教授らと鉛電池の代替となる軽量・小型のCNF活用リチウムイオン2次電池の開発を進めており、この分野での最有望企業と目されます。

紙パルプ産業が新たな主役に

CNFは紙パルプを出発原料とします。したがって紙パルプを扱い慣れている製紙会社が開発の至近距離にいることになります。既に王子ホールディングス(3861)、日本製紙(3863)、大王製紙(3880)、北越紀州製紙(3865)、中越パルプ(3877)、阿波製紙(3896)が開発を表明しています。

紙パルプ産業はどちらかというと新素材では裏方でしたが、表に出るチャンス到来です。本命企業はこの中から出てくるでしょう。

前述の講演会で配られた資料「セルロースナノファイバーの実用化最前線」によると、主要紙パルプ企業は相次いでCNFの製造プラントを建設しています。以下、各社の製造拠点を列挙します。

日本製紙:2017年に宮城県石巻市に年産500トンの設備を建設、また山口県岩国市など2カ所にそれぞれ同30トンの設備を持つ。

王子ホールディングス:徳島県阿南市に同40トンの設備を持つ。

大王製紙:愛媛県四国中央市に同100トンの設備を持つ。

このほか、製紙用薬品メーカーの星光PMC(4963)は、親会社のDIC(4631)と共同でCNF強化樹脂を事業化するべく営業活動を積極化しています。

結論としては、やはり原料から応用製品までを一貫して展開するポテンシャルを持つ大手紙パルプメーカーがCNF事業化の本命と思われます。

石原 耕一

PR

石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。