ヘッジファンドの「運用枠」から知る資産運用の本質的リスク

運用枠はヘッジファンドに限定されたものではない

そもそも、運用枠とは何か?

「運用枠」を専門用語でいうと、キャパシティと言います。英語ではcapacityと書きますが、「収容能力」や「容量」という意味もあります。ヘッジファンド運用者にも、この「運用枠(容量)」があり、無制限に巨額な資金を運用することはできません。

たとえば農業でも、1人で対応できる農地の大きさは限られます。ヘッジファンドも同様で、1人または1チームで運用できる資金量には制限が存在します。より多くの農地をカバーするためには、農作業に従事する人を増やしたり、農作業の機械化を進めたり、仕事量や効率を向上させる手段を導入する必要があります。ヘッジファンドでもまったく同じです。

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また、運用チームの規模だけではなく、運用戦略や投資対象の内容も運用枠の大きさを決定する理由となります。これも農業を例にとってみれば同じことが言えます。稲作なのか、野菜の露地栽培なのか、果物のハウス栽培なのかによって、農作業を展開する農地の大きさが異なります。

ここで強調すべきなのは、農地または運用枠が大きければ良いということではありません。農地が小さくても、高単価の作物を密度の高い栽培方法で効率良く育てる場合、単位あたりの売上も利益も高くなることがあります。ヘッジファンドでも同様で、運用枠の大きさがファンドの収益能力に比例するものではありません。

運用枠を決める要因は何か?

では、ヘッジファンドの運用戦略や投資対象が、どうして運用枠を決定する主な要因になるのか探ってみましょう。

たとえば、日本で人気のあるマネージドフューチャーズ戦略(主にトレンドフォロー戦略)に着目してみましょう。同戦略は、世界中の為替、コモディティ、株式、債券などの先物市場を中心に、ロングポジション(買い持ち)およびショートポジション(売り持ち)を構築し、収益機会を追求しています。

先物市場は一般的にはなじみが薄いですが、実は現物市場よりもはるかに大きい市場規模です。大きな市場の中で、買いポジションだけではなく、売りポジションも持てるので、運用枠が大きそうだなと容易に想像できると思います。

また、ヘッジファンドの中には、いわゆる未公開の株式や社債などを対象に運用を行うところがあります。

日本では、「未公開株」に関連する事件が多くあるので、印象が良くないかもしれません。未公開株は適正な価値評価が難しく、情報の非対称性が大きいことから、それにつけ入る悪い人たちが出て来やすい傾向があるのは事実です。ただ、評価方法に長けたプロにとっては魅力的な投資対象となります。気をつけなければならないことは、流動性が非常に小さい点です。

上場株式であれば、売り手と買い手が出会い取引が成立する可能性が高くなりますが、未公開株は上場株式ほど活発な売り買いは期待できません。よって、未公開株を投資対象とするヘッジファンドの運用枠は小さくなります。

運用枠はヘッジファンドだけのものか?

運用枠がヘッジファンドだけに限定されたものだと考えている方がいたら、それは間違いだとお伝えしておきます。通常、皆さんが投資している一般的な投資信託にも、実はこの運用枠というのは存在しているのです。というよりも、存在すべきなのですが一般的にはその必要性が知られていません。

たとえば、日本人に人気がある上場REIT(リート、不動産投資信託)ですが、上場されているREITの市場規模は意外にも大きくありません。確かに現物の不動産市場全体は非常に大きいですが、REITはその中のごく一部を対象に証券化された商品です。流動性に関しては、現物不動産に対するイメージとREITに対するイメージは冷静に分けて考えるべきです。

複数のREITを束ねた投資信託は大変な人気を集めていますが、REIT市場が現物市場に比較して小さいことは、日本でも海外でも同じです。さらに、直近では中小型株式市場が盛り上がっていますが、少なくとも10年ぐらい株式市場を見てきた方なら、今まで何が起きていたかお分かりでしょう。

健全な運用者であるなら、ヘッジファンドのみならず、本来、自らの運用が可能である運用枠を明示すべきです。それができないなら、流動性リスクを無視した無責任な運用につながります。

運用枠を知ることで見えてくるものは?

ご自身で何らかのファンドをお持ちの場合、そのファンドの健全な運用枠を担当者に確認してみてください。また、ファンドの投資対象の流動性が枯渇するとしたら、どのようなケースが考えられるのか、またそのようなケースが具体化した時、自分はどのような行動に出るのか考えてみるのもよいでしょう。

他の投資家とともに解約に殺到するのか、待つのか、逆にチャンスと見て買い増すのか。市場で売り手が殺到する中で、流動性が枯渇すると売買が成立しなくなります。大きく値下がりし、「その値段なら買ってもいいよ」という買い手が現れて初めて取引が成立します。

あらゆる市場に共通していますが、「自分は100万円の価値がある!」と言い張っても取引は成立しないのです。「それはやっぱり100万円だよね」と合意してくれる買い手が見つかって初めて成立します。もしかしたら「それは50万円の価値しかないから、50万円なら買ってあげる」という買い手しか見つからないかもしれません。

今回はヘッジファンドの世界では一般常識である運用枠についてお伝えしました。運用枠の背景を少し探ってみると、本質的なリスクが見えてきます。読者の皆さんの投資にお役立ていただければ幸いです。

ピクテ投信投資顧問株式会社 小田嶋 康博

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小田嶋 康博

金融系ベンチャー企業を経て、イギリス系大手ヘッジファンドであるマン・グループにて、東京、チューリッヒ、ロンドンで勤務後、ピクテに入社。
ピクテでは、従来型のディストリビューションモデルと異なる戦略立案及び営業活動を担当。 特に富裕層向けビジネスモデルの構築、並びにネットチャネル経由のビジネスモデル構築及び促進に向け販売会社とのコラボレーション施策の開発に従事。
慶應義塾大学入学後渡米し、ニューヨーク州立大学経営学士取得。