投資信託を通じた資産運用にはいろいろな費用がかかり、割高、すなわち投資効率が落ちるのではないかと思われている方は少なくないと思います。

そこで、今回は投信にかかる費用を2つのマトリックスに分解して説明します。

項目を見ただけでもかなり多いですね。では、これらは果たして割高なのでしょうか?

A. 対象資産の運用に要する費用

Aの運用に要する費用は、たとえば個人投資家が外国株式を運用したいのであれば、直接自分で投資したとしても発生する費用です。むしろファンドが金額をまとめて市場で取引することにより、個人で取引した場合よりも売買手数料や為替マージンはかなり割安になるメリットがあります。

これらの取引にまつわる費用は、発生のつど、ファンドの中で差し引かれて基準価額に反映されます。これらは半期または年に一度投資家に交付される運用報告書に、1万口あたり何円かかったかが開示されていますので、そこで確認することができます。

ただし、運用報告書の対象期間の途中で購入や売却した場合、各投資家によって購入や売却の時点が異なるので各人の保有期間にいくらかかったかを特定することはできません。

B. ファンド特有の費用

これは投信という器を通じて投資することによってかかる費用です。もし、個人投資家が自分で十分な分散を図る金額やマーケットアクセスを持つなら、ファンドを通じず直接投資できるので割高と言えましょう。一方、投信という器を利用してその効用※のいずれかを享受したいなら支払わざるを得ない費用だと言えるでしょう。

※詳しくは『いまさら聞けない!「投資信託の効用」7つのポイント』および『いまさら聞けない! 投資信託は他のリスク運用商品とどう違う?』をご参照ください。

(1)ファンド内でかかる費用

ファンド内でかかる費用は、ファンドから支払われ、純資産の減少=基準価額の低下という形で投資家が負担します。

1.1 信託報酬:運用、販売、管理に関する報酬

委託会社(運用会社)がファンドから一括で引き落とし、目論見書に記載された既定の比率で自らおよび販売会社、受託会社に決算時に配分します。日々、純資産額に定率をかけるので保有期間が長くなれば、また基準価額が上がれば報酬額は増えます。

その意味で、運用成果が上がれば実入りが増えるので成功報酬的要素が含まれており、運用のインセンティブとして働きます。

1.2 目論見書印刷費用、監査報酬等の法定費用

ファンドに関する規制上、必要な費用であり、委託会社の方針によってはファンドの負担にしています。現金支払時期にのみファンドに負担させると、その時点での保有投資家のみ割りを食うことになるので、ファンド内で定率を見積もって日々積み立てています。

固定費的要素が強いため、ファンドの規模が小さい場合、この費用が十分に薄まらず基準価額に与える影響が大きくなります。

1.3 信託財産留保額

これは一般的には解約が出た時に証券を売却する取引執行費用が、解約投資家でなくファンドの残存受益者の負担になってしまうことを和らげるために解約投資家に「置き土産代」として徴収する費用です。

投資家の保有期間運用損益からするとマイナスに働きますが、ファンドの投資家間の公平を保つために必要な仕組みであり、自分が保有している最中に受けた他の解約投資家の「置き土産」はプラスに働いていますので純粋に費用と呼ぶものではありません。

(2)ファンド外でかかる費用

2.1 購入時の販売手数料

商品説明の対価や販売事務手続きの対価として販売会社が購入時に受け取る手数料です。留意すべき点は、たとえば100万円投資して販売手数料が3%とすると、実際にファンド購入に充てられるのは97万円になります。

ゆえに投資当初は投資元本に対していきなり3%の評価損から始まります。年率換算だと長期間保有すると薄まりますが、当初払った手数料はその後のパフォーマンスに関わらず戻ってこず絶対額は同じなので、保有期間を延ばす理由にはなりません。

2.2 保有期間中の口座管理手数料

たとえばファンドラップ口座を通じて運用される方は、上記の他に投資顧問報酬や口座管理手数料の名目で期間と保有額に応じた費用がかかります。個人型確定拠出年金でも同様の管理手数料がかかります。

まとめ

投信に投資する場合、投資開始から売却に至るまでの運用の期間収益の計算式は以下になります。Aのファンド内でかかる費用は既に基準価額計算に含まれています。

(売却時基準価額 - 留保額)× 口数+累積受取分配金 -(購入時基準価額 × 口数+販売手数料)- 税金

この式を見ると、期間収益を上げるためには3つの要素があることがわかります。

  1. 安く買って高く売る⇒誰しもそうしたいのですが、必ず当たる水晶玉はありませんよね。運用会社に頑張ってもらいましょう。
  2. 販売手数料は説明の対価という位置付けなので自分で商品が十分に理解できる方は手数料の安い販売会社から買うに越したことはありません。
  3. 税金を減らすには、損の出ている株式や投信と合わせて、その年度に売却することで損益通算が可能です。

「神のみぞ知る」相場はコントロールできないとしても、2の販売手数料はチャネルの選択、3のタイミングを選んだ節税等はご自分でも工夫の余地がありますね。Good luck!

林 俊宏