あなたが利用しているあの飲食店も、経営母体は紳士服企業かも

『大衆食堂 半田屋』、『とんかつ専門店 かつや』、『からあげ専門店 からやま』などの飲食店、さらに、『スペースクリエイト 自遊空間』(インターネットカフェ・漫画喫茶)などなど。紳士服大手、コナカ(7494)のグループ企業であるコナカエンタープライズがフランチャイズ(FC)で展開する事業の一部です。

コナカエンタープライズは2013年、FC事業1号店として、『かつや』を神奈川県横須賀市に出店しています。あなたが利用しているあの飲食店も、もしかすると経営しているのは紳士服企業かもしれません。それぐらい、紳士服大手が多角化を進めています。

『洋服の青山』などを展開する青山商事(8219)は、100%出資の子会社globが物語コーポレーションと FC契約を締結し、焼き肉店の『焼肉きんぐ』、寿司・しゃぶしゃぶ店の『ゆず庵』などを経営しています。

紳士服大手が多角化を進める理由は市場の大幅な減少

紳士服業界は、大手4社と呼ばれます。首位の青山商事、2位のAOKIホールディングス(8214)、3位にコナカ、4位がはるやまホールディングス(7416)です。

前述したコナカ、青山商事以外の2社も、多角化を進めています。

AOKIホールディングスは連結子会社を通じて、結婚式場・披露宴会場の運営、カラオケ・複合カフェ・フィットネスクラブの運営などの事業を行っています。結婚式場では、横浜みなとみらい21地区にある日本最大規模のウエディング施設「アニヴェルセル みなとみらい横浜」のほか、全国に14施設を展開しています。

はるやまホールディングスは、他の3社に比べれば「異業種」感は少ないものの、従来からカジュアル衣料販売などを手がけています。2017年1月には、持ち株会社体制となりました。今後は、メガネや靴などの服飾雑貨の展開も進めていくとしています。

これら紳士服大手が「非スーツ化」を進める背景には、改めて言うまでもなく、紳士スーツ市場の縮小があります。総務省の調査によれば、スーツ市場はこの10年間で30%も減ったとされています。「非スーツ」で稼がなければ、生き残ることができなくなるのです。

大手4社の中で、早くから多角化を進めてきたのがAOKIホールディングスです。同社グループでは現在、ファッション以外の売上構成比が3分の1を超え、将来はそれを5割にするとしています。

今後、少子化などにともない、紳士スーツ市場はさらに縮小することが予想されます。4社はいずれも、非スーツ事業にさらに注力するとしています。コナカや青山商事も今後、飲食店を大幅に増やす計画です。

海外市場も含めた「ポートフォリオ」がカギに

ところで、コナカや青山商事はなぜ、一見「異業種」の飲食店経営に力を入れるのでしょうか。理由の一つは既存店舗とのシナジー効果が期待できるからです。

紳士服店と同じ敷地に併設することで集客も見込めます。出店の判断、店舗づくりや運営、人材育成などのノウハウもあります。仮に売上が伸びない場合、焼き肉店を寿司店にするといったように、業態を変えることもできます。

AOKIホールディングスでは、非スーツ領域も含む多角化を「事業ポートフォリオ経営」と呼んでいます。他の3社も今後「ポートフォリオ」を広げていくでしょう。ただし、いくら多角化を進めても、進出した先の市場が縮小しているのでは意味がありません。その点では、既存市場の企業のM&Aなども視野に入っているでしょう。

さらに、国内市場は成熟していることから、海外への展開も鍵になります。青山商事は2015年、鍵の複製や靴の修理を手掛ける「ミスターミニット」を運営するミニット・アジア・パシフィックを買収しました。同社はオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、中国にも展開していることから、海外市場開拓の足がかりになりそうです。

紳士服大手が生き残りの道をどこに求めていくのか、今後も注目したいところです。

下原 一晃