「有明プロジェクト」本格始動

ファーストリテイリング(9983)の「有明プロジェクト」が本格始動しました。東京・有明の倉庫に新オフィスを設置、5,000坪ワンフロアの有明本部を設けて主要な組織をまとめています。その目的は製造小売業から、デジタル技術を活かした「情報製造小売業」を目指すというものです。

情報製造小売業の世界

情報製造小売業という言葉は新しい言葉ですが、そのポイントは

  • 生産から販売までの時間をデジタル技術で大幅に短縮する
  • 消費者との接点をスマホ中心に刷新し、同社との双方向のコミュニケーションを確立し、時々刻々変化していく個々の消費者ニーズを捕捉して深堀し的確に応えていく
  • この結果消費者がほしい商品を非常に短期間で生産し届ける仕組みをつくる

となるでしょう。

ユニクロのデジタルフラッグシップストア

消費者との接点の刷新となるのが、スマホにおけるユニクロのデジタルフラッグシップストアです。リアル店舗をしのぐ豊富な品ぞろえ、使いやすい検索機能、配送だけでなくユニクロ店舗やコンビニ受取りが可能な多彩なデリバリーチャネルがポイントです。

仕込みは十分!?

情報製造小売業という言葉を同社が使い始めたのは、筆者が見る限り2016年8月期からです。しかしその構想は数年前から着々と進められていたと思います。

特にこの構想のカギとなる有明の倉庫は2014年10月に大和ハウス工業(1925)との協業案件の一環として公表されました。また、2015年6月にはアクセンチュアとの協業によってデジタル対応を強化することが発表されています。

業績回復期の始動

ご存じの通り、この数年の同社の業績は、増収基調を続けているものの利益の振幅が目立っていました。

特に2016年8月期は売上収益が対前年度比+6%増となったものの、営業利益は同▲23%減となってしまいました。この要因はさまざまですが、暖冬の影響や国内値上げのマイナス影響が大きく出たことがポイントです。

ユニクロの事業は企画から販売までのサイクルが半年から1年といわれます。このため販売状況が当初の目論み通りにいかないと、余計な販促費や値下げを招き利益が減少することになります。

同社は情報製造小売業への舵取りを長年あたためてきたと思いますが、2016年8月期の業績を目の当たりにして、この構想の正しさに意を強くしたのではないでしょうか。

時価総額12兆円、ZARAを擁するインディテックスに追いつくか

同社の時価総額は約3.8兆円で、東京証券取引所上場企業では上位25番目(2017年3月17日現在)になり、日本の小売業のなかではセブン&アイ・ホールディングス(3382)とツートップを形成しています。

しかし、世界のカジュアル衣料企業には巨人が存在します。時価総額トップはZARAを擁するスペインのインディテックスで約12兆円、同社の3倍以上です。ちなみに、2017年1月期の業績は売上高が233.1億ユーロ(約2.8兆円)、当期純利益が約31.6億ユーロ(約3,800億円)です。

ファーストリテイリングの2017年8月期会社計画は売上収益が1.85兆円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,000億円です。両者のビジネスモデルはこれまで異なってきたため単純比較は難しいですが、この数値を見る限り、ファーストリテイリングは規模のギャップだけでなく、収益性に大きな課題を抱えていることがわかるでしょう。

リードタイムを圧倒的に短縮し、デジタルによる消費者とのダイレクトな接点を構築して、販売機会ロスも過剰在庫も作らずに、個々の消費者に最適なファッション提案をし続ける――「有明プロジェクト」が目論見通りに成功したとき、ファーストリテイリングの視界にインディテックスの背中がしっかり見えてくることを期待したいと思います。

手のひらに乗るフラッグシップストアの成否に注目が集まるでしょう。

LIMO編集部