ゲーム市場の調査会社である米Superdataは、2016年に出荷されたVR(拡張現実)ヘッドセットは630万台だったとのレポートを発表した。また、VR市場の総売上高は18億ドル(約2,000億円)にのぼり、その内訳は、PCに接続して使用するタイプが7.18億ドル、スマートフォン(スマホ)などを用いるモバイル機器タイプが6.87億ドル、PCやスマホを用いずスタンドアローンで操作するコンソールタイプが4.11億ドルと分析した。

630万台の内訳は、スマホをセットしてコンテンツを楽しむドロップイン型と呼ばれる端末をリリースしている韓国サムスンの「Samsung Gear VR」が451万台、米グーグルの「Daydream View」が26万台、そしてディスプレーと本体の一体型端末であるソニーの「PlayStation VR(PSVR)」が75万台、台湾HTCの「VIVE」が42万台、米Oculus VRの「Oculus Rift」が24万台だった。この結果を受けてSuperdataは「16年はVR『経験』の年、17年はVR『実装』の年」だと述べている。

一方、PSVRを展開している(株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、16年10月に発売したPSVRの累計販売台数が2月19日までに全世界で91万5,000台になったと発表した。ソニーが販売台数を公表したのは初めて。ソニーは発売5カ月で100万台の販売を目標に掲げており、この目標をクリアしそうだ。

SIEによると、PSVR用ソフトウエアタイトルとコンテンツ数は2月19日時点で100本を超え、参入を表明しているコンテンツ開発会社は360社以上に増加している。現在220本以上のコンテンツを開発中で、このうち17年内に100本以上が新たに発売される予定だという。

ちなみに、ソニーは16年10~12月期の決算会見でPSVRについて「購入者の多くはPlayStation4(PS4)を持っている方。だが、新型PS4のうち、スリムよりも(VR対応用にCPUやGPUを強化した)Proのほうが売れ行きが良く、Proは想定を若干上回っている」と述べ、PSVRの投入がPS4の販売の押し上げ効果になっていると強調した。

HTCは、依然としてVIVEの出荷台数を明らかにしていないものの、16年10~12月期の決算会見で「16年のVR製品の収益は黒字だった。特に10~12月期は好調だった」と述べた。17年もこの流れが続くとみており、引き続きVIVEエコシステムの拡大に努める考え。なかでも「さらに盛り上がっていくためには、コンテンツがカギを握る。当社だけで実現できるものではなく、(コンテンツを開発・提供してくれる)多くのパートナーが必要であり、当社のチームはそこに対して懸命に努力している」と述べた。

一方、Oculus VRは、3月からOculus Riftの価格を引き下げた。従来は本体とコントローラーのTouchをあわせて10万円以上していたが、現在はあわせて7万6,600円(同社ホームページより)で購入できる。PSVRやVIVEに対して遅れをとっている販売台数をさらに伸ばすのが狙いとみられ、値下げが台数拡大にどれほど寄与するか注目される。

販売が好調なソニーはPSVRの生産台数をさらに増やしたい考えだが、これはなかなか難しそうだ。PSVR、VIVE、Oculus Riftいずれの端末にも搭載されている有機ELディスプレーの供給が潤沢でないためだ。

有機ELは現在、供給量の99%を韓国サムスンディスプレー(SDC)が生産している。SDCは果敢な大型投資で増産を続けているが、スマホ向けの需要が旺盛で、中国スマホメーカーなどから要求される量には達していない。しかも、17年はアップルのiPhoneが新たに有機ELを搭載する見込みで、生産した有機ELのアロケーションは「iPhone向け、サムスンの自社スマホ向けが優先され、これを引いて残った分を中国スマホメーカー向けに供給する」(業界アナリスト)かたちとなる。これを考慮すると、VR向けの供給量は16年とそれほど変わらないか、場合によっては16年より絞られることも懸念される。

一方で、VR端末は、現実と見紛うほどのリアルな映像体験を追求するため、有機ELの高解像度化の牽引役となる可能性もある。「VR向けに2000ppiを実現したいという話も聞いている」(有機EL部材メーカー)という。市場拡大の期待と部材の調達難のはざまで、VR市場がどう発展していくか。17年はやはりコンテンツの充実がカギになりそうだ。

電子デバイス産業新聞