日立マクセル、磁気テープというレガシーから脱却し独り立ちへ

なぜ日立製作所は保有株を売却するのか?

星空マニア / WIKIMEDIA COMMONS

日立製作所との資本関係の変更を発表

2017年3月21日、日立製作所(6501)と日立マクセル(6810)は、日立が保有する日立マクセルの株式の一部譲渡により資本関係を変更すると発表しました。

株式譲渡は3月22日にSMBC日興証券に対して行われ、これにより日立の日立マクセルに対する議決権所有割合は29.52%から14.76%に低下し、日立マクセルは日立の持分法適用会社ではなくなります。また、日立マクセルは2017年10月1日付けで社名から「日立」を取り、新たに「マクセルホールディングス株式会社(仮称)」に変更する予定とされています。

続きを読む

そもそも日立マクセルはどのような会社か

かつての日立マクセルは、TDK(6762)やソニー(6758)などと並ぶオーディオやビデオの磁気テープメーカーとして有名でした。

しかし、フラッシュメモリーやクラウドが普及し、家庭用磁気テープの市場が大幅に縮小した結果、同社もあまり身近な存在ではなくなってしまいました。そこで、改めて同社の歴史と現在の事業内容についておさらいをしてみたいと思います。

同社は、1961年に日東電工(6988)の乾電池、録音機、磁気テープ部門を母体に発足。1964年に日立製作所の子会社となり、音楽用カセットテープなど民生用製品を中心に事業を拡大してきました。

しかし、2000年代になると磁気テープ市場の急速な縮小で事業ポートフォリオの転換を迫られることになります。そこで2010年4月には日立製作所により完全子会社化され、上場も廃止しています。

非上場となった後は、祖業である磁気テープの割合を大幅に減らす一方で、そこで培った技術を製造工程が類似しているリチウム電池部材へ活用するなどの事業構造改革を進めました。そして、企業向けを主体に安定成長を目指せる体制を構築後、2014年3月に再上場を果たしています。

2016年3月期の売上構成比は、エネルギー(電極・電池材料、コイン型リチウム2次電池など)が26%、産業用部材(車載カメラ用レンズユニット、LEDヘッドランプ用レンズ等)が30%、コンシューマ(プロジェクター、エステ家電等)が44%となっています。

また、同社は2018年3月期を最終年度とする中期計画において、成長3分野(「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容器」への注力により、売上高は1,700億円(2016年3月期実績1,562億円)、営業利益は120億円(同73億円)という意欲的な目標を掲げています。

ちなみに、2018年3月期の市場コンセンサスは上述の同社中期計画を下回りますが、それでも営業利益は93億円で2017年3月期の会社予想60億円に対し+55%増と大幅な増益を見込んでいます。

この背景には、現在は開発フェーズにあるHEMS(Home Energy Management System)用蓄電システムが徐々に立ち上がっていくこと、進行中の磁気テープなど不採算事業のリストラ効果、さらには2017年1月に発表したルネサスエレクトロニクス(6723)の子会社から買収する画像認識システム事業の寄与などへの期待が織り込まれていると推察されます。

新たなブランド価値の再構築に期待したい

このように、マクセルはかつての稼ぎ頭であった磁気テープというレガシー事業から脱却し、新たな成長フェーズに向かいつつあります。このため、今回の日立の売却は、「業績の見通しが悪いからマクセルを見捨てた」のではなく「独り立ちできると判断できたから売却した」と見ていいと思います。

また、3月22日の株価の動き(マクセルは前日比▲8.4%安、日経平均は▲2.1%安)も同様に、ファンダメンタルズの悪化懸念というよりも、短期的な株式の需給悪化懸念を反映したものではないかと考えられます。

今後は、上述したような市場の期待に沿って短期業績が改善していくかを注視するとともに、社名から日立が外れた後に、いかにして新たなブランド価値を再構築するかにも注目していきたいと思います。

日立マクセルの過去1年間の株価推移

和泉 美治

PR

和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。