この記事の読みどころ

米国株式市場の動向を占う上で、トランプ政権の成長戦略の動向が市場で注目されています。特に、市場ではオバマケア見直しは減税政策とセットで見られている面もあるようです。オバマケア見直しの扱いがトランプ政権の経済政策運営の試金石となり、株式、債券、為替市場に影響を及ぼす可能性があります。

見直し法案(代替案)の先行きは3月23日の下院採決が焦点となりますが、今回のレポートでは採決結果には触れず、オバマケア見直し法案の注目ポイントを述べます。

米議会予算局:オバマケア見直しの代替案の試算を公表

オバマケア見直し法案のポイントを知る上で参考になるのが、米連邦議会の超党派(中立)機関である米議会予算局(CBO)が2017年3月13日に公表したレポートです。米国与党共和党が検討している医療保険制度改革法(オバマケア、ACA)の見直し法案(代替案)を施行した場合に財政などへの影響を試算値として公表しているからです。

CBOのレポートでは、オバマケア見直しで米連邦政府の財政赤字が大幅に減る(改善)との試算を示しています(図表1参照)。一方、無保険者(医療保険に未加入)の増加など不利益を被る人が出ることも数字で浮き彫りとなりました(図表2参照)。米議会で審議している代替案の議論に影を落とす可能性も指摘されています。

どこに注目すべきか:オバマケア、CBO試算値、無保険者

トランプ政権の成長戦略の動向が市場で注目されています。特に、減税やインフラ投資など財政拡大政策の期待は高めたものの、財源について明確な方針が示されていませんでした。

オバマケア見直しは財政赤字縮小を伴うため、代替案が成立するならば減税など財政政策実現の可能性が高まると期待されています。ただし、代替案に難色を示す議員もいるため、オバマケア見直しの扱いがトランプ政権の政策の先行きを占う試金石になると見られています。

オバマケア見直しの注目点は次の通りです。

まず、そもそも2010年にオバマケアが導入された目的を振り返ると、無保険者の低減と医療費の抑制等があげられます。オバマケア導入前には全米で4,900万人程度いたといわれる無保険者ですが、足元では半分程度と減少しています。

しかし、無保険者を強制加入させるための罰則(ペナルティ)を導入して加入を半ば強制した面もあり(それでも加入しなかった人もいるようです)、不満も高まっていました。また、医療費上昇は抑制に程遠く、人気のない制度でした。

昨年の米国大統領選挙の討論会などでも、共和党のトランプ氏がオバマケアの廃止を訴えていたのは選挙活動として当然として、民主党のクリントン氏もオバマケアは維持するも、改善の必要性を訴えていました。

トランプ大統領が誕生し、優先度の高い政策としてオバマケアの見直しを掲げたこともあり、下院共和党は3月6日にオバマケアの代替案を発表しました。主な内容は強制加入のためのペナルティを廃止、無保険の低所得者に税額控除を提供して安価な保険に加入できるようにする等となっています。

ここで共和党の代替案に対するCBOの評価レポートを見ると、ペナルティの廃止で保険に加入しない人が増え保険料が当初上昇すると指摘、しかしその後は下落すると試算しています。

また、財政への影響を見ると、2018、19年は財政赤字が拡大しますが、その後代替案の効果により財政赤字は縮小する方向に転じ、2026年までの合計では3,365億ドル財政赤字が削減できると見込んでいます(図表1参照)。この財政赤字の削減分は法人税減税など財政政策の原資として活用されることが見込まれます。

しかし、CBOのレポートによると、無保険者の数は増加が見込まれています。たとえば、2016年を見ると、オバマケアを続けた場合は2,800万人であるのに比べ、代替案では無保険者がそれより2,400万人増えるため(図表2参照)、合計で5,200万に増加すると試算しています。

政党の反応ですが、民主党は無保険者が2,400万も増えることに反発しています。財政赤字が減るといっても、無保険者のここまでの増加を受入れがたいと指摘しています。

共和党も一部(保守強硬派)ですが代替案に反対しています。保守強硬派はオバマケアの抜本的な改革を主張していましたが、今回の共和党の代替案は無保険の低所得者に税額控除を提供して安価な保険に加入できる仕組みであるなどオバマケアとの違いが不明確と不満を訴えています。23日の採決は保守強硬派の動きが鍵となるとも見られています。

オバマケア見直しの議論に注視が必要です。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文