新社会人、マニュアル人間を目指しますか?

桜の開花が報じられると、通勤通学の車内も少し混雑の仕方が変わります。新社会人の方が4月からいよいよ始動するからです。

さて、多くの新社会人の方にとって本格的な会社員生活は初めてだと思います。会社から給料をもらうためには、まずは業務をしっかりこなす必要があります。そんな時、よりどころになるのはマニュアルです。

「マニュアル人間」、そのネガティブな響き

マニュアルやマニュアル人間というと、ポジティブなイメージよりもネガティブな響きを感じるのは筆者だけではないでしょう。

本来、決めごとや決めごと通りに業務をする人のことを指すのですが、「型通り」「融通がきかない」「自分で考えない」「冷徹」というイメージがついて回ります。マニュアル人間にはなりたくない、そんな気持ちになる人も多いと思います。

「マニュアル人間」になるのは社会人成功の第一歩

しかしマニュアルというのは、その会社の大変重要な資産です。なぜならば、その企業が考える最も効率的な作業手順を示しているからです。

もし膨大な量のマニュアルがある会社であれば、少しでも早くマスターすることが大切です。マニュアルに精通することは、先輩社員とのコミュニケーションを円滑にし、いわゆるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を実り多いものにするからです。

皆さんが入社した先にマニュアルがあるなら、「しめた」と思ってぜひ学習してください。社会人として自立する最適な手引きになるでしょう。

良品計画の例

無印良品を世界展開する良品計画(7453)のケースを見てみましょう。同社には店舗のマニュアルであるMUJIGRAMと本部の業務マニュアルである業務基準書があり、MUJIGRAMは2千ページに及ぶと言われます。

今でこそ世界展開が進んでいる同社ですが、2002年2月期に当期純利益が赤字になりかけたことがありました。これを契機に、当時社長になった松井忠三氏(良品計画前会長)がしまむら(8227)の手法を学んで作り上げ、その後の同社の復活と飛躍の原動力になったのがこれらのマニュアルです。

同氏はその著書『無印良品は仕組みが9割』(角川書店)で、経験と勘を排除し、他社・他者から学び、仕組みを作ることが企業の成長の要諦だと説明しています。

マニュアルは標準化された作業の手順ですが、その背景には企業の理念や風土が反映しており、またコンプライアンスを満たすものであるはずです。ぜひうまく活用していただきたいと思います。

マニュアルがない時はどうする?

会社によってはマニュアルがあっさりしていたり、あるいは十分なものがないケースもあるでしょう。

そんな時は業務フローを自分で整理してみてはどうでしょうか。他の社員がどういうフローで業務をしているのか洗い出し、それがなぜなのか推論し、確認していくとよいでしょう。

新しい事業に取り組んでいる若い企業は仕事の仕方が刻々と変わりますし、マニュアル化して文字で意思統一を図るほどの規模ではないかもしれません。その場合でも、業務の仕方を最適化することは必須です。

そのため、常に業務フローを可視化して、何が必要か、何がムダかを自分で見極めていくとよいでしょう。ご自身の業務効率の改善だけではなく、必ず周りの社員の業務効率化にも寄与し、ご自身の評価アップにつながるはずです。

マニュアルに疑問を持つ時

さて、マニュアルをマスターして業務を進めていると、いろいろとマニュアルに納得できない部分が出てくるに違いありません。

こうした気づきは大変重要です。業務改善につながるなら、ぜひ提案をしてマニュアルの更新に参画してください。先ほど述べた良品計画では、マニュアルは定期的に更新されています。トヨタ自動車を始め、日本企業は日常的な業務改善に前むきに取り組むことが特色で、それに貢献できなければ人事評価も上がりません。

受け身のマニュアル人間から、マニュアルの改善を進める「攻めのマニュアル人間」になる時、社会人として一人前になると言えるのではないでしょうか。

もし抜本的に業務の枠組みを変えるべきだと気づいたら、その時は何か新しいビジネスを興すチャンスですので、そのアイデアをしっかり可視化・具体化してください。

マニュアルがなくなる日がくるかもしれない

かつてマニュアルといえば紙の辞書のようなものでしたが、現在は業務の電子化が進み、PC等での作業の手順自体がマニュアルに沿った仕組みになってきています。また、今後はいわゆる拡張現実の世界がビジネスに広がります。業務・作業時にゴーグルを着用し、ゴーグル内に作業指示が出るような時代も目の前です。

このような世界では、マニュアルを作る側(AI化が進むと予想されます)とマニュアルを使う側が分断されて、使う側が作る側のロジックに立ち入れなくなることも想定されます。

今のうちにマニュアルを使う側から作る側へと垣根を超える経験をしておくことが、長い目で見てキャリアのプラスになるのではないでしょうか。

希望を持って社会人デビューする新社会人の皆さんのご活躍をお祈りします。

椎名 則夫