問い合わせ急増の美術品投資とは何か?

美術品に関する減価償却制度のメリットと注意点

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このところ、美術品投資に関する問い合わせが増えています。その理由の一つは、ゼロ(マイナス)金利政策への対応もあるようです。たしかに、ゼロ金利政策が始まる数年前までは、美術品投資というと一部のアートファンドなどが知られてはいたものの、美術品投資に関する需要はごく限られたものでした。

はたして、近年の美術品投資への問い合わせ急増の背景にあるのは、ゼロ金利政策によるものだけなのでしょうか。

美術品投資のリターンとは?

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一般に投資というと、リターンとしてキャピタルゲインやインカムゲインを期待するケースが多いようです。

一方、美術品投資の場合、インカムゲインとしての配当や金利はつきませんが、1億円を超えるような高額な作品に投資することが多いので、保有していた美術品が値上がりをした場合、大きな金額のキャピタルゲインが期待できます。それがアートファンドとも呼ばれる美術品投資の本質です。

このように、美術品投資はそもそもインカムゲインを期待しない投資なので、「どうせ金利がつかないのならば、キャピタルゲイン狙いとして美術品を購入しよう」という思惑で、美術品を購入し投資に回そうとする人が増えるのもある意味では当然かもしれません。

たしかに、そうした動機もあり得ると思います。しかし、キャピタルゲインだけを目的とした美術品投資の場合、美術品の値が上がらなかった(つまり下落した)場合のリスクも想定し得るはずであり、いくらゼロ金利の時代とはいえ、そうそうリスクテイクのハードルを大幅に下げるものとは思えません。

美術品投資に関する問い合わせ急増の背景は?

それでは一体、近年の美術品投資に関する問い合わせ急増の裏にある背景は何なのでしょうか?

美術品投資を目的として、筆者のオフィスに面談に来られる方の問い合わせの多くは、100万円程度の美術品購入についてです。彼らがキャピタルゲイン狙いで100万円の美術品を購入した場合、仮に20%の価格上昇があり、120万円で売却できたとすれば、20万円のキャピタルゲインが得られたことになります。

20万円という利益額自体は、その金額がそっくりそのまま入手できるのならば、決して少額であるとは言えません。しかし、美術品の場合、換金時に割高な手数料が発生するのです。

たとえば、オークション会社で売却をした場合、およそ15%の手数料と送料などが差し引かれます。場合によってはオークションカタログに掲載するためのカタログ掲載料なども発生します。こうした費用が差し引かれますと、120万円での売却でも、手取り額としては購入簿価の100万円を割り込んでしまうこともあります。

このように、美術品の場合は株式と比べ換金手数料がかなり割高なのです。それにもかかわらず、なぜ彼らが100万円程度の美術品を購入したがるのでしょうか?

美術品の減価償却制度のメリットとは?

それは平成27年1月1日に施行された、美術品に係る減価償却制度の見直しがあったからです。従来、減価償却資産として認められてきた美術品の購入価額の上限額は20万円未満とされてきました。また、対象となる美術品のジャンルについても美術年鑑に掲載された作家の作品は該当しないなどという制約がありました。

ところが、今回の税制改正により、購入価額の上限額が100万円未満にまで引き上げられ、対象となる美術品についても、美術年鑑への掲載などという制約が撤廃されました。ただし、時の経過によりその価値の減少しないことが明らかな美術品は除くとあり、古美術品のように昔から価値を保持し続けている美術品は、減価償却資産の対象外とされています。

つまり、取得価額が100万円未満の古美術品以外、ほとんどの美術品が減価償却資産対象になったのです。

美術品を減価償却資産として保有した場合の利点は、税制上のメリットです。絵画などの場合、その償却期間は8年間になり、8年後の期末帳簿額は1円になります。つまり、投資対象を100万円未満の美術品にすることにより、購入価額のほぼ全額が8年間で節税でき、その間の課税によるキャッシュアウトをセーブできるのです。

また、購入した美術品は減価償却資産であっても美術品なのです。仮に、その美術品に換金性があり、かつ価格の上昇があり得る作品だとしたら、リターンとしてキャピタルゲインも得られます。

税制では、取得する美術品の点数についての上限を設けていません。例えば90万円の美術品を100点購入したとすれば、9,000万円の大口の美術品投資になります。

節税、キャピタルゲインといったメリットを持つ資産は美術品以外にそう多くありません。こうした背景から、美術品を新たな投資対象として購入する層が増加しているものと思われます。

美術品投資の注意点とは?

しかし、誰もがこの減価償却制度を利用できるわけではありません。購入者は法人か事業所得のある個人に限られます。その理由は、事業者(個人)が美術品を自社の事業のために必要だとして購入することが前提となっているからです。

そのことは条文で「事業の用に供すること」と示されています。つまり、適切に展示活用しなければならないということです。しかし、美術品を展示活用することは美術品の鑑賞の機会を得ることでもあります。ここに、美術品投資の第3のメリットである、美術鑑賞のメリットが生まれます。

節税、キャピタルゲイン、美術鑑賞という3つのメリットを十分に享受するためには、まず第1に、購入する美術品が換金性を持っていること、そして購入価額が時価よりも大幅に高くないことが不可欠です。

美術オークションなどの一般的な美術品市場で売却・換金できない美術品は、たとえ減価償却が可能であってもメリットは節税だけに限定されてしまいます。また、換金性のある作品でも、高値買いをしてしまった場合には、市場価格が買値を上回る機会が大幅に減少しますので、キャピタルゲインが得られる可能性はゼロに近づきます。

減価償却制度を利用した美術品投資をする場合には、こうした投資上の細心の注意が必要になります。ただ、仮に税制のメリットだけだったとしても、自分にとって気に入った1点の絵画と巡り合えたとしたら、人生の幸福という最大のメリットを得られる機会になるかもしれません。

加藤 淳

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加藤 淳
  • 加藤 淳
  • 株式会社アート・コンサルティング・ファーム
  • 代表取締役

アートコンサルタント、京都造形芸術大学大学院 芸術研究科(通信教育)教授、軽井沢千住博美術館キュレトリアルディレクター、フォーエバー現代美術館副館長。
1988年フジテレビギャラリー入社。2002年同社退職後、日本で初めてのアートコンサルティングファームを設立。アートに関する専門知識を顧客目線に立ち多面的に助言提供することで、誰もが公平に参加が可能な美術品市場作りをサポートしている。顧客のブレーンとして、アートアセットマネジメントや美術展キュレーション等のコンサルティングサービスを提供している。
著書「アートコンサルタントが教える「新美術品投資」 」(セルバ出版)。