企業がお金を使う先は自社株買い? 設備投資の伸びをどう読むか

「柏原延行」の Market View〜2017年3月27日

皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

GDPは成長率を計測するための、最も重要といっていい指標のひとつですが、我が国では同じ四半期を対象に、速報としては2回発表されます。2016年10-12月期の実質GDP成長率(2次速報)は年率+1.2%(1次速報同+1.0%)となりました。特徴的であったのは、企業部門の設備投資が同+8.4%と大きな伸びを示したことです。

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この設備投資の伸びは、消費税増税直前の2014年1-3月(同+9.4%)以来の高い伸びであり、一部には設備投資活性化への期待の根拠とされる方もいるのではないかと拝察します。

しかし、結論として、今後の設備投資の活性化は限定的と私は考えています。本コラムの過去分、2016年11月7日付「#32 お金を使わない理由(企業編)」では我が国の設備投資は盛り上がりを欠く旨をご説明しましたが、今回のコラムではこの状況が変化する可能性があるかを検討したいと考えます。

我が国の企業部門の経常利益は、安定した為替の影響などもあり、足元で極めて好調な状況にあります。法人企業統計における2016年10~12月期の経常利益は、20兆7,579億円と、過去251期(約60年)で、1番目との偉大な数字を記録しています。一方で、設備投資に関しては、過去62期の中で、28番目と約半分に位置するに留まります(図表1、法人企業統計上、データの存在する期間は売上高、経常利益、設備投資で異なります)。

図表1:売上高、経常利益、設備投資の金額と順位
平成28年10-12月期:四半期

出所:財務省のデータ(法人企業統計)を基にアセットマネジメントOneが作成
※金融業・保険業を除く。
※設備投資はソフトウェアを含む。
※売上高・経常利益については昭和29年4-6月期以降(251期分)、設備投資については平成13年7-9月期以降(62期分)の順位です。

今後、設備投資が活性化するとの意見をお持ちの方の根拠としては、「①好調な利益がタイムラグを持って設備投資に反映される」、「②少なくとも人手不足に対応する省力化投資のニーズは根強いはず」との主張が考えられます。

これらの主張には、どちらも一定の合理性があることを認めざるをえませんが、私は設備投資が大きく盛り上がるとは考えていません。以下に、このように考える理由をご説明します。

過去を振り返った場合、バブル崩壊やリーマンショックなど、我が国の企業にとっては、厳しい環境があり、この記憶はいまだ鮮明です。加えて、我が国において、過去積極的な(設備投資を含む)投資を行った企業の中には、昨今存続が取り沙汰されるような企業があることも事実です。

したがって、設備投資は「本当の必要性に応じて」、徐々に(言葉は悪いですが忍び足で)行おうとする傾向の企業が一定数以上あるものと思われます。

そして、ここでの「本当の必要性に応じて」とは、顧客に対して企業が製品などを提供できなくなるケース、すなわち、「顧客からの引き合いが強く、かつ供給できない状況」を私は想定しています。

となると、結局企業が設備投資を大きく増やすためには、利益ではなく売上高が増加することへの確信が必要ではないかと考えています。しかしながら、本邦企業の予想する将来の需要は極めて保守的で、5年後においても1%程度の需要の伸びしか想定できないと考えているようです(図表2)。

図表2:業界需要の実質成長率見通しの推移(上場企業・全産業)
平成元年度~平成28年度:年次

出所:内閣府「平成28年度企業行動に関するアンケート調査結果」を基にアセットマネジメントOneが作成。
※各年度の「見通し」は、例えば、平成28年度調査における「今後5年間の見通し」の場合、平成29~33年度の見通し(年度平均)を表す。

上記の結果からは、たとえ利益水準が上昇したとしても設備投資の活性化は限定的に留まり、将来の需要(売上高)が大きく伸びて各企業の現在の供給能力を上回ると企業が考えるまでは、なかなか設備投資は活性化しないと私は考えています。

一方で、利益が好調な中、設備投資や賃金にお金を振り向けないのであれば、企業には現金が貯まることになります。
現在では、上場企業において、企業が過剰な現金を抱えることに対する否定的な見解が勢いを増しているため、企業は溜まった現金を自社株買いに振り向ける可能性が高いと考えます。

このように、設備投資が活性化しないことは我が国経済の成長率に対する制約となりますが、一方で自社株買いを通じて、株価の上昇要因になると考えることもできます。

景気と株価の関係を考えた場合、「景気がいいから株高」、「景気が悪いから株安」との関係が必ずしも成立しない局面があることには留意が必要です。

株価は、企業の稼ぐ力すなわち利益と連動する面が大きく、かつ2018年3月期の企業利益は堅調であり、我が国株式市場はこのことにより底支えされ堅調に推移すると、私は考えています。

企業の収益動向については、今後も継続的にご報告する所存です。

(2017年3月24日 9:00執筆)

【当資料で使用している指数について】ございません。

柏原 延行

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柏原 延行
  • 柏原 延行
  • アセットマネジメントOne株式会社 
  • 運用本部調査グループ チーフ・グローバル・ストラテジスト

現みずほ銀行の運用担当者(外国債券など)を経て、運用会社にて、株式運用部長、企業調査部長、運用戦略部長などを歴任後、現在はアセットマネジメントOneにて、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めております。
運用会社に勤務して、はや25年を超えました。遊び心も忘れずに、皆さまのお役に立てるコラムをお届けしたいと考えます。妻、娘の3人家族です。
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター非常勤講師、日本証券アナリスト協会検定会員。大阪大学卒業、筑波大学大学院修了。