この記事の読みどころ

  • 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、燃料電池車(以下、FCV)メーカーの姿勢は積極的です。特に、ドイツの大型車メーカーにその傾向が顕著なようです。
  • 経産省のロードマップによると、2030年にFCV80万台、同水素ステーション900カ所(2016年実績96カ所)と、市場は一気に拡大しそうです。また、欧州圏の長距離高速道路では大型のFCV乗用車、同バスなどの需要が大きいと見られます。
  • FCVは乗用車にとどまらず、フォークリフト、バスなどへの展開も要注目です。水素は貯蔵が可能で水素発電システムへの応用展開も可能なため、引き続き水素関連株をウォッチしていきたいと考えます。

電気自動車(EV)ブームの陰に隠れた感のある燃料電池車だが

中国や米国西海岸地域で、電気自動車(EV)、PHV(プラグイン・ハイブリッド)の環境対応車としての需要が立ち上がる中で、究極のエコカーとして注目されたFCVは精彩を欠いているように見えます。

特に、大気汚染が深刻な中国でのエコカー減税では圧倒的に電気自動車に人気が集中するなど、PHVを含めた電気自動車と比較してFCVの出遅れは明らかです。2014年12月にトヨタは世界に先駆けてFCV車MIRAIの商業販売に踏み切っていますが、巷ではFCVがガラパゴス化していると酷評する向きもあるようです。

では、本当に世界的には開発熱が冷めてしまったのでしょうか。

表向きは静かだが着実に進む事業化への世界的な動き

2017年3月1日から3日間、東京ビッグサイトで第13回水素・燃料電池展(FC EXPO 2017)が開催されました。筆者はここ数年、毎年会場を回り“熱”を感じることで開発への取り組み具合をチェックしています。

今年も相変わらず会場内はごった返し、ブースの数も例年と変わりませんでしたが、2015年、2016年にトヨタ自動車やホンダからFCVが販売された頃と比べると、やや熱が冷めた印象がありました。

ある参加者は“FCVがガラパゴス化しているのでは”という感想を述べていましたが、反面、講演会場での基調講演は例年通り満席で、関心の深さは相変わらずとの印象でした。

その講演では、2017年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、『Hydrogen Council(水素協議会)』が設立され、世界のエネルギー、自動車、運輸企業がグローバルイニシアチブを目指すべく結束したことが紹介されました。

また、協議会参加社の1社であるダイムラーAGの重鎮が、「水素燃料 新しいパワートレイン技術を超えて」という演題で講演を行っています。その他、BMWやGM等の海外メーカー、とりわけドイツメーカーの積極的な姿勢が目立ったイベントでした。

ドイツのBMWがFCVでトヨタ自動車と提携

日本経済新聞が報じるところによると、BMWは3月21日の年次記者会見で、トヨタ自動車と提携し本格的にFCVに進出することを表明しました。2021年に小規模生産を開始、2025年から本格的な供給体制を構築するという内容で、2025年時点では在来型のEV並みの販売価格を目指すとしています。

同社の見方によれば、FCVは大型・長距離車に適合するもので、課題としては電池コストの低下、エネルギー密度の向上、水素ステーションなどのインフラ整備が挙げられています。

エコカーに関する世界的な一致点としては、小型車・短距離(200〜250km)はEV、大型車・長距離はFCVという見方が主流です。1回の充電でEVが700km走るためには全固体電池、空気電池の開発とコストダウンが不可欠ですが、当面、リチウムイオン二次電池を超えるには相当な開発期間を要するという見方が多いのが現状です。

一方、FCVは1回の水素注入(3分間)で、おおよそ700~850kmの走行が可能とされています。欧州に広がる高速道路を水素の再充填なしで走行することに対するニーズが高いであろうことを考えると、日本よりも欧州、さらには米国でFCVの必要性が大きいのではないでしょうか。

幸いなことにEU経済圏には石油精製工場、化学工場が多数存在し、水素の確保は比較的容易と考えられます。また、現在拡大中の風力発電(洋上風力を含む)による発電で水を電気分解し、水素を貯蔵することによっていつでも電力として活用できるシステムは“究極のエネルギーシステム”と言ってもいいのではないでしょうか。

筆者は欧州で今後、水素ステーションが各地で整備され、一気にFCVの普及が始まるのではないかと予想しています。ちなみに、ドイツにおける水素ステーションは現在21カ所ですが、2017年に50カ所、2018年に100カ所、2023年に400カ所へと拡大する整備計画があると言われています。

日本における水素エネルギー、FCVへの取り組み

我が国の政策は経済産業省の資源エネルギー庁を中心に展開されています。そのロードマップによると、2016年に2千台(大半がトヨタ自動車のMIRAI)、2017年に3千台、2020年に4万台、MIRAI発売開始10年後の2025年には20万台、2030年に80万台程度の普及が計画されています。

また、水素ステーションは2016年実績で96カ所、2020年に160カ所、2030年に900カ所程度が必要とされています。やや長丁場な印象を受けますが、トヨタ自動車によれば、今、当たり前に走っているHVのプリウスの初期10年間の累計台数が35万台だったとのことです。それを考えれば、2025年に20万台という予想値は無理のないものではないでしょうか。

乗用車以外の展開にも期待

FCVは大型車に向くというという点で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで導入が予定されている燃料電池(FC)バスにも期待がかかります。

2017年2月にはトヨタブランドのFCバス第1号が東京都に納入されており、2020年までに100台以上のFCバスが都内を走ることになります。小池東京都知事も水素エネルギーに大変熱心だと聞きます。また、EU地域でのFCバスは現在90台程度ですが、2025年には9千台が計画されているようです。

このほか、2016年11月には燃料電池仕様のフォークリフトも市場に投入されました。水素発電システムに関しては東芝などの重電メーカーが注力しており、オーストラリアの豊富な褐炭から水素を取り出し、液体化合物(メチルシクロヘキサン)としてタンカーで国内へ持ち込み、大型発電機向け水素ガスとして活用するロードマップも川崎重工業を中心に計画が進められています。

まとめ:FCV関連企業に注目

FCVの技術はほぼ確立しているため、今後は電池のコスト低減、市場化・普及のための仕掛け、水素ステーションの建設などを着実に行っていけば、東京オリンピック・パラリンピックを契機に市場が急拡大する可能性も低くないでしょう。

このように、決してガラパゴス化はしていないと思われるFCV・水素エネルギーの関連銘柄として、岩谷産業(8088)、川崎重工業(7012)、東レ(3402)、日東工器(6151)、三菱化工機(6331)、大陽日酸(4091)などには引き続き注目していきたいところです。

石原 耕一