英国のEU離脱交渉が正式開始へ

3月29日、英国は欧州連合(EU)に対して離脱を正式に通知しました。昨年6月24日に実施された国民投票においてEU離脱票が過半数を超えた、あの歴史的なブレグジット(Brexit)から約9カ月が経っています。いよいよ、英国のEU離脱交渉が本格化するのです。

交渉が進めば2年後の2019年3月末に正式離脱となる見込みですが、一筋縄では行かない雰囲気です。

この離脱交渉を含め、政治・経済で激変が懸念される欧州市場で、良くも悪くも英国に大きな注目が集まるでしょう。今後は日本にも間接的に何らかの影響が出てくるかもしれません

英国は4つの“国”で構成される連合王国

日本人にとって英国という国は、なじみが深いような印象があります。しかし、意外に知られてないこと、あるいは、誤解されていることも多いようです。

そこで今回は、日本人が英国に関して誤解していると思われる2つの点を取り上げます。なお、取り上げた観点は筆者の独断です。

まず、英国(イギリス)の正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」と言います。本当にザックリ言うと、英国は「イングランド」「ウエールズ」「スコットランド」「北アイルランド」の4つの“国”で構成されています。

例えが適切かどうかわかりませんが、日本が「本州」「北海道」「四国」「九州」「沖縄県を含む諸島」で構成されているようなものでしょうか。

「英国=イングランド」と誤解する日本人は多い?

ところが、日本ではシルバー・シニア世代を中心に「英国=イングランド」と誤解している人が多いと推察されます。

サッカーやラグビーのワールドカップに関心がある方は既にご存知のことですが、「英国=イングランド」ではありません。しかし、経済やスポーツに興味のない若年世代でも、こうした誤解をしている人は少なくないと見られます。

なぜ、このように思ってしまうのでしょうか。

”This is England.”の日本語訳に問題ありなのか

大きな理由の1つが、中学校の英語教育にあると考えられます。一般には、中学生になると初めて英語の授業が始まるわけですが、最初に習う構文が「This is a pen.」「This is Japan」「This is America.」であり、それと共に英国の地図を指しながら「This is England.」も覚えさせられる場合があります。そして、この構文の日本語訳が「これはイギリス(英国)です」となっています。

その昔、英語用のノートに「This is England. これはイギリスです。」と何回も何回も書いた(書かせられた)方もいらっしゃるのではないでしょうか?

確かに、中学1年生に英国の複雑な事情を理解してもらうのは難しいですし、その必要もないでしょう。しかし、英語の授業で最初に習う構文の1つは印象が強く、後々まで覚えているものです。

独立問題や宗教対立問題を抱える英国

そして、英国を構成するスコットランドでは英国からの独立問題が今も燻っています。また、北アイルランドの宗教対立問題、および独立を目指す過激派抗争問題も残っています。

英国がEU離脱を目指す中で、こうした構成諸国の問題がクローズアップされる可能性は高いと言えましょう。

歴史上最強の帝国だった『大英帝国』

英国の歴史に詳しくない方でも、『大英帝国』という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。英国を頂点とする大英帝国は、18世紀終盤から20世期序盤にかけて世界中を支配し、多くの植民地を有した歴史上最強の帝国です。

しかし、米国が台頭した1920年前後から衰退が始まり、今はかつての影響力はなく、過去の栄光と見られています。

ここまでは多くの方がご存知かと思われます。そして、既に英国の影響力はないと思っているのではないでしょうか。確かに、大英帝国時代の繁栄を見ることはできません。しかし、大英帝国は滅びた現在でも、英国連邦は存在しています。

今も存在する英国連邦、16カ国の英国連邦王国

大英帝国が支配していた多くの植民地は、第2次世界大戦後に独立しています。しかし、主権国家として独立した後も、英国連邦に留まっている国が53カ国(英国含む、以下同)もあります。

しかも、そのうち16カ国は「英国連邦王国」として存在しているのです。

この「英国連邦王国」は、英国の国王(注:現在はエリザベス女王)を自国の国王とする国であり、もっとザックリ言うと、“エリザベス女王が国家元首である国”となります。その英国連邦王国を構成する16カ国には、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカなどが含まれています。

カナダや豪州の国家元首はエリザベス女王

“えっ!カナダや豪州の国家元首はエリザベス女王なの?”と驚く人が多いかもしれません。ただ、国家元首とはいえ「君臨すれども統治せず」に従って、各国とも首相が政権を担っています。

しかし、カナダや豪州やニュージーランドの国家元首がエリザベス女王であることは、世界の常識と言っても過言ではありません。こうした点においても、英国の影響力は依然として小さくはないと考えていいでしょう

EU離脱に向けた交渉を正式に開始した後、今でも世界中にある英国連邦王国にも何か影響が出てくるのでしょうか。これからは英国の動向から目を離せません。ブレグジットは、まさに今、始まったばかりなのです。

LIMO編集部