住宅需要が急拡大するベトナム

私は3月後半、ベトナム最大の都市ホーチミン市に出張する機会を得ました。

日本の数十年前、高度経済成長期を彷彿させる活気あふれるベトナムでは、ホーチミンやハノイなど大都市に毎年数十万人が流入し、海外からのビジネスも続々と参入。オフィスもホテルも交通インフラも、急ピッチで建設が進むものの全く需要に追いつかない状態です。

急速な都市化に伴い、人々の「住まい」に対する需要も拡大しています。特にここ2~3年は、ベトナム最大手住宅デベロッパーVinhomes社が、1プロジェクトあたり1万戸という、日本ではありえない規模の大量供給を行ってきました。それを含めて、毎年4万戸規模のマンションがホーチミン市内で供給されていますが、どこも完成前にほぼ完売してしまう活況ぶりです。

日本が数十年前に経験した「建てれば売れる」という良き時代、今のベトナムはその只中にいます。その旺盛な需要を見越して、ここ数年、日本の大手不動産デベロッパーが相次いでベトナムへ進出し、現地企業との合弁による住宅(マンション)供給事業を盛んに行っています。

大和ハウス、野村不動産、住友林業「ミッドタウンプロジェクト」(ホーチミン7区)著者撮影、以下同

 

西日本鉄道、阪急不動産「KIKYO RESIDENCE(キキョウ レジデンス) 」(ホーチミン9区)

 

クリードグループ「リバーシティプロジェクト」(ホーチミン7区)

日本企業の進出が相次ぐ理由

日本企業が参画する際の典型的な事業モデルは下記の通りです。

  • ベトナム企業との共同出資でJVを設立、もしくはM&Aで買収する
  • その会社の名前で都市部に建設用地を取得
  • その用地にマンションか戸建住宅を建設
  • 建設開始後ベトナム人消費者に販売、完成前完売を目指す

1プロジェクトあたりの供給戸数は500~5,000戸、1戸あたり分譲価格はベトナム人中間層ファミリーが買いやすい500~700万円がボリュームゾーンで、平均的な間取りは2ベッドルーム50~60平米といったところ。中には平均分譲価格1,000万円を超える富裕層向けプロジェクトもあります。

要は、地元向けに「建てて売る」プロジェクトで、3年程度で資金回収と利益獲得を目指すわけです。今のベトナムの市場環境なら、市場に見合った価格で値付けすれば、ほぼ完売する見通しが立ち、利益も日本以上に高く乗せて売れるので、大手を含めて日系の参入が相次いでいるわけです。

投資物件としてはどうなのか?

ところで、こうしたベトナム人中間層向けの実需住宅を、投資物件として日本人に売る動きもありますが、果たしてこういう物件を買って期待通りの投資利益が出るのかというと、一般論として言えば疑問符がつきます。その理由は以下の通りです。

(1)ベトナムには一部(都心部の外国人向けマーケット)を除いて賃貸マーケットが確立しておらず、入居付けや管理を担う業界も極めて未成熟。日本人投資家が通常期待する賃貸収益が得られる物件は、現時点でゼロではないがかなり限られる。

(2)ベトナム人の住宅購入者は、「自分で住む」実需層と、「多分値上がるからとりあえず買っておく」投資家層の両方がいて、後者の場合は物件が完成しても住んだり貸したりせず「空室」にしておく。その結果、戸数の半分以上が空室の新築マンションも珍しくない。そういう環境下での賃貸経営や家賃値上げは簡単ではない。

(3)保有後の値上がり益に関しては、都心近く、大規模再開発が行われる場所、鉄道が通る場所等なら短期での値上がりが期待できても、そうでない「普通の近郊」にある物件はおそらく徐々にしか値上がりしない。

今、日本の不動産各社がベトナムの住宅供給事業に参入するのは、例えて言えば40年前の「建てればすぐ売れる」時代の日本に海外から建設事業に参入するようなもので、タイミング、値付け、パートナーを間違えなければ儲けを取れるチャンスも大きいでしょう。つまり、マンションを建ててベトナム人の実需層に売ってすぐ利益確定するモデルだから良いのです。

一方、それを投資物件として日本人に売ることは、40年前の東京近郊でたくさん建ったマンションの一室を外国人に売るようなもので、長い目で値上がりを待つには良いかもしれませんが、短期間に賃貸付けや転売で利益を上げるのは結構難しいと思います。

当時、ほとんどの日本人はマイホームで買った家を賃貸に出したり転売することを考えませんでしたし、その点は今のベトナム人も同じだからです。投資で買うなら、都心近くで外国人賃貸マーケットに出せる物件か、今後数年間で劇的に周辺環境が変わり大きな値上がり益を得られそうな物件など、きちんと見極めて選びたいものです。

鈴木 学