皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

新聞等でも報道されている通り、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨(3月14~15日開催分)が発表されました。報道では、「①米連邦準備理事会(FRB)の資産規模について、年内の縮小開始が適切だと判断したこと」、「②米国の株価動向には数人の参加者が過熱感を指摘したこと」、「③2017年に規模縮小と利上げが両方行われると金融引き締めの効果が大きく、相場に影響を与えるのではないかとの一部市場参加者の推測」がポイントとされていたように思います。

発表後に米国株価が下落したことも加えると、発表された議事要旨の内容は、将来の株式市場への懸念を呼び起こすものであったと思われます。一部の市場参加者には、「NYダウ工業株30種平均が2割超下落した1987年10月19日のブラックマンデー」の記憶は鮮明で、金融政策が引き締めに転じた後の、株式市場の暴落を懸念する声も根強いものがあります(なお、1987年10月19日のNYダウは約1,740(現在約20,700)、翌20日の日経平均株価は約21,900(現在約18,700)、約30年前と比較して現在の株価は米国は10倍以上高く、日本は当時より低い水準です)。

そこで、今回のコラムでは、中央銀行の金融政策を整理したうえで、この議事要旨に対する私なりの評価をお伝えしたいと考えます。

図表1:米国政策金利(FF金利)の推移
1980年1月1日~2017年4月5日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

 

まず、金融政策には、伝統的なものと、非伝統的なものが存在するといわれます。

伝統的な金融政策の中心は、政策金利(短期金利)のコントロールです。金利が低くなれば、民間部門(企業など)における資金の調達コスト(借金のコスト)が低くなる結果、比較的投資採算が低い案件でも、一定の利益を確保することができることなどから、「設備投資」や「住宅への購入」などが行われ経済活動が活性化されます(逆に、金利の水準が高くなれば、経済活動が抑制されます)。そして、政策金利コントロールの波及経路と効果は明確であり、伝統的金融政策と呼ばれます。

しかし、反インフレ的状況(デフレ的状況)になった場合には、伝統的金融政策の効果は大きく失われます。なぜなら、仮に「金利5%、インフレ率3%であった状況(実質金利は金利からインフレ率を引き算した+2%)」から、「金利0%、インフレ率▲3%の状況」に移行した場合、実質金利は+2%から+3%(+3=0-(▲3))に上昇してしまい、(インフレ率がマイナスで)経済環境が悪化している状況にも関わらず、金融環境としては引き締められた状況に陥ります。

もちろん、マイナス金利を導入することで、実質金利を下げることもできるのですが、マイナス金利政策が実行されている我が国でも、銀行預金金利がマイナスになっていないことからわかる通り、マイナス金利を適用する範囲を拡大すること、また、マイナス金利の幅を拡大することは容易ではないと考えられています。

このため、金融政策は、「ひも」で引っ張ることはできても(引き締め)、押すことはできないといわれたりもします。

そこで、日本、米国、欧州で採用された手段が、非伝統的な金融政策、具体的には、量的緩和と呼ばれる政策です。極めて簡単にご説明すると、量的緩和は中央銀行が(民間の)銀行などの保有する国債などを買い取ることで、中央銀行の資産規模(バランスシート)を「拡大する」ないしは「拡大した状態を維持する」との政策です(昨今の文脈では、「拡大する」ことに重きが置かれていたように思います)。

米国では「拡大する」政策は既に終了し、拡大を終了したことは、少なくとも現在までの景気回復の阻害要因にはなっていないように思われます(短期的にはショックがあったのは事実です(例:バーナンキ・ショック))。

そして、今、考えないといけないことは、 「拡大した状態を維持すること」を終了し、「縮小に転じること」が景気回復の阻害要因になるか、否かであると思います。

量的緩和が非伝統的金融政策と呼ばれることからもわかる通り、その政策の波及経路と効果には神学的な論争があります(極端な場合、効果はないという方もおられるのではないでしょうか)。

あえて、いくつかの考え方をご紹介すると、「お金の供給(可能な)量が増加、ないしは多い状態を維持することで、①経済が活性化する(投資が活発になる等)、②インフレ期待が高まる、③通貨価値が下落し、輸出が活性化する、④資産価格を押し上げる」、「中央銀行が国債等を購入することで、⑤(民間の)銀行などが資金の運用先を国債から融資などに切り替えることで経済が活性化する(ポートフォリオ・リバランス効果)」などがあります。

ここで、個々の波及経路や効果について、議論を始めるとキリがないため、私なりの大胆な結論を申し上げると、量的緩和は、波及経路や効果が議論されるくらい(伝統的金融政策比)弱い政策と考えています。

とすると「弱い政策」の中でも、一層弱い可能性の高い「拡大した状態を維持する」政策の終了が、市場とのコミュニケーションを図った上で、段階を踏んで慎重に行われた場合に、景気回復の阻害要因になるとは、私には思えません(実は、なしくずしに資産規模が縮小することを懸念していました。今回はむしろ方針が明確になったと考えます。なお、株式は不透明感を嫌うので、市場に短期的なショックが発生する可能性を否定するものではありません)。

今回の議事要旨では、「①ほぼすべての参加者が、実際の再投資政策の変更に先だって、(市場と)コミュニケーションを為すべきことに同意している(筆者仮訳:Nearly all participants agreed that the Committee’s intentions regarding reinvestment policy should be communicated to the public well in advance of an actual change.)」、「②参加者は、一般的に、特に中国と欧州の状況に関連した世界経済見通しの下振れリスクは最近数カ月で消失したと見ている(同:Participants generally viewed the downside risks associated with the global economic outlook, particularly those related to the economic situation in China and Europe, as having diminished over recent months.)」との記述が確認されます。

上記からは、FOMCメンバーが、資産規模の縮小に関しては慎重なスタンスで臨むこと、および米国景気回復について、自信を持っていることが読み取れると私は考えています。

したがって、今回の議事要旨公表が、これまで堅調であった米国株式市場の転換点になるとの考え方には賛同することはできず、仮にショックで大きく下落する局面があれば、投資機会になるのではないかと考えています。

今後、折に触れFRBの資産規模縮小に関する議論が、市場の論点となることは避けられないと考えます。皆さまのお役に立てるように、引き続き情報発信に努める所存です。

(2017年4月7日 9:00執筆)

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柏原 延行