【間違いだらけの金融用語】武力行使はリスクオフ相場? リスクオン相場?

金融の世界の「リスクオフ」はどう理解すればいいのか

軍事的緊張ならリスクオンでは?

「金融情報はわかりにくい」とお感じの方、実は多いのではないでしょうか。金融の世界に長くいるとなんとなく慣習で金融用語を使いこなしていき、書き手も読み手もその用語に対して同じ認識だと勝手に思い込んでしまいます。

こうした用語は、金融関係者同士であればほぼ間違いなく同じ事象として理解し合えるのですが、金融の世界以外の方には正確に伝わっていなかったり、その言葉使いでかえって誤解を生んでしまう場合があります。金融の言語空間はひょっとすると一般には通用しない「言語鎖国」なのかもしれず、筆者も含めた金融関係者のエゴがあるのかもしれません。

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先日「世界株(Weekly Market Briefing)」の記事を書いた後に家族に読んでもらったのですが、そこで出た質問が「武力行使が起きて軍事的緊張が高まっているのに、相場はリスクオフなのか? リスクオンではないか?」というものです。

これはもっともな指摘です。そしてここには金融の世界のリスクと一般的に使われるリスクという言葉が異なる意味であるという大変重要なポイントが浮き彫りになっています。今回はこの「リスク」について少し考えてみましょう。

リスクは一般に「発生確率は低いかもしれないが起きると困ること」

金融以外の世界では、リスクとは「あまり起きるとは思わないが、起きたら困ること」という意味で使われることが多いと思います。いかがでしょうか。

たとえばビジネスの世界では、「こうなりそうだ」「こうなってほしい、こうしたい」という将来の見通しをメインシナリオと呼び、その対比において「起きる確率は低いが、万が一起きたらこんなマイナスの事態になる」という意味でリスクシナリオが語られます。つまり、好ましくないことを「リスク」と呼ぶのが一般的ではないでしょうか。

このように考えると、武力行使が行われ政治・軍事的緊張が高まるときには、軍事的対立がエスカレートしたり、報復テロが頻発したりする可能性が高まり、人道的観点だけではなく経済的観点からもマイナスの影響が想定されます。

これはまさに「起きる確率は低いが、万が一起きたらマイナスの事態」が顕在化していると捉えられ、リスクが起きていると言えるでしょう。つまりこれこそ「リスクオン」であり、その相場が「リスクオン相場」であるべきだ、となります。

リスクオフ相場の意味とは

しかし、金融関係者は最近の相場を「リスクオフ」相場と言います。世の中の見通しが従来よりも不透明になってきたので、「できれば価格変動性(価格のぶれ)を減らしたい」と金融市場の参加者が考え、行動している相場を意味しています。

金融の世界では、リスクとは「良くも悪くも期待通りにならないこと」を意味します。たとえば、株式は長期的にはプラスにリターンを生むことが期待されますが、短期的には価格変動性が高くその動きはランダムです。一方、短期の預金であれば、その銀行が倒産しない限り予め定められた利息がほぼ確実に期日に支払われます。

そこで、最近のように政治的・軍事的緊張が高まると、リスクの大きい、つまりどんな値動きになるのか読めず振れ幅の大きい資産である株式を減らして、より安全な、価格変動性が低くてリスクの小さい預金や債券のような資産に資金を振り替える動きが金融市場の参加者のなかに生まれます。

この場合、新たに株式のリスクをわざわざ引き受ける投資家は、より低い価格でしか株式を買ってくれないでしょう。すると株価は下落します。一方、預金や債券の需要が高まり、その利回りは低下していきます。

「リスクオフ相場」はこのような相場を指します。一般的にリスクが起きているときに、それに合わせてリスクを減らそうと金融市場の参加者が行動している相場を「リスクオフ」と表現しています。

いかがでしたか。なんだかややこしい、とお感じの方も多いでしょう。そのときは「カロリーオフ」の食品を思い出してください。カロリー減=カロリーオフ、投資家がリスク(思い通りにならない不確実性)を減らす=リスクオフ、と覚えておけばよいでしょう。少しでもお役に立てれば嬉しく思います。

椎名 則夫

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椎名  則夫

早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。証券運用と法人融資に携わる。
シカゴ大学MBA取得。フィデリティ投信に入社、中小型株全般、医薬品・ヘルスケア、保険、通信、インターネットの企業調査に従事。その後モルガンスタンレー証券にて株・クレジットのリスク管理業務を行う。
日本証券アナリスト協会検定会員、CFA。