前回、「似ている」ことと「原因である」ことは違うから、因果関係に気をつける必要がある、と記しました(『統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく』)。今回は、因果関係について、じっくり考えてみましょう。

似ている二人は、親子か兄弟か、あるいは他人の空似かも

前回、「警察官の多い街は犯罪が多い」ことの理由について考えました。犯罪が多いから税収を公園整備ではなく警察官雇用に使うのであって、犯罪が親で警察官数が子である、というのが常識的な回答でしょう。いまひとつ、人口の多い街は警察官数も犯罪数も多い、という回答も可能であり、この場合は人口が親であって警察官数と犯罪数は兄弟の関係にあります。

このように、2つのデータが似たような動きをする場合には、AがBの原因である場合、BがAの原因である場合、別の原因によってAもBも影響を受けている場合があります。それが意外にも、偶然似たような動きをしている場合もありますので注意が必要ですが、データの数が多ければ、偶然似たような動きをする可能性は減ってきますので、データの数にも注意しておきたいですね。

株価が景気の先行指標なのはなぜだろう?

株価は、景気の先行指標だと言われています。実際、内閣府が発表している景気動向指数では、先行指数の作成に株価が用いられています。しかし、「株価が上がったから景気が回復した」というのは、あまり説得的ではありません。

強いて言えば「株を持っている金持ちが高額品消費を増やしたから」「株価が上がったので、何となく景気が良さそうな気がして、株を持っていない庶民も気が大きくなって消費を増やしたから」といった原因が考えられますが、決して主因とは言えないでしょう。

主因は、投資家が景気の動きを予測して株価の売買をするからでしょう。「景気が回復しそうだ」と人々が思えば、「景気が回復すれば、株価が上がるだろう。景気が回復する前に急いで株を買っておこう」という投資家が買い注文を出すので株価が上がる、というわけです。株価の方が先に動きますが、因果関係的には景気が親で株価が子だ、というわけですね。

金融政策が親で、株価と景気が兄弟だ、という場合もあります。金融を引き締めると、株価は比較的短期間で下落を始めますが、景気が悪化し始めるには時間がかかります。反対に、金融緩和に関しては、それほど明確ではありませんが、不況期には金融が緩和されているから株価が上昇しやすいのだ、という人もいます。

実際、人々が景気回復を予想する前から「不況下の株高」と言われる現象が見られることもあります。不況期には金融が緩和されていて、金利は低いですし、世の中に資金が出回っていますから、「銀行に預金するくらいなら、株でも買おう」と考える投資家がいても不思議ではないでしょう。

リーマンショックが親で、日本の株価下落と景気悪化が兄弟、という場合もあります。リーマンショックで米国株が暴落すると、日本株も暴落します。米国の景気が悪化すると、日本の輸出が減って日本の景気も悪化します。ただし、後者には時間がかかるので、タイミング的には株価下落が景気悪化の兄になる、というわけですね。

増税をすると景気が回復する場合もある?

「所得の高い人ほど、消費が多い」ということには異存はないでしょう。では、「消費が多い人ほど所得が高いから、金持ちになりたかったら消費を増やしましょう」と言われたらどうでしょう? 因果関係的には所得が親で消費が子ですから、消費を増やしても金持ちにはなれず、かえって貧しくなってしまうでしょう。

では、「景気が回復すると、税収が増えて財政赤字が減る」というのはいかがでしょう? これも、異存はないでしょうが、逆の「増税をすると景気が回復する」というのは、もしかしたら成り立つかも知れません。

増税をして、財政赤字が減ると、国債発行額が減ります。そうなれば、長期金利が低下するので、民間企業の設備投資が誘発されて景気が良くなる、というわけです。理屈としては、あり得なくはないですね。

でも、財務省の御用学者が、「世界各国のデータをグラフにしてみました。財政赤字が減っている国ほど、景気が回復しているのです。さあ、我が国も増税して景気を回復させましょう」と言ったら、それは間違いですよね。

「増税すれば金利が下がる」ことが必要なのですが、日本はすでに金利が極めて低いので、増税しても金利がこれ以上下がることは考えにくいからです。理屈だけで考えると、間違った判断をしかねません。現実を直視して、「日本にも当てはまる理屈か否か」を考えることが必要なのですね。

最後は、チョッと引っ掛け問題になりましたが、因果関係に限らず、物事を考える時には、個々の特殊事情にも注意しましょう、ということは覚えておきたいものです。言うは易く、行なうは難し、ですが。

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塚崎 公義