ソニー(6758)の創業は今から約70年前の戦後間もない1946年。今でいうベンチャー企業からスタートしたソニーは、今では、テレビ、ゲーム、デジカメ、さらに映画、音楽、保険、銀行と幅広い事業を展開する巨大なコングロマリット企業です。そのソニーの過去、現在、未来について徹底解説します。

目次

1. ソニーは、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融を3本柱にしたコングロマリット企業
  1.1 ソニーは「感動」を作る会社
  1.2 ソニーは多様な事業を手掛けるコングロマリット
  1.3 ソニーの現在を知るための近道は「IRディ」での資料を読み解くこと
  1.4 ソニーの主要分野は8つ
    1.4.1 ゲーム&ネットワークサービス分野
    1.4.2 モバイル・コミュニケーション分野
    1.4.3 イメージング・プロダクツ&ソリューション分野
    1.4.4 ホームエンタテインメント&サウンド分野
    1.4.5 デバイス
    1.4.6 映画
    1.4.7 音楽
    1.4.8 金融
  1.5 ソニーは金融分野と金融を除いたバランスシートを開示
  1.6 日本の電機の中ではトップだが、サムソン電子に比べると小粒

2. 70年の歴史を持つソニー

3. ソニーは「第二次中期計画」の最終年度である2018年3月期に最高益を目指す
  3.1 ソニーの業績は長期停滞を経て回復へ
  3.2 ソニーの株価、時価総額はまだ完全復活には至っていない
  3.3 「ソニーは復活した」、と評価されるために必要なこと

4. ソニーの経営者群像
  4.1 ソニーの歴代経営者には意外と文系が多い
  4.2 ソニーの創業時代の社長は井深大氏と盛田昭夫氏
  4.3 ソニーの現在の社長は平井一夫氏
  4.4 ソニーの年俸1億円超プレイヤーは直近では3人

5. ソニーが求める人材は自由な発想ができること
  5.1 ソニーはダイバーシティを重視
  5.2 ソニーの従業員関連データ

6. ソニーを知るために読んでおきたい関連書籍

まとめ

1. ソニーは、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融を3本柱にしたコングロマリット企業

まず最初は、ソニーがどのような会社であるかをざっくりと解説します。

1.1 ソニーは「感動」を作る会社

ソニーは戦後間もない1946年、従業員数約20名の小さな会社として創業されました。IPhoneで有名なアップルが創業されたのが約40年前の1976年ですから、それよりもさらに30年前のことです。

それから70年を経た現在のソニーは、連結従業員数が12.5万人、売上高8.1兆円(2016年3月期)、海外売上高が7割を超えるグローバル企業となっています。

 

ただし、今も昔も変わらないのが、「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神と、「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」という思いです。

1.2 ソニーは多様な事業を手掛けるコングロマリット

現在のソニーは、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融の3つの事業を展開しているコングロマリット企業です。

コングロマリットという事業形態は、景気サイクルに対して異なる業績の動きを示す事業を複数持つことでリスクを低減できるというメリットがありますが、一方で、外部(投資家、アナリスト等)からわかりにくいために、企業価値がディスカウント(割安)された状態に放置されてしまうといったデメリットがあるとされています。

これに対してソニーは、「テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき情熱で、ソニーだからできる、新たな「感動」の開拓者となる」というビジョンを社内外に向けて掲げることで、経営に求心力を持たせています。

1.3 ソニーの現在を知るための近道は「IRデー」での資料を読み解くこと

ソニーは、2014年11月からは「IRデー」を定期的に開催し、各事業のトップが事業戦略や経営目標を投資家やアナリストに対して直接説明することで、「経営の見える化」や「アカウンタビリティ(説明責任)」の強化を図っています。

こうした取り組みにより、「外部から理解しにくい」という問題を解消するとともに、ソニー内部でも、自分の所属する事業が全体のなかでどのような位置づけにあるのかという意識が明確になることが期待されています。

また、ソニーのような大企業となると、どうしても「自分たちの業績が悪くても他で補ってもらえる」という甘えがはびこりますが、「IRデー」を開催することで、そうした「大企業病」も克服することが期待できます。

短時間でソニーの現在が理解できますので、皆さんも、是非、IRデーで使われたこちらのプレゼン資料をご覧になってみてください。

1.4 ソニーの主要分野は8つ

では、ここからは、IRデーや決算説明会での資料などを参考にしながら、ソニーのエレクトロニクス、エンタテイメント、金融の3つの主要事業を見ていきましょう。

なお、エレクトロニクスにはゲーム、スマホなど5分野、エンタテイメントは映画、音楽の2分野が含まれ、合計すると、下図のように事業分野は8つに分かれます。このため少し長くなりますが、就職活動などでソニーの個々の事業に関心をお持ちの方も多いと思いますので、以下に各事業のポイントを簡潔にまとめてみました。

1.4.1 ゲーム&ネットワークサービス分野

この分野では、コンピュータエンタテインメントシステム「プレイステーション 4」をコアにした「プレイステーション」プラットフォームビジネスを手掛けています。

2016年5月にはPS4の全世界の累計実売台数が4,000万台、さらに2017年1月には5,340万台を超え、下図にあるように、歴代プレイステーション史上最速のペースで普及、拡大を続けています。

歴代PSシリーズの累計販売台数推移

出所:会社資料

また、プレイステーションのユーザー向けに定額でゲームコンテンツ等を提供する「プレイステーション プラス」などネットワークサービスも展開しており、下図のように順調に拡大しています。

ネットワークビジネスの売上推移

出所:会社資料

今後はさらに、VR(仮想現実)の世界でゲームを体験し楽しむためのヘッドセットであるPS VRの寄与が本格的に見込まれます。

このため、ゲーム&ネットワーク分野は、ソニーの成長を牽引する最大のドライバーとして位置づけることができると思います。

1.4.2 モバイル・コミュニケーション分野

モバイル・コミュニケーション分野は、スマホ市場の競争激化や市場成長率の鈍化などの影響を受け、採算性が大幅に悪化していましたが、2015年3月期から実施した構造改革の効果により、ようやく2017年3月期には黒字化の目途が立っています。

今後、Xperiaブランドのスマホについては、⾼付加価値領域の商品を強化して採算を確保する一方で、耳に装着してスマホを操作する「スマートイヤホン」などのアクセサリー製品や、IoTを活用しB2Bサービスなどの周辺事業も伸ばすことで安定的事業としていく考えです。

なお、この事業には100%子会社のソニーネットワークコミュニケ―ションズも含まれており、ソニーグループのISPとして、インターネット通信サービス「So-net」や、超高速通信「NURO 光」、モバイルサービス「nuroモバイル」なども展開しています。

1.4.3 イメージング・プロダクツ&ソリューション分野

この分野にはコンシューマー事業(レンズ交換式カメラ、交換レンズ、コンパクトデジタルカメラ、民生用ビデオカメラ)、プロフェッショナル・ソリューション事業(プロ向けビデオカメラ、コンテンツクリエーション関連システム、プロジェクタ、セキュリティカメラ、フェリカ)、メディカル事業(外科イメージング機器、医療周辺機器、細胞分析システム)が含まれます。

デジカメ市場は成熟市場となっていますが、ソニーでは自社で持つ光源、レンズ、イメージセンサー、画像処理チップ、IP伝送システム、ディスプレイを統合し、「新・イメージングプラットフォーム(“Light to Display”)」として活用することで、他社との差別化を図り、中期的な成長を目指しています。

1.4.4 ホームエンタテインメント&サウンド分野

この分野には、テレビ事業とビデオ&サウンド事業が含まれます。テレビ事業は、2005年3月期から2014年3月期まで実に10年間連続で営業赤字が続いていましたが、スリム化を進めることや、マーケティング機能の強化、高付加価値製品への注力などの取り組みの結果、2015年3月期から黒字が定着し、安定事業となっています。今後もいたずらに台数拡大やシェアを追わずに、差別化を軸に事業を展開していく考えです。

1.4.5 デバイス

デバイス分野には、イメージセンサー、カメラモジュール、電池などが含まれていましたが、2016年3月期にはカメラモジュールの減損を行い、事業を大幅に縮小しています。また、電池も2017年7月をめどに村田製作所への譲渡が決まっています。このため、この分野の大半はイメージセンサーが占めることになります。

イメージセンサーは、2016年4月に発生した熊本地震で工場が被災し生産に影響が出ましたが、2016年10-12月期からは、米国大手や中国スマホメーカー向けの旺盛な需要によりフル生産に回復しています。ちなみに、需要好調の背景には、ハイエンド製品へのニーズの高まりや、デュアルカメラの普及によるスマホ一台あたりの搭載数の増加などがあります。今後は、スマホ向け以外にも、自動車、FA機器、監視カメラなどへの積極的な拡販を計画しています。

1.4.6 映画

ソニーは、1989年に米コロンビア・ピクチャーズを48億ドルで買収し映画事業に参入しています。

映画事業は、映画製作(映画作品の制作・買付・配給・販売)、テレビ番組制作(テレビ番組の制作・買付・販売)、メディアネットワークス(テレビ、デジタルのネットワームオペレーション)の3つに分かれます。

このうち、映画製作は、コロンビア・ピクチャーズやトライスター・ピクチャーズなどの製作スタジオを持ち、大ヒットした「スパイダーマン」シリーズをはじめ、3,500以上の映画を製作しています。ただし、最近は新作のヒットが少なく、このため将来のDVDの売上も想定を下回る恐れが高まったため、2016年10-12月期に減損を行っています。

一方、テレビ番組制作は、「ブレイキング・バッド」や「ベターコールソウル」「ブラックリスト」など大ヒット作品を続々と生み出しており順調です。

また、メディアネットワークサービスも、世界178か国、16億視聴世帯までフットプリントが拡大しており好調です。ちなみに日本では、アニメ専門チャンネル「アニマックス」が強い市場ポジションを確保しています。

1.4.7 音楽

音楽分野には、音楽制作(パッケージ及びデジタル音楽制作物の販売)、音楽出版(楽曲の詞、曲の管理及びライセンス)、映像メディアプラットフォーム(アニメーション作品の制作・販売、音楽映像関連商品のソリューション提供)が含まれます。

ちなみに、日本では音楽を中心にアニメやゲーム、キャラクターなどのコンテンツビジネスやソリューションビジネス、ライブビジネスなど総合エンタテインメントカンパニーとして多角的に事業を展開しています。

一方、米国では、アデルやビヨンセなど人気アーティストをはじめ、様々なジャンルの音楽制作の展開に加え、ビートルズやマイケル・ジャクソンなどの大物アーティスト等の楽曲合計400万以上を管理・運営する音楽出版事業(Sony/ATV Music Publishing)も手掛けています。

1.4.8 金融

金融分野には、ソニーが62.1%の株式を保有するソニーフィナンシャルホールディングス(以下、SFH)が含まれており、生命保険、損害保険、銀行、介護の各事業を手掛けています。なお、決算数値は、ソニーは米国会計基準、SFHは日本基準であるため、決算期は同じでも両社の数値が異なることには注意してください。

SFHの収益の柱であるソニー生命は、4,600名以上のライフプランナーによるきめ細かいコンサルティング営業が強みとなっています。

一方、ソニー損保は、自動車保険と医療保険のダイレクト販売が特色であり、合理的な保険料設定と高品質なサービスを背景に、ダイレクト自動車保険において長年にわたり売上トップを確保しています。

また、ソニー銀行は、店舗を持たないインターネット銀行です。多通貨の外貨預金と利便性の高い住宅ローンなどが特色となっています。

1.5 ソニーは金融分野と金融を除いたバランスシートを開示

ソニーの財務内容も見てみましょう。下図のように2016年3月期末のソニーの総資産は約16.6兆円、株主資本比率は約15%となっています。

少し株主資本比率の低さが気になるところですが、これは金融事業の負債が多いことの影響です。

ちなみに、ソニーは金融分野と金融分野以外を分けたBSも開示しており、2016年3月期末では金融の総資産は約10.9兆円、株主資本比率は13%、金融除きでは総資産が約4.2兆円、株主資本比率が30%となっています。

1.6 日本の電機の中ではトップだが、サムソン電子に比べると小粒

現在のソニーの立ち位置を知るために、同業他社との比較を行ってみたいと思います。下図にみられるように、売上高についてはソニーは日本企業のなかでは日立製作所に次ぐ規模ですが、韓国のサムソン電子と比べると半分以下となっています。

2. 70年の歴史を持つソニー

ソニーは、2016年に70周年を迎えました。その歴史を企業のステージごとにざっくりと分類すると、以下のようになります。

創業から成長に向かった時代(1946年~1970年代中盤)
この期間は、戦後間もない1946年に井深大氏や盛田昭夫氏らによって「東京通信工業」として創業されてから、テープレコーダ、トランジスタラジオ、家庭用VTRなどの成功によって成長を遂げた時代です。

多角化による成長を目指した時代(1970年代後半~1990年代中盤)
1979年に発売されたウォークマンの大ヒットにより、ソニーは世界中からイノベーティブな会社として注目を集めました。また、同じく1979年にはソニープルデンシャル生命保険を設立し金融事業にも参入しています。さらに、1988年にはCBSレコード、1989年にはコロンビアピクチャーを買収し、事業領域をエンタテイメント分野にも広げています。

ピークから停滞へ向かう時代(1990年代後半~2000年代後半)
ソニーは1998年3月期にCD、カムコーダ、初代PSの好調などにより過去最高となる5,257億円の営業利益を計上しています。ただし、その後は、エレクトロニクス分野でヒット製品を生み出せず長期間の停滞局面に向かいます。さらに2000年代の後半になると、デジタル化の波に乗れなかったことやサムソン電子などの海外メーカーとの競争激化などにより、一段と苦境に立たされました。

平井社長体制での経営改革時代(2012年~)

そうしたなか、2012年にハワード・ストリンガー氏の後をついで社長に就任したのが、現社長でもある平井一夫氏です。

就任直後に発表された「第一次中期計画」(2013年3月期~2015年3月期)では、「ソニーを変える。ソニーは変わる」と高らかに宣言し、不退転の構造改革を行うことを宣言しました。また、ここでとりわけ強調されたのが、収益悪化が続いていたエレクトロニクス事業の改革でした。ただし、こうした取り組みが業績面で成果にあらわれてきたのは、「第二次中期計画」(2016年3月期~2018年3月期)がスタートしてからです。

その「第二次中期計画」には、以下の4点の注目点があります。

第1は、各事業の経営目標を株主などの社外のステークホルダーに説明する責任(アカウンタビリティ)を持たせたことです。これにより社内の「内輪」が理由で、目標が達成できないことを曖昧に処理してしまうというこれまでの悪癖が排除されることになります。

第2は、エレキの中の事業ポートフォリオを明確に定義付けられたことです。具体的には、各事業は、「成長牽引領域」、「安定収益領域」、「事業変動リスクコントロール領域」の3つのタイプに分けられ、一律ではなく、それぞれの事業特性に合わせて目標が設定されました。

第3は、資本効率の重視が掲げられたことです。各事業領域に与えられる目標値には、これまでの売上高や営業利益に加えて、新たにROIC(投下資本利益率)も加えられました。

第4は、中期計画が完了以降も安定的に高収益を生み出すため、「リカーリング型事業モデル」の強化が打ち出されたことです。

「リカーリング型事業モデル」は、継続的に安定して収益を生み出す事業であり、ソニーのゲーム事業や金融分野では、安定した顧客基盤やプラットフォームを活用することで、そうしたビジネスモデルを築き上げることに成功しています。

ソニーでは、今後、その成功体験をネットワークサービス事業、映画分野におけるメディアネットワーク事業、デジタルイメージング事業における交換レンズ、アクセサリーなどにも広げ強化することで、安定成長を目指す考えです。

3. ソニーは「第二次中期計画」の最終年度である2018年3月期に最高益を目指す

ここからは、ソニーの業績や株価の推移を見ていきましょう。

3.1 ソニーの業績は長期停滞を経て回復へ

まず、下図の過去10年間の業績をご覧ください。売上高は8兆円前後、営業利益率は▲3%~4%で推移しており、この期間だけでとらえると、安定成長というよりもむしろ停滞感の強いものとなっています。

これに対して、ソニーの「第二次中期計画」の最終年度である2018年3月期には営業利益5,000億円以上、ROE10%以上を目標値として掲げています。

ちなみに、下図にあるように、ソニーが5,000億円を超える営業利益を計上したのは98年3月期の一度だけであり、このことから、決して容易な目標値ではないことがわかります。

過去最高益は1988年3月期

出所:会社資料

しかしソニーでは、この目標値を達成することはソニーが高収益企業へ変わるためのマイルストーンと位置付けて、強い決意で臨んでいます。

ちなみに、2017年3月期の会社予想営業利益は2,400億円ですので、2018年3月期は前年度比2倍強の大幅増益を達成する必要があることになります。

とはいえ、2017年3月期には、映画の減損、震災影響などの一時的な要因が含まれていることや、ゲーム、イメージセンサーの好調持続が期待できそうであることなどから、達成が全く不可能ということでもありません。

いずれにせよ、この目標数値を達成できれば、20年ぶりの快挙ということにもなるため、期待を込めて見守っていきたいと思います。

3.2 ソニーの株価、時価総額はまだ完全復活には至っていない

次に株価の推移を見てみましょう。下図は過去10年間のソニーの株価推移ですが、ピークは2007年の5月(7,190円)、ボトムは2012年11月(772円)となっています。

10年間株価推移

また、直近の株価は、ボトムから約4.5倍も上昇していますが、ピークに対しては約5割の水準に留まっています。ちなみに、時価総額については、この間に行われたエクイティファイナンスによる株数の増加により、ピーク比で6割程度の回復となっています。

いずれにせよ、金融危機前の水準に比べるとなお株価も時価総額も低い水準に留まっているため、株式市場から見たソニーは、いまだに完全復活を織り込んだ状態にはないことになります。

なお、以下の図は過去1年間の株価推移です。

3.3 「ソニーは復活した」、と評価されるために必要なこと

では、今後ソニーが復活したと評価されるためには、なにが重要となり、どこに注目していくべきでしょうか。筆者は、そのポイントは以下の3点にあると考えます。

第1は、「第二次中期計画」で示された業績目標が達成されることや、「リカーリング型ビジネス」の拡大が明確になることです。これらが実現されれば、ソニーは名実ともに高収益安定成長企業として評価される可能性が高いと考えます。

第2は、新たに参入するロボット事業の事業化が明確になることです。

ソニーは、2016年6月に開催された経営説明会において、一度は撤退したロボットに再チャレンジすることを表明しています。

具体的な参入時期や製品の姿については、これまでのところ明らかにはなっていませんが、平井社長は、「家庭での生活をより便利かつ快適に、そして楽しくするような用途を検討」、「お客様と心のつながりを持ち、育てる喜び、愛情の対象となり得るようなロボットもある」、「製造工程や物流分野への応用も考える」などとコメントしているため、ヒト型ロボットの開発が想定されている可能性が高いと推察されます。

なお、ソニーでは、ロボット事業の開発を強化するために、2016年には米国のAI(人工知能)関連のベンチャー企業に出資を行うとともに、今後必要となる技術や人材への投資を行うために「ソニーイノベーションファンド」と呼ぶベンチャーファンドを設立しています。

第3は、第2とも関連しますが、新規事業の開発が加速することです。

ソニーには、「SAP(Seed Acceleration Program)」という仕組みと、「TS事業準備室」とよばれる社長直轄の組織を活用することで、若手社員による新規事業のアイデアを募り事業化を進めています。

すでに、SAPからはアナログ腕時計のバンドにスマホのペアリグや電子マネーなどの機能を集約した「wena wrist」、小さなブロック形状の電子タグでIoTを活用した仕組みを簡単に実現する「MESH」、電子ペーパーを活用し文字盤とベルトの柄を自由に替えられる腕時計「FES Watch」、同じく電子ペーパーを活用し自分好みの多機能リモコンを作れる「HUISリモートコントローラー」、気分に合わせて5つの香りを持ち運べるスティック型アロマ噴出器「AROMASTIC」など、ソニーの既存事業分野を超えたユニークな製品が生まれています。

一方、「TS事業準備室」からは、居住空間における新しい体験の創出を目標としたLife Space UXというコンセプトに基づいて、4K超短焦点プロジェクター、LED電球スピーカー、グラスサウンドスピーカーなどファッション性に優れイノベーティブな製品の商品化が進められています。

いずれも、既存の組織や技術の枠組みにとらわれず斬新なアイデアで事業化への取り組みが行われており、ソニーのミッションである「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」に見合う事業がそこから生み出される可能性が高いため、今後の動向が注目されます。

4. ソニーの経営者群像

続いては、ソニーの経営者についてです。

4.1 ソニーの歴代経営者には意外と文系が多い

まず、ソニーというとハイテク企業であるため、理系社長が多いというイメージがありますが、歴代10人の社長のバックグラウンドを調べてみると、下表に示したように、内訳は理系が4人、文系が6となっています。なお、現在の社長の平井氏も文系出身者です。

ソニーの歴代社長

出所:各種資料より投信1編集部が作成

4.2 ソニーの創業時代の社長は井深大氏と盛田昭夫氏

ソニーの経営を語るうえで欠かせないのが、創業メンバーであり、かつ社長であった井深氏と盛田氏です。

井深氏はソニーの2代目の社長ですが、初代社長である元文部大臣の前田多門氏は義父にあたり名誉職であったと推察されることから、実質的には井深氏が創業社長ということになります。ちなみに、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」というフレーズで有名なソニーの設立趣意書も井深氏の起草によるものです。

一方、3代目の盛田昭夫氏は、戦時中に井深氏と出会い、戦後、井深氏がソニーの前身である東京通信研究所を立ち上げるとともに、創業メンバーとして参画しています。盛田氏は、技術者でありながら営業マンとしても優れており、そのことがウォークマンなどのユニークな製品を世界的にヒットさせたことの一因となっています。

4.3 ソニーの現在の社長は平井一夫氏

現在のソニーの社長は平井一夫氏です。1984年に大学を卒業後、CBS・ソニー(現在のソニーミュージックエンターテイメント)に入社。その後、ゲーム部門で頭角を現し、2012年にソニーの社長に就任しています。幼少期に海外生活が長いため流暢な英語を操ることや、気さくな人柄であることが有名です。

4.4 ソニーの年俸1億円超プレイヤーは直近では3人

役員報酬についても見てみましょう。2016年3月期の有価証券報告書によると、トップは平井一夫社長で、基本報酬と業績連動報酬合計の報酬総額は5.13億円でした。2番目は吉田憲一郎副社長で1.47億円、3番目が鈴木智行副社長で1.36億円でした。

時系列で見ると、1億円超の役員報酬を得た人数は2010年3月期が7人、2011年3月期は6人、2012年3月期は3人、2013年3月期が3人、2014年3月期が2人、2015年3月期が2人で、2016年3月期は前年度より1人増加したものの、以前と比べるとまだ少人数に留まっていることが分かります。

ちなみに、同じ電機業界でも三菱電機(6503)の場合、2015年3月期の1億円超プレイヤーは23人もいました。こうしたことを鑑みると、まだソニーの復活は道半ばではないかという印象になります。

5. ソニーが求める人材は自由な発想ができること

最後は、就活生や中途採用での転職をお考えの皆さんのためにソニーの採用について見てみましょう。

5.1 ソニーはダイバーシティを重視

これまで述べてきたように、ソニーはエレクトロニクス事業だけではなく、ゲーム&ネットワークサービス事業、エンタテインメント事業、金融事業など幅広い事業を展開しています。これは70年超の歴史のなかで「人のやらないことをやる」というチャレンジ精神の結果であるともいえます。

これからソニーで働くことを希望される方は、まずその歴史を理解し、自分がやりたいことを明確にして採用試験に臨んでください。ソニーは、自由な発想やアイデアを大切にすることや、一人ひとりの個性を重視する会社ですので、人々の生活に新しいインパクトを与え、好奇心を刺激し、感動を伝えたいという熱意をお持ちの方であれば、年齢、国籍、バックグランを問わず、きっと関心を寄せてくれるはずです。

なお、ソニー採用について詳しくお知りになりたい方は、こちらをご参照ください。

5.2 ソニーの従業員関連データ

2016年3月期末の連結従業員数は12万5,300名で、このうちソニー単体では1万511名となっています。また、ソニー単独の従業員の平均年齢は43.4歳、平均勤続年数は18.5年、平均年間給与は935.5万円となっています。

6. ソニーを知るために読んでおきたい関連書籍

ソニーに関する書籍はこれまで多く出版されてきました。業績が悪かった時代が長く続いていため、厳しい論調の書籍も多いですが、それはそれだけソニーが愛されてきた証であるとも捉えられます。

ソニー本社六階

この本には、1990年代のソニーの内情がよく描かれています。ちなみに、当時の本社はソニー発祥の地である北品川の御殿山という場所にありましたが、すでに売却され現在はマンションとなっています。

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

2000年代のソニー停滞期の苦悩がよく理解できる本です。

さよなら! 僕らのソニー (文春新書)

ソニーウオッチャーとして長年の経験をお持ちのジャーナリストによる力作です。"Love and Hate"、愛しているから憎い、ということでしょうか。

SONY 平井改革の1500日

この本を読めば平井社長による改革がよく理解できます。

まとめ

いかがでしたか。ソニーは70年の歴史を持つ大企業ですが、これからも世の中がいまだ経験したことのないような新しい感動や文化を創り出し、挑戦し続ける企業であることがご理解いただけたのではないかと思います。

今後もソニーの成長への取り組みを注視しながら、適宜アップデートしていきたいと思います。

LIMO編集部