東芝メモリの買い手で有力なブロードコムとは? その狙いは?

ライバルのウエスタンデジタルを大きく上回る時価総額と株価上昇率

東芝メモリの第一次入札が終わる

2017年4月12日、東芝(6502)再建の最後の切り札とされる東芝メモリの売却先決定のための第一次入札が完了したと各種メディアが報じています。

報道によると、入札を通過したのは、ブロードコム社(プライベート・エクイティファンドのシルバーレイクと連合での参加)、ウエスタンデジタル、SKハイニックス、ホンハイ(鴻海)の4陣営です。また、4月14日付の朝日新聞は、約2兆円の買収金額を提示したブロードコムが最有力であると報じています。

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この4社のなかでホンハイについては、半導体業界にあまり接する機会のない方でも、シャープの再建パートナーとして名前は知っているという方が多いと思います。

また、SKハイニックスはお隣の韓国メーカーであり、ウエスタンデジタルはHDDメーカーとして有名で、かつ東芝の四日市工場でメモリの製造合弁会社を持つパートナーであることから、聞き覚えのある名前かもしれません。

では、ブロードコムについてはいかがでしょうか。おそらく、同じく米国の半導体メーカーであるインテルに比べると知名度は低いと思われます。そこで、ブロードコムとはどのような会社か、以下にわかりやすく解説したいと思います。

そもそもブロードコムとはどのような会社か

ブロードコムは通信機用を主力とする半導体メーカーです。また、設計開発だけを自社で行うファブレス(工場を所有しない)半導体メーカーです。

事業モデルはこのように極めてシンプルである一方、企業としての歴史はやや複雑です。

大もとはヒューレッドパッカード(HP)を起源としており、そこから分社したアジレントテクノロジーがさらに半導体部門を分社化し、アバゴテクノロジーという現在のブロードコムの前身が作られています。

かつてのHPは、計測器からパソコン、サーバー、プリンターまで手掛ける総合電機メーカーであり、日本でいえばNEC(6701)や日立(6501)のような存在でした。日本のルネサスエレクトロニクス(6723)も総合電機メーカーから分社して設立されていますので、似たような歴史をたどってきたということになります。

そのアバゴテクノロジーは、分社後にLSIロジック、アギア(もともとはAT&Tの半導体部門)を統合し、さらに2016年に通信用半導体メーカーであるブロードコムを約4.6兆円という巨額な金額で買収しています。また、その時点で社名をアバゴからブロードコムに変更しています。

つまり、現在のブロードコムは「新生ブロードコム」ということになります。ちなみに、株式市場でのブロードコムのティッカーシンボルが「AVGO」となっているのは、こうした経緯があるためです。

歴史についての話が長くなってしまいましたが、事業内容についても触れると、2016年度(2016年10月期)の実績(特殊要因を除くNon-GAAPベース)は売上高が1.46兆円、粗利益率が60.5%、営業利益率が40%と、比較的高い採算性を確保しています。

また、売上構成比は光通信用などの有線関連が50%、アップル向けRFチップなどの無線関連が29%、データセンター用ストレージシステム向けが約17%となっています。

ウエスタンデジタルはなぜブロードコムを警戒するのか

さて、このように買収を繰り返して成長してきたブロードコムは、東芝メモリの買収に成功するのでしょうか。また、買収によって何を得ようとしているのでしょうか。

まず、買収の成否ですが、そのことを考えるうえで気になるのが、「ウエスタンデジタルが売り手の東芝に対して独占交渉権を求めることや、特にブロードコムには売却しないようにという要求と警告を書簡として東芝の経営陣に対して送付した」という複数のメディアによる報道です。

ちなみに、このニュースが報じられた12日のブロードコムの株価は前日比約▲4%の下落となっています。

明らかにウエスタンデジタルはブロードコムを警戒していますが、以下のように両社の時価総額や株価パフォーマンスを比較すると、警戒するのも無理がないと感じられます。

まず、時価総額については、ブロードコムが約9.2兆円に対して、ウエスタンデジタルは約2.6兆円にすぎません。また、過去3年間の株価の変化率も、ブロードコムが3.3倍の上昇に対して、ウエスタンデジタルは▲5%減に留まっています。

ウエスタンデジタルも2016年にサンディスクを買収していますが、それでもブロードコムに比べると株価はあまり冴えません。つまり、これまでの株式市場の評価は、買収戦略の巧みさという点で、ブロードコムに軍配を上げていたということになります。

12日に下落したブロードコムの株価は、13日には再び上昇に転じています。このことは、ブロードコムのこれまでの買収の実績に対する信頼が、まだ大きくは揺らいでいないことを感じさせます。このため、この買収は成功確率は、それほど低くはないのではないのかという印象が持てます。

では、ブロードコムはこの買収で何を得ようとしているのでしょうか。

現時点では、明確な理由は公表されていませんが、おそらくこれまでの買収の歴史と同様に、販売シナジーと対象市場の拡大を狙っていると考えられます。

具体的には、ブロードコムは東芝メモリを手に入れることで、アップルなどのスマホメーカーやオラクルなどのストレージメーカーなどに対し、フラッシュメモリーと通信用チップをワンストップで提供するというシナジーが得られると期待しているのではないでしょうか。

また、余談であり、あくまでも筆者の個人的な推測ですが、ブロードコムはこの買収が成立したら、今度はウエスタンデジタルにも食指を動かし、さらに半導体業界での地位を上げようとしている可能性も考えられます。また、そのことが、ウエスタンデジタルがブロードコムをここまで警戒する本当の理由ではないかという気もします。

いずれにせよ、半導体業界再編の中心でもあるブロードコムの今後の展開を引き続き注視したいと思います。

ブロードコム(青色)と ウエスタンデジタル(緑色)の株価比較

和泉 美治

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和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。