トランプ政策大転換、原油価格を揺るがす本当の地政学リスクはどこに?

バノン氏失脚と親イスラエル派の台頭から見えてくるもの(前編)

写真はイメージです

4月6日に米軍がシリア空爆を実施して以降、マーケットは地政学的リスクという暗雲に覆われ、株式市場は世界的に下落しています。

先週は、シリア、北朝鮮、中国、為替、FRBと市場の関心が目まぐるしく変わりましたが、一連の動きはトランプ大統領の側近とされていたバノン首席ストラテジストの失脚をきっかけとしている模様です。バノン氏失脚で見えてくるトランプ政権の政策転換とその影響について整理してみました。

クシュナー氏を中心に親イスラエル・反イラン派が勢力を急拡大

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バノン氏失脚の最も大きな影響は、トランプ政権が伝統的な共和党政権に見られる親イスラエルへと回帰したことにあり、一連の政策転換の背景となっている模様です。

バノン氏は“ワシントンをぶっ壊す”をスローガンに既成の政党政治からの脱却を目指していましたが、政権発足後は目玉であったオバマケアの廃案がいきなり暗礁に乗り上げてしまい、議会政治の壁に跳ね返された格好となっています。

また、バノン氏は反イスラム主義として有名ですが、反ユダヤ主義でもあり、親イスラエルではありません。今回のシリア空爆にも反対していました。

一方、トランプ大統領の娘婿で、大統領上級顧問を務めるあるクシュナー氏は敬虔なユダヤ教徒として知られています。イスラエルのネタニヤフ首相とは家族ぐるみの付き合いであり、家業である不動産業ではイスラエルの銀行からも融資を受けています。生粋の親イスラエルであることは疑う余地がなさそうです。

共和党は伝統的に親イスラエルであり、反イランです。結果論ではありますが、共和党議会と米軍関係者が親イスラエルで反イランのクシュナー氏を担ぎあげ、反ユダヤ主義で中東への不干渉を主張するバノン氏を失脚に追い込むのに100日も要しなかったのは必然だったのかもしれません。

緊張が高まっているのはシリアでも北朝鮮でもなく、イスラエルとイラン

イスラエルにとって安全保障上の最大の脅威はイランです。イランの最高指導者ハメネイ氏は「イスラエルは地図から消えるべき」と繰り返し述べていますが、これは言わばイラン国民の悲願でもあります。

オバマ前大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相が進めるパレスチナへの入植活動を批判するとともに、対イランでは宥和政策を取り、2015年には核合意にこぎつけました。

イスラエルは核合意について核開発の可能性を残しているとして反対しており、イスラエルとの関係を重視するトランプ大統領も核合意は破棄すると公言しています。

イランでは5月に大統領選挙が予定されていますが、核開発を推進し、米国との対決姿勢を維持した保守強硬派のアハマディネジャド前大統領が立候補を表明しています。イランでは反米が国民の支持を集めており、今回のシリア空爆は対米強硬派には追い風となりそうです。

もし、現職で穏健派のロウハニ大統領の再選が阻まれるようなら、イランと米国は対決姿勢を一層強めることになりそうです。

イランは核合意後に長距離ミサイルの開発を加速させており、高い精度のミサイルがイスラエルを射程圏に入れた模様ですので、イスラエルは落とされる前に落とさなければ国家存亡の危機に瀕する恐れがあり、まさに“今ここにある危機”となるわけです。

シリア空爆で原油価格60ドル突破シナリオに現実味

シリアでの内戦ではアサド政権が勝利をほぼ手中に収めていることを踏まえると、米軍によるシリア空爆はイランへの事実上の宣戦布告以上の意味はないのかもしれません。

一方、反イランの明確な意思表示はイランと敵対するサウジアラビアとの関係を改善することになりそうです。

サウジアラビアによるシリアへの空爆要求をオバマ政権が拒否したことで、かつては“蜜月”だったサウジと米国の関係が冷え切ってしまい、その影響でサウジは原油市場で米シェール企業との価格競争に踏み切り、その多くを破綻させました。

しかし、共和党政権の誕生で関係が修復され、昨年11月にはOPECが減産に合意し、価格競争に終止符が打たれました。サウジは敵対するイランにも減産を求めていたことから合意は無理と見られていましたが、経済制裁前の水準までの増産を要求するイランの主張をあっさりと認めたことは大きなサプライズでした。

米国が反イランで共同歩調を取るならば、サウジは原油安で苦境にあえぐ米シェール企業を支援するために、自国の利益を多少犠牲にしてでも減産することにはやぶさかではない模様です。

米シェール企業とサウジはともに60ドル/バレルを目標としていますので、トランプ政権の中東政策転換に呼応して、5月25日に予定されている次回のOPEC総会で減産を延長し、目標達成を支援する公算は小さくなさそうです。

ただ、その前週の5月19日にはイランで大統領選挙が予定されており、対米強硬派が勝利した場合には減産を延長するまでもなく原油価格が上昇してしまう公算もありそうです。

トランプ政権がイランへの強硬姿勢を取るだけでも原油価格は上昇する可能性がありますが、関係が悪化すれば軍事行動に出ないとも限りません。その場合には、影響が見極められる段階になるまでは、原油価格は天井知らずの上昇となるかもしれません。

後編に続く

投信1編集部

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