あなたは我が子に働く背中を見せられますか?

テレワークの普及が変える親子関係

「親の背中を見て子は育つ」

「親の背中を見て子は育つ」という言葉があります。この言葉には、「親が伝えたいと思っているかどうかに関係なく、子は自分の目で見た親の行動から多くのことを吸収していく」という意味が含まれているようです。「親を見て」ではなく、「親の背中を見て」というあたりに、この言葉の奥深さが感じられます。

私が調べた限り、この言葉の出典ははっきりしておらず、いつの間にか言われるようになったようです。ここからは推測となりますが、昔の人の働き方に関係があった言葉とも思えます。

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今も昔も、多くの人は、自分の時間の大半を「働く」ことに充てています。江戸時代の人口の多くを占める農民や商人は、それこそ1日中働いていました。明治時代に入ってからもその状況はあまり変わらなかったでしょう。家族の皆が家の仕事に関わり、家族の生活圏の中の、すぐ目の届くところに「働く」場がありました。

子のすぐそばで親が働いているという環境が普通で、子はすぐそばの「親の背中」を見ながら育っていきました。だからこそ、「親の背中を見て子は育つ」という言葉で、親は自らの行動を律していたのではないでしょうか。

「会社勤め」という働き方が普通になり「親の背中を見る」機会は減少

時代が下り、大正時代になって、いわゆる「サラリーマン」という言葉が出てきました。今から100年ほど前、第1次世界大戦前後に多くの会社が勃興する中で、会社に出勤して働き、給与所得を得るという、「会社勤め」という働き方が広まっていきました。

太平洋戦争後も、高度成長期を経て、2000年頃まで「サラリーマン」の人口は増えていきました。「サラリーマン」としての働き方は、ごく普通のものとなりました。

このことは、家族における親子の関係を変えたと考えられます。最も大きかったのは、子のそばで親が働くことがなくなったということです。

「親の背中を見る」機会は激減し、特に父親は、朝早くから夜遅くまで家にいない人、休みの日にしか会えない人となりました。さらに、共働きの世帯が普及すると、祖父母と同居していない限りは、家の中は子しかいないことになりました。

政府が強く後押しするテレワーク普及

2017年3月28日に、首相官邸の働き方改革実現会議にて、「働き方改革実行計画」が決定されました。「同一労働同一賃金の徹底」とか、「長時間労働の是正」といった多くの施策の中に、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」というものがあります。その目玉は、テレワークの推進です。

テレワークは、「ICTを活用して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義されており、総務省が中心となって、その普及を強く推進しようとしています。

つい先日、政府は、今年から7月24日を「テレワーク・デイ」に定めました。なぜ7月24日なのかと言うと、2020年の東京五輪の開会式の日だからです。

2012年のロンドン五輪の際、交通混雑の緩和のためにロンドン市内の約8割の企業がテレワークを実施し、効果を上げたそうです。その事例にならい、東京五輪の開会式の際の混雑緩和を図りつつ、テレワークを普及していこうとしています。

国土交通省の「テレワーク人口実態調査」によると、2015年の雇用型在宅型のテレワーカー(週1日以上終日在宅で就業する人)は約160万人で、全労働者の2.7%に過ぎないとあります。

「働き方改革」の趣旨は、柔軟な働き方という多様性を認めようということのはずですので、「テレワーク・デイ」を設けて全員右にならえとしようというのは、何となく違和感が残りますが、それだけテレワークの普及率の低さに対する危機感があるということなのでしょう。

いずれにせよ、柔軟な働き方の1つの手段として、テレワークの普及が進む可能性は高いと思われます。

テレワークという働き方は親子の関係を変える?

テレワークという働き方が当たり前のものになったら、どのような生活になるのでしょうか。通勤に費やす時間は短くなるでしょうし、自宅で好きな時間に自分のペースで仕事ができる、ということになるでしょう。その一方で、私は、家族との接し方も変えていく必要があると考えています。その中でも特に親子の関係は工夫が大事になりそうです。

たとえば、テレワークで週1日だけ出社すれば良いことになったとしましょう。出社日以外は自宅で仕事ができるとすると、子のすぐそばで仕事をする時間が多くなります。働く親の背中を子が見る機会がぐっと増えます。教育上、自分の子に変なところを見せるわけにはいかないと考えれば、軽い緊張感で背筋がぴんと張るのではないかと想像されます。

このことをどのように捉えるかですが、ポジティブに考えれば、早い段階から、「働く」ことはどういうことなのか、家族が「働く」ことが自分たちの生活にどのように関わっているか、といったことを子に伝える機会になると考えられます。一方、テレビ会議で怒られるなど、変なところを見せることになってしまうと、あまり良い影響はないかもしれません。

テレワークが普及した世界では、親子の接し方をうまく工夫することが大事になってきそうです。子が親から得られるものが変わってくるからです。そして、それが教育という、子への贈りものであり、親にとっての大きな投資行動の効用を左右していくように思います。

藤野 敬太

ニュースレター

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藤野 敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。日本ファミリービジネスアドバイザー協会執行役員・フェロー