「インバウンド消費」といえば、旅行も飲食もショッピングも、「中国人」が主役。不動産の世界でも、都内の豊洲、有明のタワーマンションを中国人が爆買いした時期があったように、彼らの存在感は無視できません。

世界中から不動産業者が売り込みにくる中国

彼らの母国である中国は、実は世界中の不動産情報が集まる場でもあります。北京、上海、広州など主要都市で、毎月のように大規模な不動産イベントが行われ、そこに集まる情報は質・量ともに、日本の比ではありません。

たとえば、今年4月13~16日の「北京投資移民展」にブース出展していた不動産業者は、国別でいうと、

アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツ、ギリシャ、キプロス、トルコ、タイ、マレーシア、シンガポール、日本、ベトナム、パナマ、ドミニカ、グレナダ

の22カ国です。

その多様さに驚かれるかもしれませんが、これでも少なくなった方です。昨年9月の同イベントでは、上記に加えて、

オーストリア、スロベニア、マルタ、カンボジア、韓国、セントルシア、アンティグア・バーブーダ

といった国々の不動産業者が出展していました。

なぜ中国に情報が集まるかというと、理由は簡単で、彼らが「良いお客さん」だからです。中国人が全世界で、ものすごい数の不動産物件を買っているので、アジアのみならず遠くヨーロッパや北米、カリブ海からまでも業者が売り込みに来るのです。

北京投資移民展の様子(写真提供:筆者、以下同)

海外不動産がバカ売れする国は?

世界中見渡して、今、海外不動産がバカ売れする国・地域は3つしかありません。

  • 中国
  • ロシア
  • ドバイ(アラブ首長国連邦)

この3地域に共通する点は、「富裕層や小金持ちが多い」、「自分の国を信用していない」、「まとまったお金ができると、海外の資産に換えたがる」…。海の向こうの不動産物件を売る上で最高のマーケットであることは論を待ちませんね。

もっとも、3地域それぞれ好みのパターンが違います。

  • 中国人は、「永住ビザやパスポートが取れる国」を好む (南欧、カリブ海諸国等)
  • ロシア人は、「気候が暖かくて季節居住できる国」を好む (トルコ、タイ、ベトナム等)
  • アラブ人は、「欧州の大都市(特にロンドン)」を好む

中国人のニーズを取り込もうとする南欧

中国人の「海外の永住権を取りたい」願望は昔も今も強烈です。10年ほど前はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど英語圏諸国で、「不動産を買えば永住権が取れる」状況だったため爆買いが起こりましたが、今ではそれらの国の永住権は取りにくくなりました。

代わりに台頭してきたのが、経済不況に悩む南欧の国々。2012年10月にポルトガルが、「EU圏外の海外投資家がポルトガルに投資することによって居住許可を取得できる」、いわゆる「ゴールデンビザ」の発給を始めました。

そして、数年後にスペインやギリシャが追随。今やこれらの国々は、25~50万ユーロ(約3,000~6,000万円)の不動産取得でEUの永住権が手に入る状況になっているため、大勢の中国人が競って購入しています。

ドミニカ、セントルシアなどのカリブ海諸国はもっと露骨で、「数千万円の不動産を買った中国人に国籍(パスポート)をプレゼントする」サービスを始めています。それらの国籍を得る上でドミニカ等へ渡航する必要はなく、中国の自宅にいながらパスポートが書留郵便で送られてくる…。これを目の当たりにすると、「国籍って一体何なんだ」と思ってしまいますが。

中国人はビザなしで渡航できる国が世界で7カ国のみという、極めて不便なパスポートに不満を募らせています。彼らにとってはドミニカ国籍を得ただけで十分、自由度が高まるんですね(同国パスポートでビザなし渡航できる国は100前後)。

「北京投資移民展」でパナマの不動産業者と

日本に入ってこない海外不動産の情報も中国にはある

中国人の場合、「ビザ・パスポート目当て」という要望が強いために、そのニーズに最適化した不動産案件の紹介が多くなる面もあります。

たとえば、「アメリカのラスベガスで、利回りが年1%で永住ビザが取れる案件」が中国で人気を博していますが、米国グリーンカードをあまり欲しがらない日本人投資家にとっては、利回り1%だと全く魅力的ではありません。

とは言いつつも、ビザ・パスポート目当て以外の、純粋に投資目的の海外不動産情報も、中国には豊富に存在します。たとえばドイツ、フランス、オランダなどは、不動産を買っても永住権が簡単に得られる国ではありませんが、案件によっては利回りが高くてリスクも低く、収益物件として十分成り立つものがあります。

そういう情報も日本ではなく中国に真っ先に入ってきます。

そんな中国を、私は昨年から「情報収集の場」として活用しています。日本にいても大した情報は入ってきませんが、飛行機でわずか3時間、北京や上海のイベントに参加すれば、そこには全世界の不動産情報が一堂に集結しています。

私は中国語ができるのでコミュニケーションの問題もありません。このようにして、「ほとんどの日系業者が得ていない一次情報」にアクセスし、時にはそれを商売のタネにしています。

鈴木 学