6月利上げでますます深まる“イエレンの謎”とは?

長期金利はなぜ伸び悩んでいるのか

米連邦公開市場委員会(FOMC)と米雇用統計の結果を受けて6月の米利上げ確率が高まっています。

利上げは景気の強さの裏返しとも言えますが、長期金利の上昇が限定的なことから“イエレンの謎”を不安視する見方もあり、順風満帆とまではいかない模様です。そこで今回は、米経済の抱える問題点を整理し、そこから見えてくる景気の先行きを占ってみます。

6月の米利上げに現実味、“3回目”には疑心暗鬼

FOMCと雇用統計を無事通過したことで、フェドウォッチによる6月の米利上げ確率は通過前の70%程度から80%近くにまで上昇しています。70%が利上げの目安とされていますので、市場は6月の利上げを確信したと言えそうです。

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5月のFOMCで「1-3月期の景気減速は一時的」、「インフレ率は目標に近づいた」との認識が示されたほか、4月の雇用統計で雇用者数の増加が21.1万人と予想を上回り、失業率も4.4%と10年ぶりの低水準となったことが利上げ観測を後押ししています。

ただ、今年3回目の利上げが実施される確率は9月FOMCで30%台、12月で50%台と今回のFOMCと雇用統計の通過前後で大きくは変化していません。次回の利上げ時期は9月から6月に前倒しされましたが、年内に3回目となる利上げについてはまだ懐疑的な状況です。

昨年との違いは“吉”なのか“凶”なのか

昨年は2016年1-3月期の米GDP成長率が前期比年率+0.8%(速報値では+0.5%)に減速したことを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げペースを当初の予定から先送りしました。しかし、2017年1-3月期のGDP成長率が+0.7%に失速しても「一時的」として気にしていません。

昨年との大きな違いはマーケットの状況にあります。2015年12月に10年ぶりとなる利上げを実施すると、2016年は年初から世界同時株安となり、ドルが上昇したほか原油価格も急落しました。

一方、2016年12月に1年ぶりに利上げを実施しましたが、トランポノミクスへの期待感から株式市場はびくともせず、OPEC減産で原油価格が上昇したほか、トランプ大統領のドル高けん制発言でドル高も限定的となっています。

このように、株価を中心にマーケットが安定していることがFRBの景気見通しに自信を与えていると言えるでしょう。金融政策も昨年とは大違いで、低成長で利上げを先送りするどころか、3月には追加利上げを実施し、さらに6月の利上げを検討中となっています。

ただ、逆の見方もできます。昨年は株価の急落と景気の失速が歩調を合わせましたが、今年は株価が堅調にもかかわらず景気が減速しています。また、株価上昇の陰に隠れていますが、長期金利の伸び悩みも古くて新しい問題です。

長期金利の低下が示唆する資金余剰と過剰流動性

長期金利の低下が問題となる背景には、企業の資金余剰と過剰流動性があります。

米国では2015年以降、企業の資金フローが貯蓄超過の状態にあり、企業が設備投資や賃金の引き上げに慎重となっていることを示唆しています。企業の貯蓄超過は米国に限った話ではなく、日米欧で共通していますので、資金余剰による投資の抑制や賃金の伸び悩みが世界的な広がり見せている可能性があるわけです。

過剰流動性とは世の中にお金が余っているため金利が低いということで、金融を緩和し過ぎていることを示唆しています。米国は利上げを急いでいる模様ですが、欧州中央銀行(ECB)や日銀は金融緩和を維持しており、日本やドイツでの5年物の国債利回りはマイナス金利の状態が続いています。

金融市場は既にグローバル化していますので、米国がいくら利上げに動いても、世界的には金融市場は依然として緩和的である可能性があります。

“イエレンの謎”はどこに向かうのか?

米10年債利回りは量的緩和の縮小を決定した2013年12月に3.0%台まで上昇しています。ただ、それ以後、量的緩和の縮小、終了、利上げと金融スタンスを引き締めているにもかかわらず、この水準を上回ることはなく、5月5日現在は2.3%台と3月の2.6%台から低下しています。

2004年から2006年にかけての利上げ局面で長期金利が低下したことに対し、グリーンスパンFRB議長(当時)が“謎”と発言したことから、この現象は“グリーンスパンの謎”と呼ばれました。FRBは現在、引き締め的な金融政策を継続していますが、長期金利の上昇が限定的なことから、今回は“イエレンの謎”と呼ばれています。

FRBはかつて、“グリーンスパンの謎”の答えとして“グレート・モデレーション(大いなる安定)”を提唱していました。FRBの金融政策が適切であり、その結果FRBに対する市場の信認が厚くなり、期待インフレ率が低位で安定し、長期金利が低下したとの見方です。

これは、バーナンキ前FRB議長が議長就任前に述べたFRBの勝利宣言でもありました。当時のFRBはすっかりご満悦だったわけですが、その先にあったのが住宅バブルの崩壊と金融危機だったことから、現在では“グレート・モデレーション”を口にする人は見当たりません。

長期金利低下の理由を企業の資金余剰と考えた場合、活発な経済活動は期待できませんので、景気は停滞が続くことになります。その状態でFRBが利上げを続けるのであれば、景気はさらに悪化する恐れがあります。この場合、FRBの利上げ路線が景気後退をもたらす可能性があり、金融正常化の動きは途中でとん挫する運命になるのかもしれません。

過剰流動性が低金利をもたらしているのであれば、金融市場でバブルが膨らむ可能性があります。この場合、FRBの利上げは後手に回っていますので、最善策はバブルが大きく膨らむ前に破裂させることになりそうです。3月FOMCでの「株価は割高」との発言は興味深い指摘と言えるでしょう。

バブルを未然に防ぐための金融の引き締めは、えてして景気の後退を招く恐れがありますので、ブレーキのかけ過ぎには要注意です。

投信1編集部

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投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。