昨年来、世界的な株価の上昇を主導してきた“グレートローテーション”も最近は動きが鈍っており、変調の兆しがうかがえます。そこで今回は、グレートローテーションが継続するための条件と注目点を整理してみました。

グレートローテーションが小休止

グレートローテーションとは安全資産からリスク資産への資金移動のことで、具体的には国債から株への資金シフトとなり、株高と金利上昇(債券安)が同時に進行することを指します。

今回のグレートローテーションのきっかけは一昨年、2015年12月の米利上げでしたが、昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、株高・債券安の動きが誰の目にも明らかとなったことで、グレートローテーションが本稼働したとの認識が広まりました。

ただ、3月以降に限ると、米株価の上昇も米金利の上昇も止まっていますので、グレートローテーションは小休止している模様です。

景気循環とグレートローテーション

ところで、株価と債券価格の上昇・下落の組み合わせは4つありますが、それぞれが景気循環の動きにおおむね連動しています。大まかな流れは次のようになります。

フェーズ1:株安・債券高(金利低下)

景気の先行きが怪しくなるとマーケットはリスクオフとなり、株から債券へと資金がシフトします。グレートローテーションの対極にある動きです。

フェーズ2:株高・債券高(金利低下)

景気が悪化すると政府による財政出動や金融当局による金融緩和(利下げ)が実施され、景気が回復に向かいます。株価も債券価格も仲良く上昇する傾向にあることから、ハネムーン期と呼ばれることもあります。

フェーズ3:株高・債券安(金利上昇)=グレートローテーション

景気が回復すると金融当局は景気の過熱を防ぐとともに、金利を利下げ前の水準に戻して次の景気後退に備えます。

利上げに耐えうる力強い景気の拡大が見込まれることからリスクオンとなり、安全資産からリスク資産への資金シフトが起きます。これがグレートローテーションと呼ばれています。

フェーズ4:株安・債券安(金利上昇)

グレートローテーションは景気の後退とともに終焉を迎えます。景気が失速してもインフレ率が高止まりした場合などには当局が利上げを継続する可能性があり、こうした場合には株安と債券安が同時進行することになります。

ただ、通常は景気見通しに慎重になると、株から債券への資金シフト(フェーズ1)が起こりますので、フェーズ4は景気後退が深刻化する局面など、やや特殊なケースと考えられます。

このように、グレートローテーションは利上げ局面での株価上昇となりますので、金融当局が利上げを継続しても、それに耐えられる力強い景気の拡大を維持できることが前提条件と言えるでしょう。

銅価格は世界経済のバロメーター

ところで、世界経済の見通しについては国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が公表しています。ただし、公表はほぼ3カ月ごとであり、タイムラグがあることから、バックミラーを見ながら運転している観は否めません。

そこで、よりタイムリーな指標として注目されているのが銅価格です。銅は主要産業で幅広く利用されていますので、その需要が世界経済と密接にリンクしていると考えられています。

実際、世界経済と銅価格はおおむね連動しています。IMFによると、世界経済の成長率は2010年の5.4%から2016年の3.1%まで基調的に低下してきました。

一方、2011年のピーク時には9,000ドル(トン当たり、以下同)を超えていた銅価格も、その後はほぼ一貫して低下し、2016年には5,000ドルを割り込んでいます。

2017年の世界成長率は3.5%と低下基調からの反転が見込まれていますが、歩調を合わせて銅価格も反発しています。昨年10月まで4,000ドル台で推移した銅価格は、11月に一時6,000ドルを突破すると、今年2月には6,200ドル台まで上値を伸ばしています。

ただし、2月に高値を付けて以降はじり安となり、5月上旬は5,500ドル近辺と年初来の安値圏にあります。

銅価格は米中の経済動向を映す鏡?

世界経済の堅調な拡大には中国経済の安定は不可欠と言えます。その中国は2017年秋に党大会を控え、景気の安定が最優先課題となっています。

中国は銅の最大の消費国であることから、銅価格は中国経済の影響を大きく受けます。したがって、銅価格は中国経済の先行きを占う指標の一つとも考えられています。

また、トランプ大統領は過去最大規模のインフラ投資を公約としており、米大統領選後の銅価格の急騰にはこの公約も影響しています。したがって、銅価格はこの公約が実現するのかどうかのバロメーターにもなりそうです。

期待通りにインフラ投資が実施されるのであれば銅価格は堅調を維持することになり、逆に期待はずれとなるのであれば、下値圧力が強まることになるでしょう。

株価の先行指標としても銅価格に注目

グレートローテーションと聞くと何やらすごい感じではありますが、要はリスクオンのことです。

株価の上昇は債券からの資金シフトが支える構造ですので、金利の上昇、すなわちFRBが利上げを継続することが持続の条件となりますが、それ以前に利上げを継続できる程度に世界経済が堅調であることが前提となります。

世界経済の見通しは、近いところではOECDが6月7日、IMFが7月に最新版を公表する予定です。これらの発表で世界経済の成長見通しが下方修正されないことがグレートローテーション継続の最低条件と言えそうです。

また、世界経済の先行きを占う上でタイムリーな指標として注目されるのが銅価格で、中国経済とトランポノミクスの行方を占う試金石にもなりそうです。

3月以降はグレートローテーションも小休止状態にありますが、その直前の2月から先行指標のように銅価格が反落しています。株価の先行きを占う意味でも、銅価格が底入れするのか、それとも底探りが続くのか、当面の動きに注目したほうがよさそうです。

LIMO編集部