銀行への就職をめざして就活に励んでいる学生の方は多いのではないでしょうか。実際に、メガバンクを中心に銀行は人気就職先となっています。そのような中、日本の代表的なメガバンクである三菱UFJフィナンシャル・グループの社長が決算説明会の席で「同社従業員が担う業務の4割を機械やコンピューターに置き換えられる」とコメントしたことが話題を呼んでいます。銀行に就職を希望する学生はどうすべきでしょうか。また、銀行はこれからどうなるのでしょうか。

今回は著書「銀行はこれからどうなるのか」(クロスメディア・パブリッシング)の中でテクノロジーの変化により今後は銀行の姿が大きく変わってくると予測している泉田良輔氏に話を伺いました。

銀行業務で人間のスキルが求められる領域とは

――銀行の業務は機械やコンピューターに代替されていくのでしょうか。

泉田良輔氏(以下、泉田):一概にはそうだとは言えません。私は銀行における業務内容によって機械で置き換えられる度合いやそのスピードは異なると考えています。

私の考える銀行の姿は大きく4つの姿に分けられます。ひとつは決済や資産形成、個人貸出などの業務をモバイルで完結させる「モバイル型」、そして法人向け運転資金の貸出などを取引や決算データなどをもとにして行う「クラウド型」、次いでいわゆる富裕層など向けの「プライベートバンク型」、最後に企業のアドホックな資金需要に対応する「投資銀行型」です。

このうちモバイル型やクラウド型で対応できる業務に関しては当然機械やコンピューターによる置き換えが可能ですが、プライベート型や投資銀行型は引き続き人材が重要な業務といえます。銀行から見れば、この領域に関しては顧客をつかみ、適切なアドバイスやソリューションをもとにして継続的にビジネスを拡大していくことのできる有能な人材を確保できるかがカギになると思います。そもそもそうした金融においてもある種クリエイティブな領域の残る業務を回せる人材の絶対数はそれほど多くはないでしょうから、どの金融機関でも引き合いは強いでしょう。

求められる人材のスペックとは

――プライベートバンク型と投資銀行型は人材がカギになるとのことでしたが、どのような人材が求められるのでしょうか。

泉田:まずプライベートバンク型ですが、日本ではこれまで外資系も含めて様々なプライベートバンクが参入し、規模の縮小や撤退を繰り返している難しい領域です。銀行預金の多い顧客といったくくりでプライベートバンキングのサービスを提供するのでは不十分でしょう。日本の富裕層の資産構成の特徴を考えれば、一般的な金融商品はもとより不動産についてもアイデアがないといけませんし、相続なども含めて資産運用だけではなく税務面でもソリューションが必要です。いずれにせよ専門性が求められる領域です。

一方、投資銀行型は銀行の本来の姿ともいえるかもしれません。顧客である経営陣に対して事業計画の評価を行ったり、その事業計画に必要な資金調達を貸出だけではない金融スキームで提案をしたりと、様々な角度からサポートできる人材です。こちらも顧客とのリレーションシップだけではなく、専門性が求められる領域です。

どのような企業が既存銀行の脅威となるのか

――モバイル型やクラウド型はテクノロジーが人間を代替する可能性があるということですが、今後どのような企業がメインプレーヤーとなるのでしょうか。

泉田:グローバルの事例からその一端をうかがい知ることができます。たとえば中国。実は中国はFinTech(フィンテック)の先進国です。Alipay(アリペイ)等を見るとプラットフォーム上で決済できたり金融商品が買えたりするだけではなく、クラウドファンディングなども利用することができます。モバイル型ではスマホなどの端末上で使い勝手を最適化したテクノロジー企業の存在感は大きいです。

また、クラウド型では米アマゾンのようなEC企業も銀行の脅威になるかもしれません。アマゾンは資金繰りを工夫することで多くの利益を計上しないでも成長を続けてきた会社です。現時点では推測に過ぎませんが、アマゾンがこれまでの取引データや実績をもとに商品を納入する業者との間において(メーカーなどの直接取引もあり得るでしょう)、買掛金を予定期日よりも先に返済すれば、業者から見ればアマゾンが運転資金をファイナンスしてくれたのと同じに見えるはずです。こうしたことができれば、銀行から見れば脅威になり得ます。

もちろん現在私たちが既に利用している金融機関がテクノロジーを積極的に活用することでモバイル型やクラウド型でイニシアティブをとる可能性もあります。ただ今後こうした企業の存在は無視できなくなっていくでしょう。

まとめにかえて

いかがでしたでしょうか。銀行業務の中でも引き続き人材がカギとなる業務は残りそうです。これから銀行に就職をされる方は、そうした業務でポジションをしっかりと確保できるキャリアをイメージしたいところです。また、ICT企業として金融業務を扱うことにも今後は大きな可能性があるのではないでしょうか。

銀行は規制業種ですが、今後は規制の変化も含めてまだまだ業界とその競争のルールが大きく変わるという認識を持って就職活動をする方が良いといえそうです。

銀行はこれからどうなるのか

著者:泉田良輔
出版社:クロスメディア・パブリッシング
単行本、 255ページ

LIMO編集部