大手化学企業、強気の増産投資は大丈夫か?

米国シェール革命の影響はこれから

2017年3月期の決算では、大手化学5社も上方修正を交えて好調な実績をあげました。一方、2018年3月期はナフサ価格など原料価格、為替、設備稼働状況などから利益見通しは小幅な増益にとどまりそうです。大手化学株のモメンタムはピークアウトしたかもしれません。

トランプ大統領になって米国産業の国内回帰が加速し、米国化学メーカーによるシェールオイル/ガス由来の大規模国内プラント建設計画が発表されています。いずれアジア市場に製品が流入することは間違いなく、日本の化学企業への影響が懸念されます。

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2017年3月期決算では汎用化学が収益に大きく貢献

5月16日の住友化学(4005)の決算発表をもって大手総合化学企業の2017年3月期決算が出そろいました。住友化学、東ソー(4042)、三菱ケミカルホールディングス(4188)が業績の上方修正を行うなど、総じて好調な実績となっています。

上述の3社に、旭化成(3407)と三井化学(4183)を加えた大手総合化学5社合計の2017年3月期営業利益は、前期比+5.7%と小幅な増益にとどまったものの、個別には東ソーの同+60.2%、三井化学の同+44.0%という2桁増益が目を引きました。

いずれの会社も汎用素材である石油化学、アルカリ電解事業の損益改善が最大のけん引役となっています。

原料であるナフサ(粗製ガソリン)の価格が比較的安値で推移し、アジア市場で総体的に需給が引き締まった石油化学製品価格とのスプレッド(利ザヤ)が想定以上であったことが増益幅を拡大させたと見られます。

2018年3月期は足踏みに

一方、2018年3月期は5社の営業利益予想を合算すると前期比+2.9%の小幅な増益にとどまりそうです。

原料のナフサ価格が2017年3月期実績の34,700円/キロリットルから37,000~42,000円/同に上昇すること、各社の石油化学プラントではほぼフル稼働が続き、さらなる増産/増販効果が見込めないことなどにより各社が慎重に構えているものと推定されます。

総合化学株のモメンタムはピークアウトか

各社の2018年3月期予想での営業利益の増益幅を見ると、住友化学の前期比+22.8%が最大の増益率となっています。石油化学を慎重に見る一方、液晶、有機EL関連の情報電子化学、飼料添加物メチオニン、農薬の健康農業関連といったセグメントの増益幅に期待できそうです。

その他の各社はいずれも横ばいか若干の減益が予想されています。為替前提が各社とも110円/ドル(前期実績108円/同)で、為替による増益効果も限定的と、総合化学株の勢いもピークアウト感があります。

原油価格が想定以上に下がり、ナフサ価格も同様に下がって製品価格とのスプレッドが予想以上に拡大するという状況が発生しない限り、業績見通しの上振れ期待はなさそうです。

新増設計画が出始めた国内の石油化学産業

2016年は、「設備削減をしなければもっと増産できたのに」という大手化学会社幹部のコメントが化学専門誌の記事に載ったことが話題になりました。

2014年から2016年の3年間で国内のエチレン生産能力の約15%の設備削減が行われた結果、2016年度のエチレン生産の稼働率は96.6%と2007年度以来9年振りに95%を超えています。基礎原料のエチレンだけではなく誘導品であるポリプロピレン、塩化ビニル樹脂などの生産も能力いっぱいの操業が続いているようです。

そんな中、東ソーは2019年にも四日市のエチレンプラント分解炉の大型化(実質能力増強)に踏み切るようです。また、水島地区の旭化成・三菱化学の共同運営エチレンプラントも定期修理時に一部の増産投資を行うと報道されています。三井化学、三菱化学などもポリプロピレン樹脂の増産投資を計画しているようです。

つい数年前には設備削減が急務であるというようなが議論されていましたが、なぜ急に方向が変わったのでしょうか。

1つは中国の環境規制強化策によって過剰設備の稼働が抑制されたことが挙げられます。

中国は石油系原料に加えて、石炭から化学製品を作る生産設備の大がかりな新増設を行いました。しかし、環境負荷、大気汚染の原因となる石炭の使用が大きく制限された結果、化学製品の需給がタイト化したのです。この恩恵が日本企業にも収益面でプラスとなったわけです。

もう1つが、シェールオイル/ガスを原料にした米国の化学プラントの立ち上がりの遅れです。

当初、2017年にも米国の安価なシェール原料を使用した化学製品が大量にアジアに流入し、市況が総崩れになるという悲観論が流布していましたが、オバマ政権下での厳しい環境規制によって、2年程度、稼働時期の遅れが出ているようです。これが米国化学製品のアジア市場への流入が予想以下だった背景です。

米国シェール由来の化学製品の“正しい”脅威論

大統領罷免論まで出てくるトランプ政権ですが、国内産業への回帰を打ち出した経済政策に呼応するように、エクソンモービルが200億ドル(約2兆円強)を投じて2022年までにシェールオイル/ガスを原料にした化学コンビナート、製油所を米国メキシコ湾沿岸に建設する方針のようです。

今年4月19日に、エクソンモービルはサウジアラビア基礎産業公社(SABIC)と共同で、テキサス州南部コーパスクリスティ地区にエチレン年産180万トン規模という世界最大規模のコンビナートを建設することを発表しました。

エクソンモービルといえば、それまでグローバル戦略で収益を伸ばしてきた企業ですが、トランプ大統領による環境規制緩和策によって、天然ガス、原油をパイプラインでメキシコ湾に集積することができるようになりました。

このようにトランプ政権下では環境規制緩和によって製油・化学プラントの建設が加速する可能性が濃くなってきたと見てもいいのではないでしょうか。エクソンモービル以外のシェール由来の化学プラント建設も同様に早まり、意外と早くアジアにその生産品が流入しないとも限りません。

国内メーカーが足元のフル稼働ゆえに設備の新増設を検討する動きには危ういものがあるような気もします。

石原 耕一

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石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。