政府・日銀の「異次元」金融緩和、成果はわずかでリスクは膨張?

激震が起きる前に出口戦略に向かう時期か

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4月28日付けブルームバーグによれば、自民党行革本部長の河野太郎氏が、日銀の金融政策について「出口戦略を議論することは時期尚早の意見もあるが、少なくとも事前にリスク等を分析し、市場と対話を図ることは必要」という提言を首相官邸に提出しました。

その後、5月10日に日銀の黒田総裁は、衆院財務金融委員会で金融緩和の出口戦略について「現時点で具体的なイメージを持って話すのは難しい」と述べました。金利上昇時の日銀保有国債への影響については、「利回り曲線が全体的に1%上昇すると、評価損は23兆円程度出る」とも述べました。

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日銀の評価損23兆円とは何を意味するのか、金融緩和はいつまで続けられるのか、出口戦略はあるのか等々、心配の声があがる一方、日銀は政府の子会社なので連結ベースで考えれば問題ないといった意見もあります。

今の事態をどう理解すれば良いのでしょうか。本稿では、改めてアベノミクスなる経済政策の3本の矢の1つ、大胆な金融政策について、その成果とリスクを再考したいと思います。

大胆な金融政策でやってきたこと

ご存知の通り、アベノミクスの第1の矢である大胆な金融政策では、まず、2013年4月4日に日銀による「量的・質的金融緩和」の導入がありました。

それ以降、2%の「物価安定の目標」を2年程度で実現することを目標とし、マネタリーベースが年間約60兆〜70兆円増加するように金融市場調節を行い、長期国債やETF・J-REITなどの買入れを拡大しました。

次は「量的・質的金融緩和」の拡大(2014年10月31日)です。マネタリーベースが年間約80兆円増加するようにペースを上げ、長期国債を年間約80兆円(30兆円追加)、ETFを年間約3兆円(3倍増)、J-REITを年間約900億円(3倍増)増加するように買入れを増やしました。

さらに、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入(2016年1月29日)です。金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に▲0.1%の(マイナス)金利を適用しました。2016年9月21日には「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入され、現在に至っています。

理論的根拠は、リフレ派として有名な岩田日銀副総裁が説明する「インフレ目標を伴う金融政策によって予想インフレ率を上昇させ、デフレギャップを縮小し、デフレから脱却する」というものです。

これまでの成果

機動的な財政政策や民間投資を喚起する成長戦略も含むアベノミクスの3本の矢によって、いわゆる「好循環」は回り始めているように見えます。

実質GDP成長率は、2015年度1.2%(実績)、2016年度1.3%(実績)、2017年1-3月0.5%(年率2.2%)と、潜在成長率(0.69%)を上回っています。

円安等により企業収益は過去最高を実現し、政労使交渉でわずかながら賃金上昇、消費の持ち直しの兆しも見られます。5月17日付け日経新聞によれば、2017年3月期決算企業1,555社の決算は、売上3%減、利益18%増という結果でした。

失業率は、非正規雇用の問題はあるにせよ、比較的低い水準を維持しています(参考:完全失業率2.8%、2017年3月季節調整値)。

ただ、金融緩和を大胆にやったわりには日銀当座預金(マネタリーベースの主要勘定)が増えただけで、消費、投資等の民需を本格的に喚起することも物価上昇率を押し上げることもできていません。ここが金融政策の限界なのかもしれません。

世間で心配されるリスク

世間では、これまでのところ成果はわずかでリスクだけが膨張しているのではないかと心配されています。

まず、第1に心配されるのは膨れ上がった日銀のバランスシート(GDP比約9割)です。日銀が金利変動リスクを大きく抱えることになるので、不利な金利変動が起こった場合は日銀の財務リスクが生じます。

これは日銀の黒田総裁が述べた「利回り曲線が全体的に1%上昇すると、評価損は23兆円程度出る」につながります。日銀の純資産は約3兆円ですので、評価損の規模の大きさが窺えます。ただ、人類史上、日本のような先進国の中央銀行が債務超過になったらどうなるかは誰にもわかりません。

第2に、財政赤字にかかる懸念です。2020年度のプライマリーバランス(PB)黒字化は諦めざるを得ない事態になっています。2017年1月25日の経済財政諮問会議で報告された内閣府試算では、2020年度のPBの赤字は11.3兆円です。

ただ、アベノミクスが奏功して成長率が名目3%以上、実質2%以上で推移する「経済再生ケース」が前提となっていますので、経済再生できなければPBの赤字がさらに膨らむ心配は拭いきれません。

世間で言われるリスクを過剰に恐れる必要はない

日銀は国債を大量に購入していますが、日銀の保有国債は親と子の連結ベースで考えれば問題ありません。つまり、政府債務(GDP比約230%)から日銀が保有する国債(GDP比約80%)を相殺すれば、政府債務のGDP比は大幅に縮小します。

格付会社による日本国債の格付けが気になるところですが、5月4日付けロイターによれば、フィッチは日本の消費税が3度見送られた場合でも政府が信頼性のある財政再建計画を策定する限り、それだけでは格下げにつながらないとの見方を示しました。

黒田総裁が「現時点で具体的なイメージを持って話すのは難しい」と語った出口戦略については、国家財政への信認が維持されている間は大丈夫でしょう。5月16日、都内イベントで黒田総裁は「日銀は十分なツールを持っていると自負している」とも話しました。

ただし、国家財政への信認が大きく揺らぎ日本国債が格下げとなったら話は別です。今後、政府が「信頼性のある」財政再建計画を策定・実行してくれることを期待しています。

そろそろ出口戦略へ向かう時期か

アベノミクスで実施した「量的・質的金融緩和」は劇薬のような処方箋で、日本のような先進国がこれほど大胆な施策を行うと、いったい何が起きるかわかりません。何らかの突発的なイベントにより国家財政に対する信認が失われ市場がコントロールできなくなるリスクは、確率は低いかもしれませんが、完全には拭いきれません。

5月17日、日銀の黒田総裁は首相官邸での安倍首相との会談で「しっかり金融緩和を続けていく」と述べたそうですが、いつまで持続可能なのでしょうか。

もちろん、日銀が急に金融緩和をやめれば国債市場は大変なことになりますので、それはできません。しかし、劇薬の「非伝統的」な金融政策も、これだけやってさしたる成果が出ていないわけですから、何か突発的なイベントをきっかけに激震が起きる前に、そろそろ出口戦略に向かっていく時期なのかもしれません。

大場 由幸

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大場 由幸

新潟大学法学部卒業、フィンランドAalto大学(元Helsinki School of Economics)Executive MBA取得。
専門は新興国における中小企業金融、中堅・中小企業のアジア戦略・財務。
中小企業金融公庫(神戸支店、宇都宮支店、本店国際デスク)、在ベトナム日本国大使館 専門調査員、UFJ総合研究所 国際本部チーフコンサルタント、東京中小企業投資育成 アジアデスク統括マネジャー、クロスボーダー・ジャパン(株)代表取締役社長を経て、2012年12月、マレーシア(ジョホールバル市)へ。現在、新興アジア諸国にて地場中堅・中小企業/起業家向け金融支援プロジェクト、戦略コンサルティング等に従事。