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トランプ政権は今年3月に予算編成の指針となる「予算教書」の簡易版を議会に提出しました。国防費を大幅に増やす一方、それ以外の予算を大胆に削減する内容でしたが、詳細は先送りされていました。

今回発表された予算教書は前回の詳細版という位置づけです。内容を見ると、トランプ政権が従来示してきた企業や個人への減税と歳出削減、国防費の拡大、インフラ投資拡大方針の維持が確認されます。ただ、詳細版で示された財政収支の予想には実現性などに疑問が残るところも見られます。

米予算教書:2027年に収支均衡、10年で3.6兆ドル(約400兆円)の歳出削減を提案

米トランプ政権は2017年5月23日に予算教書を議会に提出しました。主な内容を振り返ります。

まず、今回の予算教書では、税金を補助金として使う人ではなく、税金を払う人の利益に重きを置く政府となるよう財政を見直す内容となっています。そのため、各種補助金など低所得者向け歳出が今後10年で約3.6兆ドル(日本円で約400兆円)削減される見込みであることが示されています。

また、高い経済成長予想と歳出削減により、予算教書の想定では10年以内に予算が均衡する(つまり歳出と歳入が同じ程度になる)とされています。選挙公約通り社会保障の退職手当やメディケア(高齢者向け医療保険制度)は現状を維持する一方、国防費は増やす内容で、トランプ政権が従来示してきた方針が維持されていることが確認される内容です。

どこに注目すべきか:予算教書詳細版、歳出削減、CBO、OMB

今回の予算教書では、トランプ政権が従来示してきた企業や個人への減税と歳出削減、国防費の拡大、インフラ投資拡大方針の維持が確認されました。ただ、次の点に注目すると、実現性に疑問が残ることから、市場ではトランプ大統領の当選直後に見られた財政拡大政策などに対する高い期待が低下しているように思われます。

まず、3.6兆ドルの歳出削減に疑問が残ります。主な削減項目を挙げると、低所得者向け医療保険制度であるメディケイドや、低所得者向け住宅補助、高齢者の食事宅配サービス補助金などを削減することが示されています。弱い立場の人を標的にした印象です。

小さな政府を目指すとされる共和党らしいといえばそれまでですが、トランプ政権の支持者には低所得者層も多いといわれ、単純に民主党、共和党の違いで割り切れない面も考えられます。

2018年には中間選挙が行われる中で、共和党の議員の中にも過度の補助金の削減には難色を示す可能性があります。そのため、予算教書をたたき台に行われる議会での予算編成で、議論が難航することも想定されます。

次に、予算教書では2027年に財政収支が黒字に転ずると見込んでいますが、想定が楽観的で、早くも市場では議会での見直しの可能性が指摘されています。

米国では、財政収支見通しを大統領側では米行政管理予算局(OMB)が、議会では独立機関の米議会予算局(CBO)が財政モデルにより、それぞれ作成しています。単純に考えればOMB、CBOの予想値は似たり寄ったりが想定されますが、今回は大きく違っています。

議会側のCBOは2027年にかけて財政収支は悪化(歳出が歳入を上回り、財政赤字が拡大)し続けると予想しているからです。なぜ、このような違いが起きるのか? 違いはモデルに入力する経済変数に原因がありそうです。

今後10年のGDP(国内総生産)予想を見ると、OMBは3%前後とかなり楽観的な数字を使っているのに対し、CBOは2%程度となっています。過去のデータを見てもOMBとCBOのGDP予想値が1%も異なるのは極めて異例です。

参考までに、国際通貨基金(IMF)など国際機関の経済予測と比較すると、 CBOの予想の方がもっともらしく、予算教書で使われているOMBのGDP予想値はあまりに楽観的(ひょっとすると恣意的)で、この予想値の適正さについても議会の予算審議の中で注文がつくと思われます。

なお、今回の予算教書詳細版では税制については減税の方針は強調されていますが、数字など具体策は示されていません。どうやら議会でのぶっつけ本番となりそうです。予算審議の動向に注意が必要です。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文