労働力不足で日本経済の生産性は劇的に向上へ

日本の労働生産性が低い3つの理由とは

日本人の労働生産性は低いと言われます。統計上の問題もありますが、本当に低い面もあるでしょう。それが、労働力不足により、劇的に改善されようとしています。今回は、労働生産性について考えてみましょう。

日本の労働生産性は本当に低いのか

労働生産性をどのように測るのか、外国とどのように比べるのか、というのは、難しい問題です。一般にはGDPを労働者数(または総労働時間)で割って求めることになります。外国とGDPを比べる場合には、為替レートをどうするか、という問題がありますが、これは国連などが算出している「各国の物価水準が等しくなるような為替レート」を使うことで解決します。

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ただ、品質まで調整するのは難しいはずです。たとえば日本の電車は時間が正確です。正確さを確保するために余分な人員を雇っているのでしょう。それを、「1人の乗客を100キロ運ぶために何人の労働力が必要か」という計算で比較されたのでは、チョッと不公平な気もしますね。

しかし、そうした要因を除いても、日本の労働生産性は低いかも知れません。考えられる理由は3つあります。

1つは、本当に無駄な作業が多いことです。「年功序列なので、有能でない人も上司になる可能性があり、無駄な作業や無駄な会議が生じる」かも知れません。それから、日本企業の人事考課が「働いた時間」を重視するため、「つきあい残業」などもあるかもしれません。中には残業手当がほしくて、あるいは帰宅恐怖症であるがゆえに無駄な残業をしている人もいるようですが(笑)。これは、何とかすべき問題ですが、簡単ではないでしょう。

労働力不足が過当競争を縮小させれば、マクロ的な労働生産性は改善

第2は、過当競争です。宅配便が翌日届いたり、不在だと無料で再配達してくれたりするサービスは、国際的な基準からすると過剰ですし、実際に日本人の消費者も、そこまでは期待していないはずです。しかし、ライバルが過剰サービスを始めると、自社も対抗上過剰サービスを提供せざるを得ない、ということで過剰サービス競争が激化している感じはあります。

もっとも、これについては労働力不足で背に腹は代えられないということで、過剰サービスを縮小する企業が出始めました。それによってライバルに客を奪われるようだと、サービス縮小は続きませんが、ライバルも労働力不足で苦しい時は、意外とライバルも追随してサービスを縮小するので、客数が減らなかった、ということも起こり得るでしょう。期待しましょう。

そうなれば、客は若干不便になるかもしれませんが、マクロ的に見た(日本経済全体としての)宅配サービス総量は減らず、宅配業界の労働者数が減るので、宅配業界の労働生産性は上がっていくでしょう。

元旦の営業をやめた百貨店があります。それによりライバルに客を奪われる可能性は当然ありますが、反対に労働環境が改善したことで、ライバルから従業員が流れてくる可能性もあるでしょう。そうなれば、各社とも「営業時間短縮競争」を始めるかも知れません。

各社が元日に店を閉めても、百貨店業界の年間売上高は減らないでしょうから、百貨店業界の労働生産性は上がっていくはずです。

労働力不足により省力化投資が活発化

第3は、これまで省力化投資が行なわれてこなかったことです。安い労働力が容易に手に入ったため、飲食店はアルバイトに皿洗いをさせていたわけです。

しかし、アルバイトが集まらなくなり、時給も上がってくると、日本中の飲食店が自動食器洗浄機を購入するようになりますから、飲食業界の労働生産性は向上していきます。価格メカニズムが働くわけです。もちろん、飲食業界以外の業界についても、同様のことが起きるはずです。

価格メカニズムが働くとすると、労働力不足で賃金が上昇していき、高い賃金の払えない非効率な企業から労働者が流出し、高い賃金の払える効率的な企業に労働力が集まることが考えられます。そうなれば、日本経済全体としては労働生産性が向上していくわけです。

従前の延長ではなく、質的な変化が生じるはず

物事を予測する際には、過去のデータを良く観察することが必要ですが、過去の延長線上に将来があると決めつけるのは危険です。氷に熱を加えても、氷が溶けるだけで温度は上がりませんが、氷が溶け終わると水温が上昇していきます。これも永遠には続かず、湯が沸騰すると温度の上昇が止まります。同様のことが労働力についても生じ得ます。

景気が拡大したり少子高齢化が進んだりしても、失業者がいる間は賃金も上昇しませんし、労働生産性を向上させるインセンティブが企業にないので、労働生産性は上がりませんが、ひとたび失業者がいなくなると、各社が一斉に労働生産性の向上に取り組みますから、日本経済全体としての労働生産性が劇的に上がっていくわけです。

「ゼロ成長なのに労働力が不足し始めた。つまり、日本経済は今後は成長できないのだ」という論者も少なくありませんが、そんなことはありません。今後は、労働生産性が向上していくことによって、労働者数が一定でも経済が成長していく時代になるのです。日本経済は、ようやくそこまで来たのです。明るい未来を期待しましょう。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
増補改訂 よくわかる日本経済入門
なんだ、そうなのか! 経済入門
世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書
老後破産しないためのお金の教科書
経済暴論: 誰も言わなかった「社会とマネー」の奇怪な正体
(雑誌寄稿等)
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