「リスクはクスリ」~ベンチマークのない投資信託のパフォーマンスの見方

リスクの3つの定義とは?

前回の記事でベンチマークを持つ投資信託(ファンド)についてパフォーマンスの優劣の見方を説明しました。では、ベンチマークを持たない多数のファンドについてはどうやってパフォーマンスやファンドの良し悪しを見ればよいのでしょうか?

この場合、本コラムで既に何度か取り上げ、今回のタイトルにもなっている「リスク」の考え方が重要になってきます。「リスクがなく必ず儲かる」はあり得ない妄想ですが、結論から言えば「リスクが少なくてパフォーマンスが効率よく上がる」ファンドが「パフォーマンスがいい」ファンドです。

続きを読む

「リスク=損失」ではない

よく言われるように「リスクなきところにリターンなし」で、リスクはリターンの源泉であり、裏返せばリスクには効用があるので、「リスクはクスリ」という回文のお題にしてみました。

「貯蓄から運用へ」とか「マイナス金利なので運用へ」と大号令がかかりながら、まだまだ「投資にはリスクがあるから」と敬遠している方も多い感があります。それは、どうもリスクという言葉の使い方がバラバラに解釈されているのが一つの原因ではないかと思います。

若干誤認されている感があるのですが、「リスク」は「結果の不確実性」であって「リスク=損失」ではありません。収益を上げるためにどのリスクを取るのかを容認した上で、その結果としてのリターンが不確実でバラつきがあるということです。

確実に損しかしない、たとえば縁日でヒモを引っ張るとプラモデルが当たるくじで、どのヒモにも当たりが結んでいなければ、それには「リスク」はありません。あるのは単なる「損」「詐欺」です。

リスクの定義とは

業界や投資家が使う「リスク」の定義は主に3つに分かれます。

①元本ロス

たとえば、銀行預金や国債を満期まで持つとデフォルトがない限り元本が減らず、たとえ少額でも利子が付きます。これは以下の3で述べる金融工学でいうところの「リスク」も確かに低いのですが、リターンは極めて低く、信用リスクが集中しています。

これを推し進めて、銀行の自己勘定投資の世界では、ある一定のシナリオの下で元本=投下資本がいくら棄損する可能性があるかをバリューアットリスク(VaR)という指標で見ます。たとえば日本国債のポートフォリオ(複数の銘柄を併せ持つ投資資産)を1年間持ち続けた場合、以下③の標準偏差ならほぼ99%の確率でVaR値の金額で最大損失が収まる等です。

②トラッキングエラー(T/E)

ベンチマークに勝つために、運用者は指数に含まれる銘柄の比率と離れて市場に勝てると思う銘柄に多く投資したり、逆に負けそうな銘柄は少なく、あるいは保有しないという比率調整をします。

ベンチマークを持つファンドでこのような乖離をすると、ベンチマークにトラック(=追随)する度合いがずれるので「トラッキングエラー(T/E)」と呼びます。運用者はT/Eをシンプルに「リスク」と言う場合が多いです。

③(期待)収益率の標準偏差

パフォーマンスを図る際に使うリスクはこれを指しています。金融工学の理論で「リスク」と呼ぶ場合は、通常このことです。

全ての金融資産には「期待収益率」があります。それはざっくり言えば資産価格の値上がりと配当金の合計(=トータルリターン)を投下元本で割った年率換算値です。当然、投資前に確定していないので「期待」収益率であり、その率を達成できるかにバラつきがあります。

たとえば、先に述べた国債だとデフォルトが極めて少ないので利子を3%とすると満期に3%の利子と元本が返ってきて「期待収益率」3%はほぼ確実に達成できます。この場合、結果のばらつきがほぼないのでリスクはゼロです。

社債の場合は信用力が低い(=格付けが低い)ほどデフォルト率も高いのでバラつきが高くなり、株式の場合はさらにバラつきが高い傾向があります。株も債券も為替や商品も期待収益率とその標準偏差というモノサシで見れば共通化できます。

そうすると、どの資産が期待収益率とリスクの効率が高いか図れます。ちなみに、為替ヘッジをすれば同じ資産でも期待収益率もリスクも変わってきます。

リスク対比でリターンが高いと、「運用効率がいい」資産ということになります。ファンド分析の実務では、細かくは収益率から短期金利を引くとか微修正をしますが、ほぼゼロ金利なのでここでは単純化して期待収益率を標準偏差で割ったA/Bの値が大きいと効率がいいことになります。すなわち、リスクを一単位投入した時の収益を上げやすいということです。

期待収益率は運用者が変えられるものではありませんが、リスクは単一資産の中でも銘柄分散をすれば、負の相関によりポートフォリオのリスクは減らせますし、複数の資産を組み合わせればさらにリスクを減らせます。その結果、期待収益率を変えないでリスクが減れば運用効率を上げることができます。

まとめ

ベンチマークのないファンドでは、過去の実績値を見てリスクとパフォーマンスの関係をファンド間比較してみればファンドの優劣の判断材料になります。また、ベンチマークを持つファンドでも、α(アルファ=運用による超過収益)が出ていてもリスクを取り過ぎた結果の場合もあり、運用効率が良くない場合は、逆にベンチマークにドンと負ける場合もありますのでチェックしておいた方がいいでしょう。

ご留意いただきたい点は、リスクの定義は「収益率」の標準偏差で「価格」のバラつきではないことです。

たとえば、ドル円で言えば今1USD=110円として毎年3%コンスタントに上がると5年後に127.52円になり、価格の変動幅は大きいですが、結果としての収益率のバラつきはないので標準偏差ゼロで、リスクはなかったことになります。逆に1年おきに+10%、-10%を繰り返し、5年目に+2%なら価格はほぼ元通りの109.97円ですが、収益率は変動が激しいことになります。

いかがでしたか。前回の『いまさら聞けない、「パフォーマンスがいい」投資信託って何?』と併せて、投資信託の評価はどう見るかを知っていただく一助になればうれしく思います。

林 俊宏

PR

林 俊宏

国内大手信託銀行を振り出しに、系列の投信運用会社、外資系運用会社、販売会社等で一貫して商品企画に携わる。
株、債券、リートにとどまらずバンクローン、デリバティブ、ヘッジファンド、プライベートエクイティも投資または組成経験あり。
証券アナリスト協会検定会員、ペンシルベニア大学・ウォートンスクールにてMBA取得