世界経済の中で相対的に高い経済成長率が見込まれる一方で、アジア地域内の成長見通しには各国間でばらつきが大きいのも事実です。今回からは、国ごとに経済成長と長期投資の考え方について見ていこうと思います。

成長ペースの加速が見込まれるインド

アジア地域で今、最も注目されている国はインドだと思います。インドは2014年のモディ政権の誕生以後、7%超の高成長を続けています。現在では世界の主要新興国の中で最も高い成長率を達成している国であるといえます。

過去には、成長期待の方が先行しすぎている部分があったり、改革が上手くいかず持続的な経済成長に繋がらなかったりしましたが、現在のインドは本格的に高度経済成長期に入る見込みで、世界経済にとっても成長の原動力の一部となる可能性が高まっているといえます。

国際通貨基金(IMF)が4 月に発表した世界経済見通し(World Economic Outlook, April 2017)では、インドの実質GDP 成長率は2016 年実績で+6.8%(前年比、以下同様)から、17 年は+7.2%、18 年には+7.7%と、この先さらに成長ペースが加速すると予測されています。

昨年11月に実施された高額紙幣の廃止は、現金経済 (経済行為に現金による決済が大半を占める) であるインド経済にとっては痛みを伴う改革になるというのが政策発表時の大方の見方でした。

この政策は、発表直後には、足元のインド経済の成長率を1.0%程度押し下げるという予測もあったほどでしたが、2016 年10~12 月期の実質GDP 成長率は前年同期比+7.0%と、7-9月期の同+7.4%よりは鈍化したものの、大きな落ち込みは見られませんでした。

2016 年10~12 月期の民間消費は前年同期比+10.1%となり、前期の同+5.1%から大幅に増加したことが示す通り、消費は懸念されたように減少せず、むしろ拡大したことがプラス要因になりました。

これは、モンスーン期の降雨量が回復したことで、農作物の収穫量が増え、それにより農家所得が増加したというプラス要因に加え、インフレ率が低位安定していたことで実質購買力が改善したことが理由であるといわれています。

結局、高額紙幣廃止に伴う現金不足等のマイナス要因は、消費増で打ち消された形となりました。中長期的には、この政策はインド経済のデジタル経済への移行を促進し、IT・インフラ投資を呼び込む呼び水になると考えられています。

モディ政権の安定で経済構造改革が着実に進む

高額紙幣の廃止という劇薬的な政策を取れるというのも、モディ政権の高い支持率があってこそです。政権成立以後これまで、モディ現政権は硬直化し既得権化していた補助金や現金給付に大幅にメスを入れるなどして、経済構造改革を進めてきました。

土地収用法の改正や労働改革などは、未だ手付かず課題として残っていますが、財・サービス税(GST)は、順調にいけば今年7月より導入される見通しになっており、構造改革への取り組みは着実に進展していると評価されています。GSTが導入されると、これまで州ごとに求められていた煩雑な申告・納税手続きが、大幅に簡素化されると期待されています。

こうした事業環境の改善によって、国外からのインドへの直接投資(FDI)のさらなる流入・拡大が期待されます。このように、一連の構造改革は中長期的に経済成長率を押し上げる経常収支赤字の縮小、財政赤字の削減、インフレ率の低下といった経済のファンダメンタルズの改善として成果が現れています。

長期的な視点では、インドでは2050年まで総人口の拡大が続く上、若年人口の割合が高く、 労働力人口の拡大も続くことが見込まれます。この間、いわゆる“人口ボーナス”を享受できるのです。

また、モディ政権は誕生以来高い支持率を維持している上、今年2月に人口規模が最大のウッタル・プラデシュ(UP)州で行われた議会選挙で与党が勝利し、政権基盤が一段と安定感を増してきたことで、政権の長期化の期待も聞かれるようになってきました。

過去においては、インドの政争から構造改革が掛け声倒れに終わり、持続的な成長に至らなかったこともありました。しかし、モディ政権が長期安定政権化することで、混乱した政治状況とは大きく異なり、インドで構造改革を実現して行くリーダーシップが発揮されていくことになるでしょう。

構造改革が進み、経済成長に弾みがつけば、ポスト中国として世界経済の中心的プレイヤーになることが期待されます。インドは今、大きなチャンスを迎えていると言えるでしょう。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一