TPP交渉継続は合理的な行動か、コンコルドの二の舞か?

存在感を増すRCEPやFTAAPへの目配りを

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TPP会合のシラケ具合

5月19~21日、ベトナム・ハノイで米国を除いた11か国のTPP閣僚会合が開催されました。2013年7月に日本がTPP参加表明をして以来、日米主導で交渉が進められてきましたが、トランプ大統領就任後のTPP離脱宣言で日本はある意味はしごを外された形になりました。

今回の交渉は実質的に何も進展がなく、「前向きな検討が行われた」というだけで先送りされています。なんともいえないシラケたムードで閉会した印象です。

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米国の離脱で分断された各国の意思

TPPの正式名称は環太平洋戦略的経済連携協定で、12か国による貿易や投資の自由化を進める枠組みです。関税撤廃等により雇用創出、GDP押し上げ効果が期待されており、交渉参加国の人口を合わせると約8億人近く、世界のGDPの約36%を占めることになるため、発効すれば世界最大規模の自由貿易圏が実現する予定でした。

5年以上にわたって何度も先送りを繰り返してきたTPP交渉ですが、2015年10月に行われたアトランタでの閣僚会議で大筋合意に至りました。

そんな中での米国の突然の離脱。ゴールまであと一歩のところで振り出しに戻されたようなものです。大国であるアメリカ離脱による影響は大きく、予定していた貿易計画にズレが生じたため、各国にとってのTPPの位置付け自体が大きく変わってしまいました。

たとえば、米国の関税撤廃による輸出拡大が自国の最大のメリットだったベトナムやマレーシアにとっては冷や水をかけられたようなもので、当然合意に積極的にはなれません。一方で、米国の離脱で自国の乳製品や肉類輸出が有利になるオーストラリアやニュージーランドにとっては、むしろ歓迎すべき変化となったことでしょう。

すったもんだはあっても一つにまとまっていた各国が、今また別々の方向に向きつつあります。米国の離脱は、各国のTPP合意へのモメンタム(勢い)を奪い取ってしまったのです。

ゲームのルールを変えたもう一つの出来事

このような大国の行動で、グループ内のゲームルールが完全に変わってしまうことはしばしばあります。しかし、各国の意思がバラバラになった今、TPPを最終的に締結することは可能でしょうか? 個人的には各国をもう一度同じ方向に向かせるのは非常に難しいのではないかと思います。

その理由は、現TPPを発効するためには、米国の復帰や条件修正などにかなりの時間と不確実性が予想されるためです。そうした不安定な中で別の新しい貿易連携が登場すれば、乗り換えてしまおうとする国が多発するでしょう。

実際、RCEP(東アジア地域包括経済連携)やFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の存在感が増しており、貿易での利益を享受したいアジア地域諸国からすると、早く締結できる貿易連携を選択するのは至極自然のことなのではないでしょうか。

コンコルドの経済性

コンコルドの経済性とは、以前フランスとイギリスが超高速飛行機のコンコルドに対し「もったいない」という気持ちで投資を続けたことから名付けられました。

長い時間をかけて議論をした労力や費やした莫大な資金を考えると、最後までやり遂げなければならないという気持ちになりがちです。議論がどうしても「もったいない」論になり、続けてしまうことで本質が見えなくなり、しばらく経つとそのモノ自体が時代にそぐわないものになるというわけです。

そして、今回のTPPについても時間をかけて作り上げたものだけに、労力や資金が非効率に使われるのではないかと懸念されます。

今後、日本が取るべき貿易ゲーム戦略とは

昨年のブレグジット(BREXIT)やトランプ大統領就任など、欧米先進国では反グローバル化の流れがある一方で、アジアはグローバル化をテコにした経済発展の真っ只中にあり、現在世界はグローバル化という面で二極化する状況になっています。

では、TPPの進展が危ぶまれる中で、今後日本はどのような貿易戦略を取るべきなのでしょうか。

まずは、米国がグローバル化に再度舵を切る時を想定し、RCEPを通じた各国との貿易連携をなるべく早く進めることが大事です。すなわち、現在TPPと同時進行しているRCEPに集中して経済連携を進めるのです。

直近、USTR(米国通商代表部)代表として承認されたライトハイザー氏は、日本との取引をTPPではなく、FTA(二国間自由貿易協定)を通じて行うべきとしました。しかし、これでは米国と日本だけの相対取引になってしまうため、自国を優位に立たせることは簡単ではありません。偏った条件を呑ませれば貿易摩擦に発展することにもなります。

その代わりに、RCEPで合意をしてしまえば、貿易条件が固まるため、米国との交渉で余計な摩擦を最小限に留めることができるのです。

また、RCEPの場合、TPPのような労働市場の自由化などの交渉は含まれないため、比較的早く実現することが可能でしょう。下図はTPPとRCEPを簡単に比較したものですが、米国が離脱した今では市場規模や成長率など様々な点でRCEPの方が優るため、労力や資金をかけるならばRCEPが好ましいのです。

出所:NHK、各紙新聞、 国際貿易投資研究所 *世界のGDP 74兆ドルで計算

おわりに

先送りを繰り返し長い時間をかけて進めてきたTPPですが、日本がこれ以上進めることに大きなメリットが感じられません。そしてTPP交渉参加国も日本がいくら積極的に交渉を進めたとしても期待が薄いと感じてしまいます。

日本は、”コンコルド”にならぬようにしながら時間をかけてTPPへ突き進むのか、それともRCEPのようなその他の策を進めていくのか、慎重に見極めることが求められます。

齋藤 浩史

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齋藤 浩史

上智大学博士号中退、イギリスバーミンガム大学MBA
ゴールドマンサックスやその他外資/日系投資銀行で海外業務をおこなう。ヨーロッパ、中東、東南アジアの財務省や世銀との国際ビジネスに携わる。
現在、マサチューセッツ大学MBA講師のほか、ビジネス英語ライティング研修、英語プレゼン研修を企業や個人に提供、同時に都内大学や資格学校のLECでミクロマクロ金融・経済学を教える。
近著「外資系金融の英語」(中央経済社)