5月の米雇用統計は事前予想に届かったものの、米株式市場は最高値を更新するなどポジティブな反応となりました。ただ、債券市場にも買いが集まり、ドルも下落するなど、景気の先行きに対して自信を持てる内容でもなかったようです。

そこで今回は、米5月雇用統計の結果を整理し、株高・債券高・ドル安という、ちょっと微妙な結果を招いた背景と米金融政策への影響を探ってみました。

雇用者数は増勢鈍化のトレンドへと回帰

5月米雇用統計のポイントは雇用者数と賃金の伸びがともに減速していることを確認できた点にありそうです。

雇用者数の増加を年次で見ると、2014年の25.0万人(月平均)をピークに、2015年は22.6万人、2016年は18.7万人でした。この傾向を維持した場合、2017年は13.0万人から15.0万人程度となることが見込まれます。このトレンドに従うなら、年初の20万人弱から年末には10万人程度へと増勢が鈍化することになりそうです。

ただ、4月までは3月以外は20万人超の増加となり、このトレンドから上振れていました。それが、5月の雇用統計で5月分が13.8万人増に落ち着いたこと、さらに3月、4月分も下方修正されたことから、5月までの3カ月平均は12.1万人増となりました。

この数字は2014年以降での最小値となっており、ここ数年の低下トレンドへの回帰を示していると言えるでしょう。

賃金の伸びも失速

5月は賃金の伸びが鈍化していることも確認されています。2014年に2.0%程度だった賃金の伸び(前年比)は、2015年末には2.5%、2016年末には3.0%近くへと緩やかながらも着実に拡大していましたが、5月は2.5%と4月から横ばいとなりました。

賃金の伸びは物価との連動性が強いと考えられており、インフレ率も同様に弱含んでいます。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.2%上昇と2月の2.7%上昇から2カ月連続で伸び率が低下、変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数も4月は1.9%上昇と3カ月連続での低下となり、2015年10月以来、1年半ぶりに2.0%を下回っています。

インフレ率は景気の力強さを示唆している面もありますので、物価が弱いと景気が力強さを欠いている恐れがあります。

目先の安定を好感した株式市場、将来を懸念した債券市場

雇用や賃金の伸びが鈍化しているにもかかわらず、なぜ株価はポジティブに反応したのでしょうか?

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「長期的には、雇用者数の増加は7.5万人から12.5万人が整合的である」と述べており、これは安定的な成長には10万人程度の増加がむしろ好ましいことを示唆しています。

5月までの3カ月平均は12.1万人増ですので、米経済はまさに安定成長期に入ったと見なすことができ、景気の減速や後退を懸念する状況にはなさそうです。株式市場の反応は、近い将来に景気が後退する可能性が低いと考えられることへの安心感だったと言えるのかもしれません。

一方、債券市場では将来に対する警戒感が強まったことで金利が低下し、つられてドルも下落しました。

雇用者数の増加は年末までには10万人程度になる低下トレンドに乗っている可能性があり、賃金の伸びも低いことから、将来的にはパッとしない景気が訪れないとも限りません。また、家計調査の内容が今一つだったことも警戒感を高めた可能性がありそうです。

冴えない内容の家計調査を警戒へ

5月の雇用統計では家計調査の内容が精彩を欠きました。就業者が前月比23.3万人減少したほか、非労働力人口が60.8万人も増加しており、職探しをあきらめた人が急増した模様です。

5月の失業率は4.3%と16年ぶりの低水準となりました。ただ、仕事を探していないと失業者とはみなされませんので、非労働力人口の増加は失業率の低下要因となります。したがって、5月の数字は額面通りに受け止めるわけにはいかないようです。

また、フルタイムでの就業者数が減少し、パートタイムが増加している点も気がかりです。5月はフルタイムが36.7万人減少し、パートタイムが13.3万人増加しています。

就業者数の減少は若年層で顕著に見られ、25歳から34歳が25.3万人減、20歳から24歳も7.0万人減となり、35歳未満はどの年齢層でも減少しています。一方、55歳以上は7.4万人増、45歳から54歳も3.6万人増と高齢者の雇用はむしろ増加しています。

パートタイムの内訳では、経済的理由が減り、経済的理由以外が増えています。フルタイムでの仕事が見つからないからパートをしているのではなく、最初からパートを希望し、希望通りにパートをしている人が増えているということです。

こうして見ると、一見堅調そうな雇用統計の結果ですが、実は高齢者のパートが増えているだけであり、賃金の伸びが低いことにも影響している可能性がありそうです。家計調査での雇用の質、すなわち失業率の低下要因や年齢別の動き、勤務形態なども含めて考えると、5月の雇用統計は内容に精彩を欠いたと言えそうです。

年内あと2回の利上げは困難?

雇用者数の増勢は鈍化しましたが、成長の安定にはむしろ好都合であり、目先的な米景気は安泰と言えそうです。したがって、6月の利上げ見通しに変更はなく、13日・14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げが確実視されています。

ただ、増勢の鈍化が継続し、賃金の伸びも低迷を維持するようだと、景気の先行きも怪しくなってきます。5月の雇用統計は、6月利上げを前提に9月もしくは12月の追加利上げに確信を持てる内容ではありませんでした。むしろ精彩を欠いたことから年内あと2回の利上げには懐疑的となる結果だったと言えるのかもしれません。

LIMO編集部