「加熱式たばこ」の首都決戦が始まる

火を使わないため煙(タール)が出ないスモークフリーの「加熱式たばこ」に関するニュースが増えています。

日本の加熱たばこ市場で約90%、たばこ市場全体で約10%のシェアを持つとされる米フィリップモリス(以下、PM)が販売する「iQOS」(以下、アイコス)を追って、ケントなどのブランドで有名な英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(以下、BAT)や日本たばこ産業(2914)が販売を本格化するとされているためです。

現時点で、全国で販売されているのはPMのアイコスだけです。日本たばこ産業(以下、JT)は福岡県、BATは仙台市での販売に限定されていますが、JTは6月29日から東京で、BATは7月3日から東京と大阪で販売を開始するとしています。また、全国展開についてはBATが2017年末から、JTが2018年上期からとなっています。

販売競争が激化という表現にはやや違和感が

とはいえ、加熱式たばこ市場が大きく盛り上がっている、あるいは各社の販売競争が激化しているという一部のニュース報道には違和感があります。筆者がそのように考える理由は以下の3点です。

第1は、本格的な競争激化の兆しがまだ見られないことです。

アイコスの品不足は相変わらずで、コンビニでも入荷日が把握できない状態が続いています。また、メルカリや楽天などでは正規価格よりも高値で販売されています。かつての薄型テレビや携帯電話など民生エレクトロニクス市場での血まみれの戦いと対比すると、現在の加熱式たばこ市場は依然として売り手優位の市場です。

もちろん、今後は後発2社の参入により、喫煙者にとってはありがたい、“競争が激化した市場”に変貌していく可能性はあります。ただ、各社とも「品質を高めながら丁寧に市場を育て上げよう」とする姿勢が強いため、その可能性は現時点ではあまり高くないように思えます。

第2は、もはや喫煙そのものがマイノリティのものであり、喫煙者は片隅に追いやられているためです。日本の成人男性の平均喫煙率は、ピーク時の昭和40年(1965年)には80%を超えていましたが、その後一貫して低下を続け、2016年は30%を割る水準にまで低下しています。

既に男女合計では19%、喫煙人口約2,000 万人に留まるニッチな市場となっているのです。このため、加熱式たばこは喫煙者にとっては大きなニュースだとしても、日本全体で見るとマイナーな話題ということになります。

第3は、市場サイズが小さいことです。先行しているPMのアイコスですら、2014年の販売開始から3年が経過しても総出荷個数は約300万個程度です。

これは日本でのスマホの年間販売台数の約10%に過ぎないものです。また、昨年10月に発売されたばかりのソニーの仮想現実端末「プレイステーションVR」は既に100万台に達しています。

このように、ニュースなどでは「売れている」「人気がある」と報じられてはいるものの、他のコンシューマー向け製品と数量面で比べると、現時点での加熱式たばこは”小粒な製品”というイメージを持たざるを得ません。その実態は、話題先行のマイナーな市場における動きにすぎないと言えるのではないでしょうか。

価格面ではJTが優位