株価が堅調な日東電工、その背景は?

日東電工の足元の株価は、今年2月15日に付けた年初来高値9,859円に対して90%強の水準を維持しており、2006年2月3日の史上最高値10,890円を目指すような株価の動きが続いています。

2018年3月期の株価指標は、株価収益率(PER)が21.2倍、株価純資産倍率(PBR)が2.3倍と割安感はないものの、事業領域の拡大と増益基調の確度、連続増配期待から株価の動きは当面堅調に推移する可能性が高そうです。

株式市場では、日東電工など有機EL関連銘柄が物色されています。有機ELディスプレー(以下、OELD)は基本的に偏向フィルムを1枚しか使用しないため、2枚使いの液晶ディスプレー向け偏向フィルムの需要が下落すると考えがちですが、足元では中国の液晶パネル/TVメーカーによる大型液晶パネルの生産が旺盛で偏向フィルムの出荷は順調です。

また、核酸医薬の受託生産を中心としたライフサイエンス事業の利益が全体の22%を占める勢いが続いており(2017年3月期)、中期経営計画が目指す2020年3月期の営業利益1,300億円(今期予想1,000億円)の実現可能性は高そうだと市場が読んでいるのかもしれません。

経営説明会から読み取れる今後の戦略は?

2017年6月1日には同社の高崎秀雄社長による経営説明会が開催され、筆者も参加しました。そこで発表された2018年3月期から2020年3月期まで3カ年の中期経営計画「Jitsugen-2019」は、事業ポートフォリオ変革、継続的構造改革、4,000億円の資源投入の3つの柱を立て、売上高9,300億円(今期予想8,000億円)、営業利益1,300億円(同1,000億円)を目指す内容です。

特に注目されるのは、資源投入のうち1,200億円をM&Aに振り向ける計画であることで、こうした打ち出し方は初めてと同社長は語っていました。新規事業の核酸医薬事業の拡大を企図して積極的な買収戦略に踏み切る意向と見られます。

一方、次世代のOELDに関しては、世界のスマホ出荷に占めるOELDの比率が2017年度で30%、2022年度で50%前後と同社では予想しています。

また、OELDに占めるフレキシブル化は2017年度で50~60%、2022年度で95%程度と見ており、偏向フィルムの枚数は半減するものの、光学粘着シート、フォースセンサー(蒸着ITOフィルム)反射防止膜、タッチセンサー等、新たな需要のチャンスが増えると読んでいるようでした。

ライフサイエンスへの積極的な取り組みで第3の柱へ

同社のライフサイエンスセグメントの事業規模(2017年3月期実績)は、売上高409億円、営業利益214億円と、営業利益では前期比9.3倍と急増しました。これはブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)からの肝硬変治療薬ライセンス供与一時金の収入があったことが主因で、それを除く約300億円が医薬事業の規模です。

その内容としては、同社が米国で買収したNitto Denko Avecia社の核酸医薬受託事業が大半であり、同社は核酸医薬受託事業で世界の60~70%のシェアを有していると推定されます。

中期経営計画によると、核酸医薬の受託に留まらず創薬にも事業領域を拡大し、治験の初期段階(Phase-1)を経て大手医薬企業への導出(供与)などによる規模拡大を狙っています。

期待される事業規模は、2016年度実績300億円に対して中計最終年度の2019年度に600億円、2025年度にはM&Aなどの効果も考慮して3,000億円規模を目指していると見られます。3,000億円規模というのは、現在のインダストリアルテープ事業に匹敵する規模で、オプトロニクス、インダストリアルテープの各セグメントに次ぐ第3の柱となることが期待できそうです。

石原 耕一