アジア最後のフロンティア、ミャンマー進出でつまづくのはこんな時

日本人が新興国ビジネス開拓で心掛けるべきことは?

世界の多くのビジネスマンや投資家がアジアに注目するのは、やはりアジアのマーケットの規模とその成長性への期待があるからです。日本企業も引き続き、新興アジア諸国のマーケットを開拓しようと必死ですが、今、視線の先にはミャンマーがあります。

実際、東洋経済新報社の「海外進出企業総覧(国別編)2017」によると、2011年から16年までの5年間で日本企業の増加率が最も高かったのがミャンマーで、その増加率は855%にも上ります。

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しかし、グローバル戦略の絵は描けても具体的にミャンマー事業のオペレーションに落とし込んで行こうとすると、厄介な問題もあるようです。当地で日本人が「NATO(No Action Talk Only、話ばかりで行動しない)」と揶揄されてきたことは有名ですが、日本人が投資に慎重にならざるを得ない理由はそれなりにあるようです。

今回は、ミャンマービジネスに挑む際の基本的な留意点について考えたいと思います。

自社にとってのミャンマー事業の戦略目標を徹底的に詰める

自社にとってミャンマー事業とは何か。真の目的は何か。かつて、NIEs、中国、ASEANへ進出した時代には、その検討が必ずしも徹底されていない会社が多かったのではないでしょうか。マスコミやセミナー等によって盛り上げられた雰囲気が、経営者の決断に大きな影響を与えてきたことは否定できないでしょう。

ミャンマーでは、大手製造業にとっては安価な労働コストを求める伝統的なビジネスモデル再来の可能性は否定できませんが、だとすると、その行き着く先はどこでしょう。ミャンマーの労働者の人件費は先行きどうなっていくのでしょうか。

一方、国内消費マーケットの獲得を目指すサービス業などにとっては、一人当たりGDPはまだ1,374米ドル(2017年4月、IMF推計)ですから、今後の伸びに漠然とした期待感は生まれやすいでしょう。しかし、これがどれほどのスピードで上昇していくのかが重要なポイントになります。

ビジネスの現場では、そうした検討を重ね、自社の経営ビジョンに照らしながらミャンマー事業のコンセプトを策定し、真の戦略目標を練り上げてくことが求められています。

また、現地パートナーとの軋轢や衝突、マクロ経済を含む外部環境の変化等、戦略実行を阻む各種リスクを睨みつつ、シナリオによって柔軟に対応できるような戦略策定、すなわちシナリオ・プランニングが一つの鍵ともなるでしょう。

統計データには過度に頼らない

一般に新興国の統計データは信憑性に疑問がもたれるケースが多いですが、ミャンマーにおいても、その事情は変わりません。

たとえば、ミャンマーでは1983年以降、正確な人口調査が実施されていませんでしたが、2014年に「人口センサス」(2014年8月速報値発表、2015年5月修正/詳細発表)が実施されました。

この結果を見て不思議に感じる点は、第1に、ミャンマーの全人口が2010年の5,978万人から2014年の5,149万人と、この4年間で829万人(▲14%)も減少していることです。第2に、年代別では、2014年には10~14歳が最多層を形成していますが、5~9歳以下および4歳以下の若年人口が減少しています。

人口減に伴い、一人当たり名目GDPは、2010年度:998米ドル→2014年度:1,502米ドルへと上昇しています。この数値は、2014年時点であたかもベトナムの2,073米ドルにキャッチアップしつつあるような印象を与えますが、ベトナム経済の盛り上がりをご存知の方なら何となく疑わしいという感覚は拭い切れないでしょう。

一般にミャンマーは低廉かつ豊富な労働力や市場の潜在成長力が魅力だと言われますが、仮に2014年人口センサスの通り、ミャンマーの9歳以下の人口が本当に減少しているとすれば、将来の若年労働力の供給面が懸念されます。やはり、日本を含む先進国のビジネス感覚だけでは、統計データの嘘を鵜呑みにしてしまうリスクはあります。

ちなみに、この件の背景として、2014年人口センサスを実施する直前に「出生届け制」が確立し、届け出に基づき人口が把握されるようになりました。しかし、地方では役所まで遠いことや届け出のメリットがないため、ほとんど届けがなされていません(出所:ミャンマー教育省へのヒアリング)。

現地情報を足で稼いで五感で実現可能性を見極める

統計データが当てにならないとすれば、ミャンマー事業のフィージビリティ(実現可能性)調査を進める場合、相応の時間とコストをかけて独自に現地調査することを推奨します。

短期間の現地出張だけでは限界はありますが、それでも可能な限り経営者自らが一次情報を得るようにすべきかと思います。そして、入手した生の情報を基に自らの五感を研ぎ澄ませてフィージビリティ調査を見極めていくことが重要です。

なお、過去、日本人が繰り返してきた「視察会」なる表面的な現地調査では、あまり意味がないことは少しずつ認知されてきているかと思います。そもそも検討段階において自力で現地を動き回れないようでは、進出後の現地経営は覚束ないことを自覚し、お膳立てされた視察会に基づいて経営判断することだけは避けるべきでしょう。

法的リスクを甘く見ない

ミャンマーでは、外国投資関連法の改正(2012年)、新政権発足、投資セミナー等を背景に、投資環境改善の機運は高まりつつあります。

しかし、1990年代中盤のミャンマー投資ブームの後に外国投資が低迷した時期、在ミャンマー日系企業にとって深刻だったのは、「法」と「法の執行」とのギャップ、行き過ぎた行政裁量等といった法令適用の問題でした。

法令適用の問題は行政能力に起因する面もあるため、たとえ法令が素晴らしくなったとしても、当面は慎重に考えざるを得ません。ミャンマーの法的リスクを甘く見てはいけないのです。

最後に、今後、行政機関の努力によりミャンマーの投資にかかる法的リスクが抑制され、その中で多くの日本企業がミャンマーとウィン-ウィンの関係をうまく築いていかれることを願っています。

大場 由幸

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大場 由幸

新潟大学法学部卒業、フィンランドAalto大学(元Helsinki School of Economics)Executive MBA取得。
専門は新興国における中小企業金融、中堅・中小企業のアジア戦略・財務。
中小企業金融公庫(神戸支店、宇都宮支店、本店国際デスク)、在ベトナム日本国大使館 専門調査員、UFJ総合研究所 国際本部チーフコンサルタント、東京中小企業投資育成 アジアデスク統括マネジャー、クロスボーダー・ジャパン(株)代表取締役社長を経て、2012年12月、マレーシア(ジョホールバル市)へ。現在、新興アジア諸国にて地場中堅・中小企業/起業家向け金融支援プロジェクト、戦略コンサルティング等に従事。